新十両で迎えたことしの初場所で、12勝3敗の好成績をあげた大磯町出身の「湘南乃海」。
3月12日に始まった大相撲春場所(大阪)では、さらなる飛躍が期待されます。
湘南・大磯が生んだ期待の大器のこれまでの歩みや、今場所での意気込み、将来の夢について取材しました。
(横浜局/カメラマン 鳥越佑馬)
湘南乃海 桃太郎(しょうなんのうみ ももたろう)
神奈川県大磯町出身の24歳。父親が野球の指導者をしていたこともあり、町立大磯小学校で少年野球を始めました。地元の野球チーム「大磯山手スパークス」では、エースとして活躍しました。小学6年生で、すでに身長が189センチあり、将来は、プロ野球選手になることを目指していました。
大磯中学でも野球に打ち込みましたが、けがも重なり、満足がいく結果を残すことは出来ませんでした。中学3年になると、高校野球の強豪校からも誘いを受けるようになりましたが、親戚の知人に相撲関係者がいたことから、進路のひとつとして相撲部屋を見学しました。
複数の部屋から勧誘を受けた結果、「弱い自分を変えるため」、厳しい稽古で知られる高田川部屋への入門を決めました。
(親が)「相撲も見て、野球も見て、自分で選びなさい」と言ってくれたんで、相撲を見に行ったところ、あれだけ野球が好きだった自分が相撲に飲み込まれていました。こういう世界もあるんだ、男だったら、自分の人生をがらっと変えるために、弱い自分を変えるために行こうと思って、覚悟を決めました。
どうせ入るんだったら、角界で一番厳しいと言われる高田川部屋で自分を変えるんだという気持ちでした。
相撲界で成功することで、厳格な父親に認められたいという気持ちもありました。
中学卒業後の2014年3月に入門したのは、東京都江東区の高田川部屋です。高田川部屋の師匠は、通算16個の金星獲得や19回の三賞受賞(いずれも歴代最多)を成し遂げた元関脇 安芸乃島です。
高田川部屋では、「将来の日本人横綱を育てる」をモットーに、中学卒業後に入門した“叩き上げ力士”が多く在籍しています。
野球一筋で相撲は未経験でしたが、15歳で大相撲力士としての人生が始まりました。出身地の大磯町にちなみ、高田川親方がしこ名を「湘南乃海」と名付けました。
2014年の春場所で初土俵後、順調に出世を重ね、2016年の九州場所で18歳で早くも幕下に昇進しました。10代での関取昇進も期待されましたが、ここから十両の高い壁に苦しみます。
2016年、18歳での幕下昇進後、なかなか関取への昇進が叶いませんでしたが、部屋では、50代になった今もまわしを締め、胸を出す親方や、関取として活躍する3人の兄弟子たち(竜電・輝・白鷹山)が稽古を付けてくれました。
そして2022年、幕下筆頭で迎えた九州場所で5勝2敗の好成績をあげ、ようやく十両昇進を決めました。
大磯町出身として初めての関取の誕生で、役場には新十両昇進を祝う横断幕が掲げられました。
師匠からは「関取に早くあがることではなく、最後にどこにいるかが勝負だ」と言われていました。兄弟子にもたくさん稽古を付けてもらいました。15年間大磯町で、近所の人たちや大磯のみんなに育ててもらいました。これから相撲で恩返ししていきたいです。新十両まで時間がかかった分、もたもたせず駆け抜けていきたいと思います。
新十両として迎えたことし初場所、湘南乃海は大活躍します。得意の左四つでの相撲や大きな体を生かした突き押しが決まり、徳勝龍や炎鵬など幕内で活躍した実力者から白星をあげ、新十両の場所で12勝3敗の好成績をおさめました。しかし、反省点もありました。元大関の朝乃山との対戦です。
朝乃山が幕下に転落後、3度の対戦がありますが、1度も白星をあげていません。元大関の実力者とはいえ、これから幕内への昇進を目指す上で避けては通れない相手です。
初場所では、湘南乃海が得意の左四つの形になるなど、湘南乃海に有利な体勢での相撲となりましたが、気の緩みが出てしましました。朝乃山がすかさず放った出し投げで、優位の体勢を崩され、最後は寄り切られました。
(朝乃山に対し)左を差し勝ったんで、うれしくて、勝ったと思った時に自分の気持ちがひとつ浮いてしまい、変な欲が出てしまいました。
勝ったと思ってしまったところが自分の弱さであり、負けた理由だと思います。
来場所からは切り替えて、先場所12勝3敗したという意識じゃなくて、また新十両の気持ちで挑戦します。
十両に昇進後、生活も大きく変わりました。これまで先輩の関取の付き人を長く務めてきたましたが、十両昇進後は自分が付き人についてもらう立場になります。
これまでの大部屋から、個室での生活になりました。稽古や筋トレの疲れをゆっくりと癒やすことができるようになりました。
同じ部屋の若者頭・前進山(横浜市金沢区出身)さんからは、昇進のお祝いとして、大型テレビが贈られました。
自身の取組や対戦相手の研究に役立てています。
長年付き人を務めてきた兄弟子の「竜電」からも、ワニ革製の財布が贈られました。
6年ほど付き人をさせてもらっていた竜電関からクロコダイルのすごいいい財布をいただきました。これからずっと使っていきます。
湘南乃海の趣味は音楽鑑賞です。入門時は同じ湘南エリア出身のグループ「湘南乃風」の楽曲をよく聴いていましたが、今、夢中になっているのは「サザンオールスターズ」です。
「エロティカセブン」や「波乗りジョニー」など、時折、歌詞を口ずさみながら、その魅力を熱弁してくれました。
昔はサザンの良さがわからなかったんですが、二十歳超えたころから「秘密のデート」を聴いて、少しずつ好きになって、今はもうサザンが大好きです。歌詞のひとつひとつがかっこいいなと。落ち着きますし、癒やしになります。
新十両で大活躍した湘南乃海ですが、師匠・高田川親方はさらなる成長を期待しています。
まだまだ立ち会いに甘いところがあるので、立ち会いをもっと厳しくして、相手の中に、あの大きな体を入れて、一気に吹っ飛ばすくらいのところが出てくれば、おのずと番付も上がっていくと思います。
体の素質は十分ですから、あとはどう努力するか、どういうものを目指していくのかを自分の中で見つけていってもらいたいと思います。
(大磯の)おやじに認められるっていうのが自分の中では目標ですけど、横綱にならないと認めてもらえない節があるので、おやじに認めてもらえるように横綱を目指します。いつかお前よくやったって言われるように、そんな気持ちです。
最後に良かったなと思えるように、自分でこの相撲人生をよくしていきたいです。