今の時期につらい花粉症。
花粉を出さない「無花粉スギ」や花粉が少ないスギへの植え替えが各地で進んでいます。
無花粉スギの中でも成長が早い「エリートツリー」の研究が、神奈川県で本格的に始まることになりました。
国民病とも言われる花粉症対策の切り札になるのか。花粉症に苦しむ記者が取材しました。
一見ふつうのこちらのスギの木ですが、実は花粉を出さないだけでなく、成長も早いという花粉症対策のエリートツリーの候補です。
無花粉スギの中でも成長が早いエリートツリー候補の木々が、南足柄市の県有地に900本余り植えられています。
研究を中心的に進めるのが、県自然環境保全センターの齋藤央嗣さんです。
神奈川県は首都圏の西側にあるので、花粉飛散の発生源になりやすい地域です。ここで花粉発生源の対策をすることで、神奈川県民だけでなく東京などに行く花粉量も、抑制できると考えています。
齋藤さんにエリートツリーの元になる無花粉スギの特徴を教えてもらいました。
上の写真は、左側が通常のスギの雄花、右側が無花粉スギの雄花をすりつぶしたものです。
普通のスギはペンチでつぶしてみると、黄色い花粉がたくさん出てきました。
一方、無花粉スギをつぶすと茶色い液が出てくるくらいです。花粉は全く出てきません。
無花粉スギは自然界に5000本に1本程度、突然変異で生まれるとされます。
齋藤さんたちは20年前、県内産のスギの中から初めて見つけ出し、生産拡大に取り組んできました。
そのなかで、人工交配のしかたを工夫し、種子から育てる方法を開発。
量産化にもめどをつけました。
次に目指しているのが、成長が早いエリートツリーを生産して、スギ林の植え替えを進めることです。
きっかけは南足柄市の県有地に無花粉スギを植えてから4年後、ある特徴に気づいたことでした。
通常は植えてから5年で、良い条件下でも2、3メートルほどの高さですが、平均樹高が4点4メートルまで伸びていて、非常に成長性がいいことがわかったのです。
さらに、植樹から10年が経ったことし1月に再び計測すると、良い条件下でも通常6、7メートルの高さになるはずが、900本余りの木々は平均で10メートル以上に育っていました。
成長の早さはおよそ1点5倍です。
齋藤央嗣さん
最大の樹高で14点3メートルに達しています。
ふつう14メートルといったら20年以上の個体でないと出ません。
相当成長が早いです。
この成長の早さについて、齋藤さんは親となるスギの品種が優良だったことや、土壌の環境などが影響したのではないかと考えています。
このチャンスを生かし、花粉症対策を加速させる研究を進めることにしました。
研究では、高さや太さを吟味して、まず20本程度を選抜。
その上で、専用の機器で樹木の密度を調べたり、DNA鑑定で遺伝子を調べたりすることで、さらに優良な品種を選抜し、「エリートツリー」として「挿し木」で増やす計画です。
5年後にはエリートツリーを出荷できるようにして、スギ林の植え替えを進めることが県の目標になっています。
齋藤央嗣さん
花粉症は、全国的な問題なので、できる限り優良な個体がとれれば、普及もより早まり、結果的に花粉症も早く解決できると思います。軌道にうまく乗ってくれればなと思っています。
県は2012年には全国で初めて、「無花粉ヒノキ」も発見していて、生産と出荷を始めています。
取材した私も重度の花粉症です。大量の花粉を浴びた取材はつらく、その日はくしゃみが止まりませんでした。今後エリートツリーをはじめとした無花粉スギがさらに普及して、花粉症に苦しむ人が少なくなる日が来るのを願っています。