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神宮外苑再開発 なぜ再開発が必要? なぜ“公園”に高層ビルが? 事業者の単独インタビュー

  • 2024年4月5日

明治神宮外苑では、神宮球場などを建て替え、高層ビルを建設する再開発が計画され、2023年3月から一部の工事が始まっています。ところが、反対の声が相次ぎ、計画は半年以上遅れています。

NHKでは2年にわたって事業者にインタビューの交渉をしてきましたが、今回、事業者を代表して三井不動産の幹部が初めて取材に応じました。なぜ再開発が必要なのか?高層ビルが建設される理由は?当事者は何を語ったのか。
神宮外苑の再開発から見えた、日本のまちづくりの課題についても取材しました。

(首都圏情報ネタドリ!取材班)

神宮外苑 再開発・高層ビルが必要な理由は?

再開発が進められているのは、主に明治神宮が所有する土地。

神宮球場とラグビー場は位置を変えてそれぞれ建て替え。軟式野球場は広場と会員制テニスコートにするなど、一帯を大きく造り変える計画です。

外苑のシンボルとして知られる4列のイチョウ並木は保全するとしています。

そもそもなぜ再開発が必要なのか、聞きました。

三井不動産 取締役 専務執行役員 鈴木眞吾さん
「このすばらしい今の外苑。これを、将来にふさわしい形にさせていただいて、次の100年につないでいく。それが我々としてのこの開発における意味、大義だというふうに思っています」

さらに、再開発の事業者に名を連ね土地を所有する明治神宮の「内苑の緑を守ること」という目的について言及しました。

社殿と広大な森が広がる内苑。その維持管理費の多くはスポーツ施設がある外苑の収益で、まかなわれています。

その最大の収益源が、建て替えが計画されている神宮球場です。雨漏りをするなど老朽化が進んでおり、今後も安定的に収益を得るためには、再開発が必要だと考えたといいます。

三井不動産 取締役 専務執行役員 鈴木眞吾さん
「神宮球場については建設から97年、秩父宮ラグビー場は76年ということで、施設そのものの老朽化やバリアフリーの観点でかなり問題になっています。そこでしっかりと内苑の緑を守るための資金を稼ぐためには、施設を新しくしなくてはいけません」

一方、今回の計画で疑問の声が上がっているのが、新たに建てられる3棟の高層ビル。
最も高いもので190メートルになります。

3月下旬。再開発に反対していた音楽家の坂本龍一さんの一周忌をしのぶ集会が開かれていました。主催者は、ビルの建設に懸念を抱いているといいます。

主催者 大澤暁さん
「非常に高い200m級の高層ビルが建つということで、東京では珍しい、空が広く見えるような環境が失われてしまうのではないかと懸念しています」

明らかになった再開発スキーム

これまで事業者は、高層化が必要な理由について「オフィス、商業、ホテル等の用途を前提とした高度利用を図り、一体的に市街地再開発事業を推進する」とし、詳細は説明してきませんでした。

今回、番組では、高層ビルの建設が計画の根幹にあることを示す資料を入手しました。

事業者が自治体に出した事業計画書です。支出の項目には、総額3490億円あまりの事業費が計上されていました。

一方、事業費にあてる自己資金の欄には「ゼロ」という数字が並んでいました。

そして、その事業費は、全額を「保留床処分金」でまかなうことが記されていました。いったいどういうことなのか。

今回、判明した神宮外苑の再開発のスキームです。

鍵を握るのは新たに建てられる3棟の高層ビル。
これによって生まれたフロア、いわゆる「保留床」を活用。

得られた収益などで神宮球場を含む一帯の再開発にかかる事業費を補填(ほてん)します。

これが資料に記されていた「保留床処分金で、事業費を全額まかなう計画」です。

さらに、高層ビルの建設は、土地を所有する明治神宮に安定的な借地料をもたらすメリットもあります。

三井不動産 取締役 専務執行役員 鈴木眞吾さん
「今回の事業においては、公的な資金、補助金みたいなものはない形で、この事業を成立させるというふうに計画しています。我々が事業をあそこでやらせていただいて、そこでしっかり稼いでいくということも、経済的には必要なのは、自明だというふうに思っています」

長年開発が制限された“公園”になぜ高層ビルが?

今回の神宮外苑の再開発には、ある課題があったことも見えてきました。

およそ100年前に、全国からの寄付や献木、勤労奉仕によって整備された神宮外苑は、その後、東京都の都市計画公園に指定され、70年近く開発が制限されていました。

どこに高層ビルを建設するのか。それを検討する過程で、11年前に作成された資料を入手しました。

資料に示された候補地は5か所。

しかしこの時点で、公園による規制がなく、高層ビルが建てられる土地は、1つだけでした。

再開発の関係者はNHKの取材に対して、以下のように証言しました。

「この場所だけではビルは1棟しか建てられないため、事業全体の費用をまかなうことができず、課題だった」

ところが、具体化した計画では、公園の区域内に2棟のビルが建設されることになっていたのです。

三井不動産 取締役 専務執行役員 鈴木眞吾さん
「どうしたらそういった取り組みが可能になるのか、できるのかといったところを関係各社ともいろいろ協議をさせていただいて、『公園まちづくり制度』という制度があるという中で、今回の開発が可能なのではないかということを考えて、計画の提案をして、今回に至っているという認識です」

高層ビルの建設を可能にした「公園まちづくり制度」とはどんなものなのか。

東京都の担当者によると、この制度は、都が公園として活用しきれていない「未供用」と呼ばれるエリアを整備するために作られました。

民間企業の参入を誘導するため、公園の区域から外し、従来は作れなかった高層ビルの建設を可能にします。

事業者には一定の割合の緑地の整備などを義務づけることで、公園の機能を持つエリアとして整備を進めるのがねらいです。

東京都 都市整備局 都市づくり政策部長 山崎弘人さん
「民間開発を誘導していくということによって、 質の高い民間プロジェクトも期待できますし、公園そのものではないですが、公園的な質の高い緑地空間を整備してもらおうと考えました」

しかし、今回の再開発に適用したことは、都議会でも議論を呼んでいます。

制度の適用の根拠となる「未供用」の区域が秩父宮ラグビー場だったからです。

秩父宮ラグビー場では、大学や社会人などの試合が行われているほか、さまざまなイベントも開かれ、多くの人が利用しています。

なぜ、この場所が未供用なのか。

東京都 都市整備局 都市づくり政策部長 山崎弘人さん
「現地に行かれれば、ラグビー場は周囲フェンスで囲われていて、試合があるときなどは当然出入りできるのかもしれませんけれども、常時自由に出入りできるような状況ではないですよね」

都市計画に詳しい専門家は今回の開発について、事業者側は手続き上の問題はないというものの、民主的なプロセスという観点で 
日本のまちづくりの課題が見えてくる事例であると指摘します。 

駒澤大学 法学部政治学科教授 内海麻利さん
このスキーム自体は再開発の一般的な手法で行われています。しかし、東京都の『公園まちづくり制度』は、議会の議決を経た民主的なプロセスで作成される法律や条例で定められておらず、 
都議会で議論がなされるべきではないかと思っています。このため、この制度を初めて活用することになった神宮外苑の再開発については 、 そのプロセスを透明にしていくことが必須であると考えます

フランス 市民との対話しながらのまちづくり

それでは、どんな仕組みが考えられるのか。フランスでは、国が主体的に新たな制度を作っています。

夏に開催されるオリンピックに向けて再開発が進むパリ。その中心部に、この国のまちづくりの変化を象徴する地域があります。

これまで2度にわたって再開発されたレ・アル地区です。

もともと、この場所にあったのは名建築として知られた中央市場。

1960年代、市場を郊外に移設し、鉄道などが乗り入れる交通拠点に再開発する計画が持ち上がりました。

住民たちは自治体や事業者が主体となって決めた計画に対して、大規模な反対運動や訴訟を展開。20年にわたって声を上げ続けましたが、再開発計画は実行に移されました。

当時はフランス各地でこうした再開発をめぐる深刻な対立が相次いでいました。

そこで国が整備したのが、「コンセルタシオン(話し合い)」という制度です。

この制度は、大規模な開発を伴う全ての事業について、住民たちが事業の構想段階から議論に参加できるようにするものです。

透明性を確保するため、自治体が、住民と事業者との対話の方法などについて、議会に提案し、議決を受ける仕組みにしています。

制度の導入により、再びレ・アル地区で計画された再開発は1度目とは一変しました。事業者や住民が参加する対話の場を、計画の初期から複数回設定。

さらに事業者は計画に関する情報の開示に加え、それに対する住民たちのすべての意見に見解を示すことも求められました。

2度目の再開発は建築家を選ぶプロセスに住民が参加できるようになりました。

この地域に長年住んできたジル・プルべさんは、この地区のコンセルタシオンに参加しました。

ジル・プルべさん
「再開発の中身を決めるのは、私たち地元の住民ではないことは十分理解していました。それでもプロジェクトに参加したかったのです。私たちの街なのですから。

再開発には残念な部分もありましたが、公園が残されたことは評価しています。毎日、数千人が利用しているのですから。子どもたちも、放課後に遊びに来ます」

この制度は、時間などのコストはかかりますが、事業者にも一定のメリットがあるといいます。

再開発を担当する事業者
「できるだけ理解者を増やし、反対する人を減らす。訴訟を起こされて計画に遅れが出ないようにするのが目的です。もちろん、住民の言うことをそのまま聞くわけではありません。個人の利益と社会の利益は、きちんと線引きして考えます」

都市計画に詳しい内海教授は、日本でも市民の意見を都市計画の構想段階から入れていく仕組みが広がっていくことが大切だと言います。 

駒澤大学 法学部政治学科教授 内海麻利さん
「法律が求める以上の充実したプロセスは、自治体が地域の実情を踏まえて検討すべきものだと思いますが、計画に関する参加の方法やプロセスを明確にした上で、 
構想、基本計画、実施のそれぞれの段階で、意見を聴取したり、計画内容を理解して議論したりする機会を設けることが大切です。 
ただ、多様で多数の意見をすべて実現させるのは困難です。 
そこで、何が都民の幸せにつながるのかを判断するプロセスが重要になりますし、 
その判断の理由を示すのが、市民に票を投じられた自治体の長に与えられた責務であることを忘れてはいけないと思います」

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