去年、NHKで放送した連続テレビ小説「ちむどんどん」。
ドラマでも話題になったのが、沖縄を代表する伝統的な揚げ菓子、サーターアンダギーです。
外はカリっと、中はふんわり。
この沖縄のお菓子を使って地域を盛り上げようという小学生の取組みを取材しました。
上坂 礼子
横浜市鶴見区にある沖縄の食材や物産品を販売する店で根強い人気を誇る「サーターアンダギー」。
今年の2月、そこに一風変わった黒っぽいサーターアンダギーが加わりました。
その名も“ショコラバナナサーターアンダギー”です。
1日数十個販売されていますが、午前中で売り切れてしまうことも。
実はこれ、地元鶴見の小学生が考案して生み出されたものなんです。
企画したのは、鶴見区の入船小学校5年1組の子どもたち。
きっかけとなったのが、沖縄や鶴見を舞台とした去年の連続テレビ小説「ちむどんどん」です。
放送中、鶴見は、街の歴史を語るうえで欠かせない沖縄の話題で大いに盛り上がりました。
鶴見には日本を代表する工業地帯、京浜工業地帯があります。
鶴見区役所によりますと、戦前からここにある工場で働くために、鶴見区に多くの沖縄出身者が移住。
住んだ街は“沖縄タウン”と呼ばれるようになりました。
長きにわたって沖縄を感じさせる独特の文化が発達していったのです。
サーターアンダギーを考案した入船小学校5年1組も、およそ3人に1人が沖縄にルーツを持っているといいます。
去年4月、5年1組では「ちむどんどん」をキーワードに、1年かけて地域を学ぼうという授業が始まりました。
そこで子どもたちから出た声が、「オリジナルの食べ物を考えてみたい」だったのです。
5年1組の担任、黒澤弘一先生は当時をこう振り返ります。
当初おにぎりやパンなど様々な提案がありましたが、その中から子どもたちが選んだのがサーターアンダギー。
沖縄とゆかりのある鶴見らしい身近な食べ物で、地域をもっと活気づけたいという、子どもたちの思いからでした。
そこで、沖縄の食材を扱う地元の物産店に、協力を依頼しました。
さらに、味が「ショコラバナナ味」になった背景には、鶴見のもう1つの特徴へのこだわりがありました。
それがお祭りです。
実は、沖縄の伝統舞踊エイサーや食べ物を楽しめる大規模なお祭り「ウチナー祭」をはじめ、鶴見はお祭りが盛んな街でもあります。
子どもたちは、そのお祭りで売られるチョコバナナを思い出し、ショコラバナナ味のサーターアンダギーを考案したのです。
5年1組の玉城晴輝さん。
沖縄出身の祖父母のもと鶴見で生まれ育ちました。
晴輝さんのお母さん・葉留美さんは、区内の店頭で販売されているサーターアンダギーの調理を担当しています。
お母さんの作るサーターアンダギーはおいしくて大好き。家でもいつもお願いして作ってもらっている。
今回の企画が決まり、サーターアンダギーの作り方についてアドバイスを求めた晴輝さん。
すると、お母さんは
「サーターアンダギーは高温で揚げるから、中に何かを入れたり外側から何かをトッピングしたりすることは難しい」
と教えてくれたそう。
そんなお母さんからのアドバイスを受けて出来上がったのが、このシンプルな見た目の黒いショコラバナナサーターアンダギーだったんです。
2月14日。JR鶴見駅東口で5年1組の29人が手作りのチラシを配って、出来上がったばかりのショコラバナナサーターアンダギーをPRしました。
「おいしいサーターアンダギーはいかがですか!」
「外はカリカリ、中はふんわりでおいしいですよ~」
サーターアンダギーの魅力を大声でアピールする子どもたち。
その姿を見守る街の大人たちにも笑顔がこぼれます。
用意した150枚のチラシは、あっという間になくなりました。
僕たちが考えたサーターアンダギーをもっと有名にして、街の名物にしたい。みんなに食べてほしい。
去年4月に始まった地域を学ぶ学習は、もうすぐ終わり。
担任の黒澤先生は、「この地域のおかげで子どもたちの個性が磨かれている」と語ったうえで、授業を通して子どもたちに地域への感謝の気持ちを伝えようとしています。
鶴見の街には、沖縄との強いつながり、鶴見の人たちが積み重ねてきた文化があります。
この学習を通して、子どもたちに改めてそこに直に触れてほしかった。地域のためにできることをして感謝されてこそ、鶴見にある沖縄の人の歴史や思いを実感できるかなと。
将来、子どもたちはこの街を出ていくことがあるかもしれない。
だから、“この地域があるからこそ、自分たちがある” 生まれ育った街への感謝の思いを感じてもらいたい。
オリジナルサーターアンダギーに込められた入船小学校5年1組の子どもたちと先生の思い。
それは、鶴見をつなぐ優しい味わい。
皆さんもいかがですか?