2022年夏、厚木市で幼いきょうだいが車に放置されて死亡した事件から半年あまり。
きょうだいの母親の裁判が横浜地裁小田原支部で2月28日から始まりました。
裁判は3月1日、2日も開かれ、判決は3月8日に言い渡されます。
親子の間に何があったのか。事件はどうして起こったのか。
全4回にわたって開かれる裁判を詳しくお伝えします。
長澤麗奈被告(22)は、2022年7月、厚木市内の交際相手の家を訪ねた際に、駐車場に止めた車の中に、長女の姫梛ちゃん(2)と弟の煌翔くん(1)を放置して死亡させたとして保護責任者遺棄致死の罪に問われています。
当時、最高気温は30度を超える真夏日でした。
車内は高温となり、亡くなった2人の死因は熱中症によるものでした。
母親の裁判員裁判は2月28日から、横浜地裁小田原支部で始まりました。
法廷に現れた母親は、グレーの腰まであるトレーナーに黒のズボンをはいていました。
黒い眼鏡をかけ、髪はポニーテールにした状態で、裁判が始まった直後から、泣いていたり、ハンカチで涙を拭ったりする様子も見られました。
検察官が起訴状を読み上げたあと、裁判長は母親に対し起訴された内容についてたずねました。
身に覚えはありますか?
はい
間違いはありますか?
間違いないです
ここは違うという点はありますか?
ないです
冒頭陳述の中で、検察はまず、事件が起きるまでの生活状況などについて説明しました。
母親は、きょうだい2人を生んだ後に離婚し、実の母親とも一緒に暮らしながら2人の子どもを育てていた。一方、事件が起きる前にも、車に子どもを置き去りにしたことがあった
続いて、事件当日の状況についても説明します。
事件当日は、交際相手の家の近くに車を止めて、エンジンを付けっぱなしにし、効きの悪いエアコンはつけていた。しかし、この場所は日差しを遮るものがない場所にも関わらず、2時間44分にわたって置き去りにし、母親本人は、当時付き合っていた交際相手に会っていた
交際相手の自宅から車に戻ったところ、子ども2人がぐったりしているのに気が付いた母親は、きょうだいの祖母にあたる自分の母に連絡を取ったり、消防に通報したりしたが、『公園に30分くらいいたら意識不明になった』などとうその説明を繰り返した
そのうえで、次のように、厳しいことばで主張を述べました。
2名の幼い子どもが亡くなった事実は重大で、過去にも放置して警察に注意されていたにもかかわらず同じ事を繰り返した。事件後もうその説明を繰り返すなど悪質だ
一方、母親の弁護士は、主張を述べる前に、裁判官や裁判員たちに向かって、「ほんの少しなら大丈夫だろう、と思ってしてはいけないことをしたことはありませんか」と問いかけました。
続けて、母親本人は罪を認めていて事実に争いはないとした上で、事件前までの親子関係や事件当日の事情について、次のように述べました。
事件前、子ども2人の養育状況に問題は無く、母親は愛情を持って育てていて、虐待もなかった
この日は自分の車が修理中で、代車を使っていた。エアコンをつけたままにしておけば大丈夫だと考えて車に残していった。短時間で車に戻る予定だったが、交際相手から引き留められたり、自分自身も眠ってしまったりしたために、2時間44分の放置につながった
母親が事件を起こしてしまった状況や、現在の反省の様子などをよく踏まえて、刑の重さを判断して欲しい
この事件では、本当は交際相手の自宅近くの駐車場にとめた車の中にきょうだいを放置していたにもかかわらず、消防への通報の際や警察への事情説明の際に、「公園に3人でいて、30分くらいエアコンを切って窓を開けていた」とうその説明をしていたことが分かっています。
母親本人が119番通報をした際の音声データも、きょうの法廷では証拠として流されました。
その一部です。
消防「火事ですか?救急車ですか?」
母親「救急車!」
消防「場所は?」
母親「わかんない!」
消防「わかんない?」
母親「ぼうさいの丘(公園)!」
消防「どうしたのか?だれが具合悪いの?」
母親「車の中にいて。熱くなっちゃって。子ども2人」
消防「どうして息をしていないの?」
母親「とにかく一緒にいたけど」
~中略~
消防「意識が無いの?」
母親「意識が無い」
消防「心臓マッサージしてください」
母親「どうやってやるの?」
消防「胸の間に指2本を置いて。少し沈むくらい。強くやらないで」
消防「お母さん、車内に放置したの?」
母親「していない」
消防「一緒にいたのにどうして?」
母親「わかんない!」
消防「救急車も消防車も向かっていますから。心臓マッサージ続けて。お母さんがんばって」
母親「こうが!ひな!がんばって・・・」
生々しい119番通報の音声が流されている間、法廷で弁護士の横に座って聞いていた母親は、目を拭いながら泣き続けていました。
また、市民から選ばれた裁判員たちは、厳しい表情で聞き入っていました。
裁判の予定です。
次回の期日は3月1日です。
この日は母親に直接、事件への認識などをたずねる“被告人質問”の手続きがあります。
3月2日は、論告求刑と最終弁論が予定され、判決は3月8日に言い渡されます。
裁判の最大の争点は刑の重さです。
被告人質問などで、親子のこれまでの生活ぶりや母親の当時の認識などについてどこまで語られるかが注目されます。