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虐待受けた大学生に支援を

  • 2022年05月12日

虐待で心や体が傷ついた若者たち。家庭から逃れたあと、経済的に困窮するケースも少なくありません。とりわけ学費や生活費を自分でまかなう大学生は、困ったときにすぐに十分な支援が受けられず、追い詰められて休学や退学を迫られるケースもあります。こうした現状を変えようと声をあげたのは、大学進学を目前に控えた高校3年生でした。

(横浜放送局/記者 古賀さくら)

なにがあっても親は頼れない

横浜市内の大学3年生

横浜市内の大学3年生です。親から虐待を受け、高校3年生の時に児童相談所に保護されました。

今もふとしたことで当時のことを思い出すといいます。

大学生
「虐待を受けたのは小学生のころから。当時は虐待だって分からなかったんです。中学生になって周りの子と比べて『僕の家、何か違うな』って。今でも思い出して、怖くなります。これからも多分、消えることはないと思います」

大学院に進み、歴史の研究者になりたいという大学生。アルバイトや奨学金で学費や生活費を捻出しています。

大学院の費用を貯めるため、できるだけ節約しながら暮らしています。

大学生
「余裕は全然ないです。普通の大学生は、親に最終的に泣きつけば、助けてくれるっていう担保がありますけど、僕はそういうのはないので、何があっても自分でなんとかしなきゃっていう思いはずっとあります」

大学生は生活保護対象外 休学迫られるケースも

経済的に困窮し、休学を求められた学生もいます。10代の大学生は、大学に進学したあと、シェルターに避難しました。

虐待受け避難した大学生

「中学生のころに殺されそうになって警察に駆け込もうと思ったことがあったんですけど、警察や児童相談所に行っても、もし連れ戻されたら、もっと大変なことになるという思いがあって。コロナでステイホームになったことで、在宅で授業を受けたりとか、親も在宅で仕事になったりしてとにかく逃げようと家を出ました」

ほとんど着の身着のままで家を出た女性。虐待の影響で体調が安定せず、すぐにはアルバイトもできませんでした。

支援団体の助けを得て、生活保護を求めましたが、大学生は働く能力があるなどとして原則受給できません。役所から休学を求められたといいます。

大学生
「かなり悩みました。休学する以外手がないという、なんで大学生だとダメなんだろうなって」

3割近くが中退

児童養護施設を退所した若者を支援しているNPO法人「ブリッジフォースマイル」の調査では、児童養護施設から大学などへ進学した若者の3割近くが2年以内に中退していました。

ブリッジフォースマイル担当者
「親から虐待を受けるなどした若者はメンタル面でも課題を抱えているケースが多く、進学後につまづいてしまうケースも少なくない」

経済的に困窮する大学生や専門学校生については、2020年度から始まった「修学支援新制度」で、授業料の減免や返済不要の奨学金の支給を受けることができます。

また各大学も独自の支援策を設けるなど、支援は拡充されています。

しかし、いずれも申請から支給までに数か月かかったり、入学前の申請が必要だったりと、すぐに支援を受けられるわけではありません。

困ったとき、すぐに支援を

虐待を受けた子どもの支援に取り組むNPO法人「子ども支援センターつなっぐ」の新井香奈事務局長は、生活保護のように、困ったときにすぐに使える仕組みが必要だとしています。

子ども支援センターつなっぐ 新井香奈事務局長

「公的な支援やサービスは使えるようになるまでに時間がかかる。生活の基礎をしっかり築くまでの間だけでも生活保護が使えれば、そのあとは自分の力で、アルバイトしながら学校に通うことができるようになると思う」

声を上げた高校生たち

新井さんは、同じ世代の若者たちにも考えてもらいたいと、横浜市の捜真女学校を訪れ、虐待で傷ついた上に、経済的にも困窮している大学生たちの現状を伝えました。

3年生の嶋岡永珠さんは、現状を聞いて人ごととは思えなかったといいます。

嶋岡永珠さん

「自分が仮に大学生になれたとしても、生活が急変して困窮した時に、大学生というだけで国から保護が受けられないというのは、本当に怖く思えました」

何かできないか考えた嶋岡さん。もっと支援制度を充実させられないか、同級生と一緒に厚生労働省に聞いてみました。

厚生労働省の担当者に電話

生徒たち
“虐待から逃れてきたけど、身寄りもなければ手持ちのお金もなければという状況で、本当に生活が苦しいという子たちに対して一時的な生活保障をしてほしい”

厚生労働省の担当者から、さまざまな制度について説明を受けましたが、すぐに十分な支援につながるものはありませんでした。

多くの人に知ってほしい

支援を改善するためには多くの人に知ってもらう必要がある。嶋岡さんたちは新井さんと一緒に動画を作ってネット上で公開することにしました。

実際に役所に保護を求めたときの場面を再現しました。

保護を求めた場面を再現

新井さんたちの団体は、虐待を受けた大学生への支援を訴える特設サイトを立ち上げ、制作した動画も掲載することにしています。

嶋岡永珠さん

「やっぱり私たちが大学生になるからこそ、変えていかなきゃいけない問題。知ってもらわないとまず変わらないので、声をあげていきたい」

取材後記

虐待で心身も経済的にも苦しい状況にある大学生たちは、中退したことでさらに生きにくい状況に陥っていく可能性があります。
ブリッジフォースマイルの調査では、中退した人の3割がその後、無職の状態だったということです。
進学を支援する制度は拡充されてきていますが、進学した後に困窮したとき、生活を立て直すまでの間を支える仕組みが必要だと感じました。

  • 古賀さくら

    横浜放送局 記者

    古賀さくら

    横浜局、前橋局を経て、現在は横浜局で主に県政を担当。新型コロナウイルスへの対策をはじめ、医療や介護福祉分野を精力的に取材。

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