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マンション高騰 東京で再び地上げ “都心に土地ないから作る”

不動産のリアル(9)
  • 2023年3月30日

バブル期を超えて過去最高価格を記録している首都圏のマンション。
しかし、都心ではマンション用地が不足しています。そこでいま、新たな用地を確保する手段として、横行しているといわれるのが「地上げ」です。
なかには、退去を迫るため、執拗な嫌がらせをする悪質なものも。そうした実情を大手デベロッパーの幹部が証言しました。

※私たちは「不動産のリアル」と題して、空前の高騰が続く東京の不動産を取材しています。
皆さんの体験や意見をこちらまでお寄せください。

過去の記事はこちらから

(首都圏局/不動産のリアル取材班)

なぜ都心ばかりに?東京の不動産

今回、匿名を条件にNHKの取材に応じたのは、全国でマンション開発を手がける大手デベロッパーの幹部です。

まず明かしたのは、業界の懐事情についてです。
いま、空前の活況を呈すマンション市場ですが、販売側からすると、資材価格の高騰で建設コストも上がっているため、どうしても高値で売れる都心の好立地を中心に供給する必要があると明かしました。

大手デベロッパー現役幹部
「2000年代前半の建設コストは、標準的なマンション1部屋あたり大体1500万円前後で、土地代を加味してもお客様の購買力が3000万円台の郊外エリアでもマンションを作ることができました。
しかし、いまは建設コストが倍の3000万円前後まで跳ね上がっています。当然、販売価格に転嫁されるので、郊外につくってもお客様の購買力が追いつかず、売れ残ってしまうんです。そのため、購買力の高いお客様が住む都心部にマンションをつくらないと商売が成り立たなくなっています」

法人土地基礎調査より

しかし、その都心でのマンション用地の確保は簡単ではなくなったといいます。
かつて、都心には企業の社宅や公務員宿舎、工場跡地などのまとまった土地があり、それらが売りに出されることで、デベロッパーはマンションを建てることができました。

しかし、バブル崩壊後に多くが売りに出されて、すでにこうした土地は市場に出にくくなっています。国の統計をみても、20年前と比べて「社宅・従業員宿舎」の面積は約60%、「工場・倉庫」の面積は約35%、それぞれ減少していました。

都心の土地争奪戦は過熱

いまでも、時折こうしたまとまった土地が売りに出されることはあります。ただ、希少性が高いため、争奪戦も過熱しているそうです。

こうした都心の土地の1つを取材しました。
この土地は、病院の跡地で都心の駅から歩いて5分のところにあります。土地の広さはおよそ3500平方メートル。所有していた国家公務員共済組合連合会が売却して、おととし一般競争入札にかけられました。

都心の1等地ということで、10社ほどが競合。周辺相場を上回る最も高い価格を提示したマンション開発を手がけるデベロッパーが取得したといいます。

このデベロッパーも取材すると、近年はほとんど買えていないほど土地の取得には苦労していたということです。入札価格は明かしてくれませんでしたが、「非常に希少性が高い土地だったので相当頑張って金額を提示した」と振り返っていました。

やはり、希少価値があるため購入にはかなりコストがかかるのは間違いないようです。大手デベロッパー幹部は、こうした土地にはなかなか手が出しづらいと口にしました。

大手デベロッパー現役幹部
「売りに出されても競争入札になって、いままでのマーケットでは考えられないような売値で取引されるんです。

場所によってはマンションデベロッパーだけではなく、商業ビルを建てたい会社やホテルを建てたい会社も競合して数十社札を入れてきますので、金を出しても落札できる確率は数%。取得できても利益はほとんど見込めない金額になってしまいます。

大手デベロッパーが全力で取り組んでも、1番手の落札者と何割も数字が離れていたっていう話もよく聞きますよ」

デベロッパー「土地をつくらなければ」

ただし、こうした話を聞いていて、素朴な疑問が浮かびました。
“土地がないとマンションは建てられず売り上げも出せないのでは”

それをぶつけると、デベロッパーは“そのために土地をつくっていくんですよ”と答えました。
さらに、その土地を作るために欠かせない存在が「地上げ業者」だと打ち明けました。

大手デベロッパー現役幹部
「各社売り上げを出すために、すでに戸建てやビルなどが建っている場所で、複数の地権者と交渉して土地をまとめていく、作っていく必要があるんです。

その際、非常にタフな交渉が必要になるので地上げ業者に依頼します。広いマンション用地を確保するためには、10人20人単位の複数の地権者と同時に交渉を進める必要があります。連絡が取れない地権者には、場所や曜日、時間を変えながら接触を試みなければなりませんが、勤め人で平日働いているわれわれデベロッパーではその対応は難しいので、助けてもらっている部分は大きいです」

地上げ ふたたび

地上げということばは、30歳の私(記者)にとってこの不動産リアルの取材をするまではあまりなじみがないものでした。
ただ、1980年代後半から90年代前半のバブル期には、暴力団が関与したり、その過激な手口により警察に摘発されるケースが相次いだりするなど、大きな社会問題となっていました。

そもそもの地上げというのは、居住者などを立ち退かせて、いくつかの土地をとりまとめて広い土地を確保する行為のことです。

そうすることで、マンションやビルなどの大きな建物を作ることができるため、土地を高く売ることができます。
また、土地が有効活用できるメリットもあります。

立ち退きにあたって、居住者と交渉し、お金を払って立ち退いてもらうことは法的に問題があることではありません。ただ、中には高い金額を提示されても、住み慣れた家から出て行きたくないという人もいます。こうした居住者の権利は「借地借家法」という法律で守られています。

ただ、複数の不動産関係者を取材すると、今の時代だからこそ、悪質な手段で嫌がらせを繰り返し、住民を追い出すような地上げ業者もいるということでした。今回取材に応じた大手デベロッパーの幹部も「こうした地上げ業者から土地を取得することはありえる」と証言しました。

そして、嫌がらせの方法については、こうした地上げ業者の話として「例えば、賃貸マンションのエレベーターの電源を意図的に落とす。これで入居者の利便性は著しく損なわれます。あとは同じ時間や曜日に繰り返し、繰り返し訪問するとか、隣の部屋から大音量を流すとか、色々です」と明かしました。

手荒な地上げの土地も取得せざるを得ない

さらに、幹部は言葉を選びつつ、こう続けました。

大手デベロッパー現役幹部
「デベロッパーの土地の仕入担当なら、どの業者がどういうスタイルで交渉をしているかはある程度認識しています。
そのうえで、各社の判断になるので、多少強めの交渉をしていたとしても、許容できるレベルのリスクであれば、そういう業者から取得する場合もあると思います。
デベロッパーは大体上場もしていますし、最終消費者であるお客様に販売していくわけですから割とクリーンに運営していかなければなりませんけど、土地の開発においてはそうではない場面もありますので。

これだけ用地が確保できていない状況になりますと、売り上げの確保や土地の利活用のため、多少手荒な手段を使った地上げの用地でも取得せざるを得ないのも実情だと思います」

バブル崩壊後、どの業界も「コンプライアンス」の大切さが叫ばれるようになりました。
これは不動産業界でも同じだといいます。

一方で、都心のまとまった土地は先述したようにどんどん市場に出なくなったことで、逆にその希少性が増し、価格は右肩上がりとなっているのが実情です。
取材の最後に私は「地上げ業者がさまざまな手段で住民を追い出した土地を購入することに抵抗はないのでしょうか」とただしました。
すると、幹部は「もちろん犯罪行為はあってはいけません」と断った上で、こう語りました。

大手デベロッパー現役幹部
「もちろん用地の取得前に現地調査などは行います。ネット上に、(悪質な地上げ行為などの)過去の記事などが残っているような土地だと、取得を躊躇するデベロッパーは多いと思います。ただ、すでに立ち退き交渉が終わっていて、記事もないような場所だと調べようはないです。
それで取得したとしても、こちらも何も知らなかった“善意の第3者”という立場となります。
その場合、販売時にお客様に説明しようもありませんから」

不動産にまつわる体験・意見をお寄せください

「東京にはすでにまとまった土地がない。だから作り出していく」

取材中に聞いたこのくだりが印象的でした。そして、幹部が口にした「地上げ」ということばも。地上げには土地の価値を上げたり、有効活用できたりする側面があるといわれます。

そして、令和の地上げは、バブル期のような強引な地上げとは違うようです。ただ、住み続けたい地権者に対して、悪質な嫌がらせで立ち退きを迫るということが実際行われている事実、さらに、そうした土地をデベロッパーが購入していることには、違和感をおぼえます。

私たち不動産のリアル取材班は引き続きこの問題を取材します。皆さんの体験や意見をこちらまでお寄せください。

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