2022年夏、厚木市で幼いきょうだいが車に放置されて死亡した事件から半年あまり。
きょうだいの母親の裁判が、横浜地裁小田原支部で開かれています。
裁判2日目となった3月1日は、事件への認識などを母親に直接たずねる「被告人質問」が行われました。母親の受け答えから見えてきたのは事件前から「放置」を繰り返していた事実や、危険性に対する認識の甘さでした。
長澤麗奈被告(22)は、2022年7月、厚木市内の交際相手の家を訪ねた際に、駐車場に止めた車の中に、長女の姫梛ちゃん(2)と弟の煌翔くん(1)を放置して死亡させたとして保護責任者遺棄致死の罪に問われています。
当時、最高気温は30度を超える真夏日でした。
車内は高温となり、亡くなった2人の死因は熱中症によるものでした。
被告人質問は午前10時半から始まり、休憩を挟みながら午後5時ごろまで続きました。
検察官や弁護士、それに裁判員などから多くの質問が出されたのに対し、母親は、ことば数は多くはないものの、ときおり声を詰まらせながら、事件以前の子育てに対する考え方や現在の心境について述べていました。
母親は、きょうだい2人をうんだあとに夫と離婚。
厚木市内で実の母親とも一緒に暮らしながら、2人の幼いきょうだいを育てていました。
一方で、事件が起きる前には、車に子どもを置き去りにして警察から注意を受けたこともありました。
事件前の生活ぶりや子どもとの関係について、検察官や弁護士とのやり取りの中で、母親は次のような趣旨の証言を述べました。
事件以前にも、エアコンをつけっぱなしにして7~8回、子どもだけを車に残していったことがあった。
事件のおよそ3週間前には、買い物に出かけた際、1歳の弟を車の中に放置したとして警察に注意を受けた。
当時、寝ついたばかりで起こしたらかわいそうだと思い、窓を開けた状態で車を離れた。
5分くらいで戻るつもりだった。
駆けつけた警察官からは「母親としての自覚あるの?」と怒鳴られるように注意された。
当時は、車に放置することが虐待だとは思っていなかった。
虐待というのは、子どもの面倒を見なかったり、食事を与えなかったりすることだと思っていた。
夫と離婚した後、子どもを育てていくために仕事を探していた。子どもたちを室内の有料の遊び場や動物園、水族館にも連れて行きたかった。
事件の当日に面接を受け、その場で採用が決まっていた。
この事件では、本当は交際相手の自宅近くの駐車場にとめた車の中にきょうだいを放置していたにもかかわらず、消防への通報の際や警察への事情説明の際に、「公園に3人でいて、30分くらいエアコンを切って窓を開けていた」とうその説明をしていたことが分かっています。
事件前後の状況や、当時の認識についても多くの質問が出されました。
弁護士「車のエアコンの効きは?」
母親 「効きが悪いとは思いましたが、自分の体感ではちょうど良いと思いました」
弁護士「交際相手の家にはどうして行こうと思った?」
母親 「子どもたちのために作ったクッキーが余ったから届けようと思いました」
弁護士「交際相手の家に着いて、子どもたちにはなんと声をかけた?」
母親 「『ちょっと待っててね』と言いました」
弁護士「エアコンをつけたまま車を離れて、その後どうなると思った?」
母親 「温度、下がると思いました。設定を最低温度にしていたので」
弁護士「交際相手の家ではどのように過ごした?」
母親 「10分から15分くらい話しました。帰ろうとしたら手首をつかまれて。前日に交際相手とけんかをしたばっかりだったので、仲直りできた喜びもありました」
弁護士「子どもは気にならなかった?」
母親 「気になりました。エアコンのスイッチを子どもがいじるかもしれないとも」
弁護士「どうして戻らなかった?」
母親 「いつも大丈夫だからです。きょうも大丈夫だと思いました」
弁護士「以前、児童相談所からも放置について注意を受けている。だめだと思わなかった?」
母親 「エアコンをつけていたら大丈夫だと思いました」
検察官「子どもたちが倒れているのを見つけたあと、電話をかけた母親に対して『公園にいた』とうそをついている。どうして?」
母親 「交際相手の家にいたと言ったら、怒られると思いました」
検察官「119番通報をした際にも『放置はしていない』と答えている。どうして?」
母親 「放置はしていない、と思いたかったんだと思います」
検察官「車に子どもを残すことについてどう思っていた?」
母親 「今はダメだと思っています。当時は思わなかったです。暑いと熱中症になっちゃう。小さい子どもは母親の私に伝えられないので危険だと思います」
2月28日の初公判や3月1日の被告人質問でも、ときおり法廷で涙を流していた母親。
被告人質問で亡くなった子どもたちのことについて話が及ぶたびに、声を震わせてうつむきながら受け答えをしていました。
弁護士「いまは、どう思っている?」
母親 「罪を償いたいと思っています」
弁護士「2人にどんな気持ち?」
母親 「会いたいし、会いたいです。会いたい。ちゃんと謝りたい。もっと大切に出来たのに、母としての自覚が薄かった・・・。もっと楽しいことさせてあげられたのに。それを奪ったので申し訳ない気持ちでいっぱいです」
検察官「罪を償うとは、あなたにとってどういうこと?」
母親 「事件前の放置を含め、いけないことをしてきたから、そのことについて罪を償いたいです」
検察官「どうしたら、亡くなった子どもたちはママに向き合ってくれると思う?」
母親 「自分が頑張っている姿を見せることです」
3月2日の裁判では母親の両親が証人として法廷に呼ばれ、弁護士や検察官からの質問を受けることになっています。
続いて、検察からの論告と求刑、弁護士からの最終弁論が行われ、結審する予定です。
判決は3月8日です。