視覚に障害がある人もない人も、一緒に楽しめる絵本を作りたい。葉山町に、絵本に点字を付けて、全国に貸し出している女性がいます。どんな思いで活動されているのか。取材しました。
NHK横浜放送局 坂本有花
葉山町にお住まいの大下利栄子さん。
絵本に点字を付けていらっしゃると聞いて、お話を伺いたいと、ことし11月に初めてご自宅にお邪魔しました。
大下さんはとてもエネルギッシュで、笑顔が素敵な方でした。
私はこれまで、点字についても視覚障害についても、ほとんど触れたことがありません。
基礎的なことから質問する私に、嫌な顔一つせずに教えてくれました。
まず見せてくれたのが視覚に障害がある人のための、一般的な“点字の絵本”です。
白い紙に、点字のみが印刷されています。「絵」はありません。
初めて見た、「絵のない絵本」に驚きました。
一方、大下さんが作った絵本には、よく見ると絵の上に、点字が打たれた透明のシートが重ねられていました。
視覚に障害がある人もない人も、一緒に読むことができます。
絵本を読む世代は幼いので、周りの人と一緒に読んで楽しいっていう気持ちになるのがすごく大事だと思ったんです。
大下さんが初めて点字に触れたのは、20年余り前でした。
当時2歳だった娘が病気で全盲になったのです。
娘といっしょに点字を学んでいく中で、視覚に障害がある人もない人も、一緒に楽しめる絵本が欲しいと思うようになったといいます。
真っ白い本は触って読むには読みやすいんです。でも、それを触って楽しそうにしている娘を見たときに、娘が自分が届かない世界にいるみたいな気持ちになったことがあって。
娘が2歳半の時に失明して、今思えばあたりまえなんですけど、心がボロボロだったんですよね。
そんな中、絵も点字も、文章も載っている絵本がイギリスで作られていると聞きました。
子育てが落ち着いたあと、大下さんは自分で作ってみることにしたといいます。
これまでに点字を付けたのは1200冊以上。
全国の視覚に障害がある人たちに、無料で貸し出しています。
大下さんのもとには、喜びの声が多く届いていました。
大下さんの絵本を楽しみにしている1人、仙台市に住む小学2年生のなるちゃんに会いにいきました。
なるちゃんは生まれた頃から弱視で、点字で学んでいます。
通っている特別支援学校にはクラスメートがおらず、近くに住む同い年の友達、ここちゃんと遊ぶのを何よりも楽しみにしているそうです。
伺った日は、友達が自宅に遊びに来ていて、一緒に声を合わせて絵本を読んでいました。
寄り添った2人の笑顔がとても印象的でした。
なるちゃん
ふたりで読んでると思うと楽しく読める。友達同士だともう一回読もうとかできる。みんなに上手だねとか、すごいねとか言われてうれしい。
ここちゃん
一緒に読めるから、すごく楽しい。
美幸さん
友達の前でも絵本を広げて、積極的に本を読めるようになりました。楽しさを同じタイミングで共有できるのでありがたいです。
大下さんは、点字が付いた本が特別なものではなく、身近なものになってほしいと願っています。
大下さん
点字が付いた本が、特別なものじゃなくて当たり前の本になるといいなと思います。普通に図書館とかに置いてあるようになってほしいです。そういう本を見て、その向こうに視覚に障害がある人がいるって、考えてほしいと思っています。
特に印象的だったのが、なるちゃんが「初めて絵本を友達と読めたことが嬉しくて、作文を書いた」と言っていたことです。
私たちが当たり前にしていることは、当たり前ではなくて、嬉しくて楽しいことなんだ。
障害のあるなしに関わらず、同じ時間を共有できるのは素敵だなと思いました。
大下さんとお話ししていて、私も点字を勉強してみようと感じました。