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わが子の園で不適切保育…? 保護者ができることは

シリーズ保育現場のリアル
  • 2023年3月2日

各地で明らかになる“不適切保育”の実態。決して許されるものではなく、こうしたニュースが相次いで報じられることで、保育所と保護者の信頼が揺らぎかねないと感じています。

ただ本来は、働く親にとって、保育士は育児の大切な伴走者であるはず。その保育士に安心して子どもを預けるために、保護者はどんな関わりができるのでしょうか。

ずっと気になっていた保育に詳しい弁護士に、「保護者と保育所の関わり」について話を聞きました。
(首都圏局/記者 氏家寛子)

保育問題に携わる弁護士 3児の子育ても

その弁護士は、京都市の藤井豊さんです。保育に関わる法律相談や裁判も手がけています。

私が藤井さんに話を聞いてみたいと思ったのは、弁護士としての仕事もさることながら、3人の子どもの保護者として、保育制度の改善を求める活動にも積極的に参加していることを知ったからです。

保育所で起きている不適切保育の問題は極めて深刻で、特に、幼い子どもに対する暴言や暴力は、絶対に許されない行為です。

ただ、各地で相次ぐ実態を知るほど、保育所や保育士を責めるだけで問題の解決が見いだせるのか疑問も感じます。そこで、私は藤井さんに法律の専門家としてだけでなく、保護者として保育所と関わる当事者の目線からどう考えているのか、教えてもらいました。

不適切保育を知ったら 必ず通告を

Q. 各地の保育所で不適切保育が相次いでいます。このことをどう感じていますか。

“こんな保育園があるのか”と正直衝撃をうけています。
国として、質というより量の拡大をし、保育制度もどちらかというと規制緩和をやってきたことも影響しているのでしょう。
待機児童問題との兼ね合いで、行政も園の運営の継続がいちばん大事なので、厳しいことを言わない。園も保育士がいないから、保育士にあんまり厳しいことが言えない状況があったのかなと思います。

待機児童問題が一段落したように見える中で、“保育の質”という次の課題がようやく表になってきたという感じがします。

Q. 保育所は保護者であっても様子を常に確認することは難しく、「密室」といえる部分もあります。そのため、不適切保育が明らかになるケースは保育士による内部告発がほとんどです。それを運営者が口止めすることもあるそうですね?

そうですね。
ただ、上司にあたる運営者や園長であっても「不適切保育」に関する保育士の告発を止めることは法的にはできません。
保育士は当然、子供の権利を守る立場なので、園から何を言われても通告する義務があると言っていいと思います。通告者の秘密も守られます。法律上、通告先は、自治体の福祉事務所、または児童相談所などになります。

※児童福祉法25条を解説した部分で、一部誤解を招く表現があったため、該当箇所を削除しました。

保護者が園にただすときは

Q. 保護者が不適切保育を園にただす時、複数での訴えが効果的なのでしょうか。

そうですね。1人の子どもだけにその行為がなされているとは限らず、過去に別の子どもが同じ被害に遭っているケースもあるかもしれません。保護者どうしで情報共有すると、実はみんなが疑問に感じていたりそうでもないという受け止めの保護者がいたりすることがあると思います。

そういう意味で、保護者間の情報共有は大事だと思います。
共有できた時は、1人よりも複数で訴えた方が深刻に受け止めてくれますし、対応を迫ることができると思います。

Q. どのように伝えたらいいですか。

ある程度、事実関係がはっきりしていて、いろいろな人から聞き取りができている場合は、整理して伝えるといいと思います。

書面化して示すのも大事です。いつ、どこで、何があったというのはなかなか難しいかもしれませんが、記録に残しておくといいと思います。

監視カメラで解決するのか

Q. 保育園に監視カメラの設置を求める声もありますが、どう受け止めますか。

悩ましいですね。監視カメラがなくても問題ない保育ができるというのが当然理想で、どちらかといえば設置には否定的です。

ただ、不適切保育や虐待あったかどうかの認定はかなり難しく、映像があることでハッキリすることもあります。

また、保育士が保育内容を検証することにも使えるので、どう使うかでかなり変わってくる部分はあると思います。

一方で、単純に保育士を監視する目的で導入するというのは受け入れられないことだと思うし、映像を記録するので子供の着替えなどプライバシーの問題もあります。
さらに、すべて死角なしにするような設置はできないので、限界はあります。

設置するのであれば、何のために録画し、どういう時に使うかなど保育者と保護者が議論してルールをつくり、適切に運用管理することが必要になると思います。

ここまで藤井さんに、不適切保育への対応を話してもらいました。

 

一方で、藤井さんは「実はいちばん大切なのは、こうした問題が起きる前に、保護者が園としっかり関わることです」と指摘しています。「保護者にとって、保育所は子育てのパートナー」とも口にしていました。

そのことが、いったいどうして不適切保育を防ぐことにつながるのか、さらに話を聞きました。

保護者と保育所 その関わりは

Q. 不適切保育を防ぐためには保育所との関係が大切だといわれますが、詳しく教えて下さい。

園内の風通しの良さが非常に大事なんです。園と保護者との関係性は非常に大事だと思います。外から見えない状況であればあるほど、不適切保育のような問題は表に出づらいですし、保護者も情報がつかめません。
OECD(経済協力開発機構)も保護者の保育所運営への参画を推奨しています。

保護者会が園から独立する形で運営されていて、園と定期的な協議をしているところもあります。そういう仕組みがあると、何か保護者から意見が上がった時も、園ときちんと話し合いができるということになると思います。

保護者の声を集めるアンケートを定期的にしているところもあります。園にきちんと意見を伝えられて、かつ回答がもらえるそういう関係性があるだけでも、お互いにとってすごく意味があるだろうなと思います。

一緒に園をつくるという前提で、いろいろ意見を言っていくという関係性がいいのではないでしょうか。

Q. 子育てと仕事をしながら保護者会も…大変ではないでしょうか。

時間と労力というコストはかかりますが、それによって得られるものがあるとも考えることができるのかなと思います。

やっている人は大体楽しんでやっている場合が多いです。
保護者会の活動はやってみると楽しいし、そのことで園との距離もぐっと近づき、自分の居場所にもなります。大人どうしが仲良くすることで、子どもにとっても安心できる場所になると思います。

Q. 保育所との関係を築くために、保護者どうしがつながることも大切なんですね。

そうですね。しかし、残念ながら、コロナ禍で、保護者のつながりが弱まっていると感じています。子どもの送り迎えも入り口でとなると、保護者どうしが井戸端会議する場所がなく、おしゃべりもできなくなっているところもあるようです。

コロナ禍で気になるデータ

コロナ禍が子育てに及ぼした影響について、藤井さんが気になるというデータがあります。
幼児の保護者を対象にしたベネッセ教育総合研究所の調査結果です。

2015年と2022年を比べると、「子育てへの否定的な感情」が大幅に増加しています。

さらに、しつけや教育の情報源をみると、「母親の友人・知人」が72%から36%に半減。保護者どうしのコミュニケーションが大きく減っているのがわかります。

自分自身(記者)を振り返っても、ネットやSNSにあふれる子育て情報を集めることだけで、子育ての不安が解消されるわけではないと感じています。ほかの保護者や友人と感情を共有することで、気持ちが落ち着くことも少なくないからです。

保護者が保護者会などを通じて園運営に参加することも、親どうしがつながるひとつのきっかけになるのではないかと思います。

藤井さんは、「保護者どうしがつながり、子育てのパートナーとして保育園と良い関係を築けているところでは、不適切保育は起こりにくいのではないか」と指摘し、その考えにとても共感しました。

子どもを守るため 大人はゆとりを

インタビューの最後に、この春に発足する「こども家庭庁」に何を期待するか、そして、保護者として心がけたいことについて聞きました。

●こども家庭庁に期待すること
保育制度に関しては、保育士の配置基準と処遇を見直して、保育の質の改善につなげてほしいと思います。

●保護者として心がけたいこと
それと、長時間労働の見直しも必要だろうと思っています。親がきちんと子どもと過ごす時間が持てることは、大切ですよね。

そして、こども基本法が施行されますから、保護者も「子どもの権利」をしっかり学ぶのは大事だと思います。
いちばん「子どもの権利」で特徴的なのは、「意見表明権」と言われていますよね。特に、言語化できない乳幼児期の意見表明権は、なかなかわかりづらい。“子どもが泣いているのは意見表明だ”とか、そういう理解の仕方ができると、子どもとコミュニケーションをとりながら関わることになるし、大切だと思います。
子どもが何を必要しているか、しっかり大人の側で感じ取って対応していく、そのためにはゆとりがいりますよね。

午後7時半に家に帰ってきて、ご飯を作って食べさせて、お風呂に入れて寝かせなきゃとだけ思っていると、生活が作業になってしまう。
そうした考え方だと、1、2歳児のイヤイヤ期で出したごはんを目の前でひっくりかえされて、ストレスを感じるというのは当然あると思います。

そうならないためには、時間的なゆとりもいるし、子供の状況を受け止める力も必要ですね。(3児の父の)私自身、1人目、2人目の時はともかく、3人目は「はいはい」という感じで、「やったね。やりましたね。ついに来ましたか」と(笑)。子どもは親の思う通りにいかないということに気づくということでしょうか。

みなさんのご意見 聞かせて下さい

藤井さんへの取材は「不適切保育をどう考えるか」から始まりましたが、親どうしの関わり、そして、保育所との関係性の大切さ、さらに子どもとの向き合い方にまで及びました。

不適切保育を防ぐための喫緊の対策はもちろん必要ですが、保護者も保育所に歩み寄ってより良い保育環境のためになにができるのか、ともに考えていく必要もあるのではないかと思いました。
この問題に対するみなさんの意見や情報も引き続き募集しています。
こちらの投稿フォーム までぜひお寄せ下さい。

  • 氏家寛子

    首都圏局 記者

    氏家寛子

    水戸局が初任地。岡山局、新潟局を経て首都圏局。保育園に楽しく通う2児の母。

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