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通知表廃止 子どもの評価どうする?先生の模索 神奈川茅ヶ崎

  • 2023年3月24日

通知表が配られる季節ですが…、茅ヶ崎市立香川小学校の卒業式で、通知表の代わりに配られたのは、先生と子どもたちとの交換日記のようなノートです。
実はこの学校は2020年に通知表を廃止しました。通知表は配布が義務づけられているわけではなく、学校の裁量で形式を見直したり、廃止したりすることが可能なのです。

なぜ通知表をなくしたのでしょうか。子どもたちや保護者の反響は。
新たな評価の形を先生たちが模索する中で、子どもたちにどのような変化があったのか取材しました。
(「変わる評価」全2回のうち1回目/続きを読む

(首都圏局/ディレクター 鷲野千遥、竹前麻里子)

通知表をやめた小学校 それぞれの教員が評価を模索

茅ヶ崎市立香川小学校では、子どもの成長のためにはどんな評価がいいのか、先生たちが話し合いを重ねてきました。そして3年前、通知表を使わない評価のあり方を模索するようになったのです。

茅ケ崎市立香川小学校 國分一哉校長
「子どもたちが、もらった評定で右往左往したり喜んだりするのもいいのですが。『通知表で君の価値が決まるわけじゃないんだよ。勉強ができるからよい子、できないから悪い子はないんだよ』という思いで育てたいと、通知表を廃止しました」

学習面の評価は、授業で使ったプリントやテキストをファイルにまとめ、保護者と学びの過程を共有しています。

学習面以外の評価は、それぞれの教員が、それぞれの方法で行っています。
6年3組の担任・柳原拓先生が通知表の代わりに使っているのが「成長ノート」。

子どもたちが、日々考えていることや感じたことを書き、それに対して先生が返事を書く、交換日記のようなノートです。

柳原拓先生
「児童が、自分ができることと、できないことをちゃんと伝えてくれるツールです。成長ノートを通して、僕は個人を見て、いろいろ話をしています」

文章を読み、感じたことを伝え合う国語の授業。ふだん手を挙げることが少ない児童が発言し、柳原先生はすかさず「頑張ったね。よく手を挙げました」と声をかけました。

児童がそのときの思いを記した「成長ノート」です。 

男子児童
「苦手なことを見つけて、できるように意識して努力した」  
 

柳原先生
「最後に手を挙げて自ら話した。あなたのこの成長、なによりもうれしかったな」
(成長ノートより)

 

柳原拓先生
「あんなことは今までなかったんです。だからそういった部分も『頑張ったよね』と、成長ノートを通して言えるじゃないですか」

「成長ノート」で大きく変化した児童

成長ノートでのやり取りを通して大きく変わったという1人、加納一心君です。5年生までは、自分の本心を言葉にするのが苦手だったといいます。    

柳原拓先生
「『どうだった?』と聞いても、『いや別にー』といった感じで、本心はあまりしゃべりませんでした」

柳原先生は一心君に変わってもらいたいと、授業中の小さな変化やノートに記された思いに目を凝らし、肯定し続けました。

一心君
「ありがとうを言うようになって印象が良くなったと思う」  
 

柳原先生
「ありがとうは人と人とをつなぐ魔法の言葉です。この一言があるかないかで、大きくかわる」  

一心君
「五年生までは周りに合わせて空気をよんで本心とは違うことを言っていた」    

柳原先生
「こういう部分に気付き、書ける… 大人になった 何よりあなたの『心』の器は誰よりも大きくなったね」
(成長ノートより)

加納一心君
「成長ノートだと誰にも見られない分、自分が思ってることを好きなように書けるし、そのあとで先生がアドバイスをくれて、『こういうところがいいよね』って言ってくれるのがいいです。書くことが増えたから、話すことも増えたんじゃないかなって思います」

柳原拓先生
「彼にとって書くことが、転機になったのかなと思います。あの子自身、大きく変わりましたね」

一心君の母親も息子の変化を実感していました。

母親 加納沙希さん
「子どもがこのクラスになって、自分の気持ちをすごく言葉にしてくれるようになりました。『こんな授業をしてこんなことがあった』とか。そういうのを見ると変わってきたなと思います。テストの点数だけが評価の対象ではないというのを、通知表をなくしたことで私も教わったのかなと思っています」

反対意見の保護者も… 子どもたちの気持ちは?

一方、通知表をなくしたことについて、異なる考えを持つ保護者も少なくありません。

通知表廃止について学校がアンケートをしたところ、「賛同しない」「どちらかといえば賛同しない」が半数に上りました。
「子どもの得意・不得意が分からなくなった」「世の中はずっと競争社会。それに負けない力が身につかない」などの声が寄せられました。

子どもたちはどう考えているのか。柳原先生はクラスで話し合うことにしました。

柳原先生

今、あなたたちは通知表がない学校にいますけれど、自分の考えや本音を話してほしい。

児童

通知表だと、自分の得意なことや苦手なことにも気付けるし、苦手なところも勉強できるから、次につなげられるんじゃないかなと思います。

児童

あゆみ(通知表)は中学校、高校に向けての練習という感じかなと僕は思います。

 一方、通知表は必要ないという意見も。

児童

あゆみ(通知表)だけで決めてほしくない。成長ノートみたいに、内容を書いてあるものを見てほしいなと思います。

児童

通知表が二重丸だからといって、本当にいいのかと思っています。だからちゃんと言葉で評価を聞きたいなって。

 そして、一心君は。

一心君

人には人なりの個性があるわけだし、リョウスケだったらすごく人を受け入れるようになったとか、ダイチがプログラミング好きとか。そういう1人1人の個性を踏まえているのが評価だと思って。その人の、独自の個性を伸ばしていったらいいんじゃないかなって思います。

柳原拓先生
「通知表がモチベーションになる場合もある。あることがいい、ないことがいいの両極端ではなく、その折衷案を、我々が考えていく必要があるのかなというのは、子どもたちの話を聞いていて思いました」

教育学が専門で、香川小学校の取り組みを見続けてきた専門家は、こうした模索をどのようにとらえているのでしょうか。

慶応義塾大学 藤本和久教授
「通知表のようにわかりやすい『ものさし』での評価は、短期的には、勉強ができる子どもたちをやる気にさせる面があります。保護者にとっても、簡潔な評価は、客観的で信頼できるものと、信じられている一面もあります。

一方で、香川小学校で先生たちが行っている、授業中の声かけやノートを通じたやりとりは、教育学では『みとる』という評価方法です。子どもの小さな変化や成長に気づくことは、個性を伸ばすことにつながります。学校だけでなく家庭でもぜひ大切にしてほしいです」

「評価」については職場でも大きな変化が起きています。社員の満足度が高まる評価制度とは?(続きを読む

  • 鷲野千遥

    首都圏局 ディレクター

    鷲野千遥

    2022年入局。子ども・若者、外国人、ジェンダーなどのテーマに関心があります。取材を通して学校に3か月通い、こんな小学校だったらもう一度通いたいなと思いました。

  • 竹前麻里子

    首都圏局 ディレクター

    竹前麻里子

    2008年入局。旭川局、おはよう日本、クローズアップ現代などを経て2021年より首都圏局。福祉、労働、性暴力の取材や、デジタル展開を担当。

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