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横浜F・マリノス もう一つのチームで居場所を見つけて

  • 2023年05月16日

Jリーグが開幕してから30年。J1の横浜F・マリノスでは、障害がある人たちでも気軽にサッカーを楽しんでほしいと、知的障害者のサッカーチームを運営しています。このチームで前向きに社会とつながる男性とそれを応援する横浜F・マリノスの思いを取材しました。

知的障害者が社会と関わる“居場所”を

フトゥーロの練習風景

去年のJリーグ王者、横浜F・マリノス。
Jリーグの各チームの大きな目標は、チャンピオンを目指すことですが、それだけが果たす役割ではありません。
地域に根付くチームとして、さまざまな地域の課題を住民や企業などと一緒に解決する「シャレン・社会連携活動」にも力を入れています。
このクラブには、J1で唯一の知的障害者サッカーチーム「横浜F・マリノスフトゥーロ」があります。
フトゥーロは、Jリーグ開幕(1993年5月15日)から11年後の2004年に創設されました。
当初20人ほどの選手でスタートしたチームには、いま中学生から社会人までの選手およそ100人が在籍しています。

斎藤幸宏コーチ

“地域の誰もがスポーツを楽しめる環境を作りたい”
このチームでコーチを務める斎藤幸宏コーチは、チームが目指す理念についてこう語ります。

斎藤幸宏コーチ
「障害があるとかないとかは関係なく、いろいろな人たちにスポーツができる楽しさとか、スポーツで夢が叶うとか夢を見れるとかいうことをするのが我々が地域の方たちにできることかなと思っています」

障害の程度やサッカーの能力に合わせて、AからEまでの5つのクラスに分かれています。
一度に多くのことばを並べて指導しても理解することが難しい選手もいるため、コーチ陣が意識しているのが指導の「わかりやすさ」です。
短いことばや単語をシンプルに伝えることで指導の意図を伝えます。
また、ジェスチャーを多く取り入れることで視覚で理解しやすくすることも大切にしています。

斎藤幸宏コーチ
「伝え方は工夫していることもありますが、自分が熱を持って指導していくということはずっと変わらないです。そこは特徴を持っていようがいまいが関係なく、こうしてほしいという思いを伝えるようにしています」

障害がある自分にも居場所がある

高松将吏選手

横浜市に住む高松将吏選手(18)は、中学2年生で入団し、ディフェンスやボランチとして活躍しています。

小学生のときの将吏選手

知的障害とわかったのは小学1年生の時でした。
母親によりますと、通っていた保育園側から、集中すると突発的な行動に出たり、先生の話を落ち着いて聞いていられなかったりするといった指摘を受けたことがあったということです。
気分が変わりやすかったり、機嫌が悪くなって学校の外に飛び出してしまったりしたことも。

そんななか、保育園時代の友だちに誘われて初めてサッカーをしたのが小学1年生の時。
「その友だちと同じサッカークラブに入りたい」と、入団を申し込みました。

ところが、そこで“健常者と一緒にサッカーをする”という壁が立ちはだかりました。

そのクラブからは入団を拒否され、「障害のある子を受け入れたことがないため入団させることはできない」という理由でした。
半年もの間、入団できるクラブを探し続け、小学2年生の時にようやく見つかったのです。

小学生時代の将吏選手

入団後も、困難は続きました。
あいさつをすることが苦手で、チームメイトとのコミュニケーションもうまく取れず、苦労することも多かったと言います。
また、ルールを十分に理解できず、練習や試合を途中でとめてしまうこともありました。

困難を抱えながらもプレーを続けていた将吏選手に転機が訪れました。
チームへの受け入れを断られたことを聞いて気にかけてくれたサッカーチームのコーチが、中学生以上から入団できるフトゥーロの存在を教えてくれたのです。

「周りも知的障害がある選手たち。安心してプレーできる」
コミュニケーションに不安を抱えていた将吏選手は自分にとって心強いチームだと感じ、入団することを決意しました。

将吏選手(左)

はじめはあいさつができなかったり、声を出せずに失敗したりすることもありましたが、比較的年齢が近いチームメイトや社会人のチームメイトたちが積極的に話しかけてくれたことで、徐々にチームに溶け込んでいきました。
日頃の練習や試合、それにコーチやチームメイトとのふれあいを通じて、苦手だったあいさつをするようになり、コミュニケーションも自分から少しずつ取れるようになりました。

チームメイトとコミュニケーションを取る将吏選手

将吏選手
「フトゥーロではサッカーで勝つということももちろんですが、みんなで楽しくサッカーができている。社会人になって大変なことだったりとか、学生と社会人の違いだったりとかも先輩から教わってきました。僕も後輩とたくさんコミュニケーションを取っていきたいです」

斎藤幸宏コーチ
「将吏は、誰にでも優しく、サッカーを楽しもうという姿勢がいいところです。今は彼より若い子たちもいっぱい入ってきているので、コミュニケーションも自分から取ろうとしていて、『自分がチームを引っ張る』という責任感も出てきたと感じます」

将吏選手は、ことし3月に高校を卒業し、4月から、チームの先輩から教えてもらった会社で社会人として働き始めながら、サッカーを続けています。
将吏選手にとってフトゥーロは、前向きに社会とのつながりを持ついわば大きな“居場所”となっています。

将吏選手
「チームメイトの友だちに会いたいという気持ちもありますし、働いても続けられる楽しみになっています」

“サッカーを楽しむ”すそ野を広げたい

にじいろくらすの練習風景(写真提供:横浜F・マリノス)

中学生から社会人までが在籍するフトゥーロですが、これまでの実績を生かし、知的障害のある小学生を対象にした「にじいろくらす」を去年(2022年)開講し、さらに活動を広げています。
高松選手のように「小学生のときからスポーツをする環境がほしい」という地域の保護者からの声が寄せられたのがきっかけでした。

にじいろくらすの練習風景(写真提供:横浜F・マリノス)

現在、小学1年生から6年生までの14人が通っています。
指導には、フトゥーロのコーチらも加わっています。
ゴールに色カードを下げてその色を頼りにゴールさせるなど、小学生向けにより分かりやすく伝える工夫をしています。  

特別支援学級に通う小学3年生の子どもの母親
「あっちこっち、などのあいまいな指示が理解できないので、習い事は難しいと思っていましたが、にじいろくらすでは指示が明確で、一人一人に寄り添った声かけをしてくれるので、子どもも安心して楽しんでいます。にじいろくらすを通して自信がついたのか、学校で、自ら通常学級の同級生と交流するようにもなりました」

斎藤コーチは、にじいろくらすを始めたことで、小学生から大人まで一貫してサッカーを楽しめる環境ができたと手ごたえを感じています。

斎藤幸宏コーチ
「今後も、知的障害のある人たちだけでなく、幅広い世代や障害の有無を問わずサッカーを通して生活を豊かにする活動を続けていきたいです」

  • 高橋哉至

    横浜放送局 厚木支局記者

    高橋哉至

    平成30年(中途採用で)入局。 初任地は宇都宮。厚木支局で 地域の課題や、スポーツ関連の話題を取材。

  •  勝田真季

    横浜放送局 ディレクター

     勝田真季

    「ゆうどきネットワーク」「ひるまえほっと」などを経て、令和2年に横浜局へ。福祉やスポーツの取材が多く、パラリンピック特集番組なども担当。

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