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  • 2023年2月17日

脱毛ニーズ高まる メンズ・VIO脱毛も 変わる「毛」との向き合い方

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コロナ禍をきっかけに、脱毛に目覚めた40代男性。 
老後に備えVIO(下半身のデリケートゾーン)の脱毛に取り組む60代女性…。

近年、脱毛ニーズが高まり、大手脱毛クリニックでは利用者がこの5年で6倍以上に急増しています。脱毛する人は女性のみならず、男性や子ども、中高年世代にも広がっています。 
一方で、「脱毛ブームが行き過ぎれば息苦しさを感じる人が増えかねない」という指摘や、 “ムダ毛”という表現を使った宣伝をやめ、体毛に対する考え方を見直したカミソリメーカーも。 
変わりゆく「毛」と私たちとの関係を取材しました。  
(首都圏局/ディレクター 林秀征)

コロナ禍で脱毛に目覚めた大学教授

「僕は全身脱毛しています。全身トゥルントゥルンです」 
自身を「無類の脱毛マニア」だと話すのは、慶應義塾大学経済学部の坂井豊貴教授(47歳)です。

マーケットデザインや社会的選択理論に関する研究で知られる、気鋭の経済学者が脱毛に目覚めたのは2年前。コロナ禍がきっかけでした。オンライン会議で自分の顔を見る機会が増え、ヒゲが気になったといいます。

脱毛前の写真

坂井豊貴さん 
「自分の顔を見て、ヒゲが青いなと思いました。ヒゲをそっても夕方になるとちょっと伸びてくるので」

坂井さんが始めた脱毛は、そったり抜いたりするのではなく、専用の機器で体の組織に直接働きかけるものです。毛の成長を防ぐことで長期にわたって生えにくくなる効果が期待できるといいます。

ヒゲの脱毛は1年ほどで終わり、念願のツルツルを手にしました。しかし…

「これが僕の旅の始まりだったわけです。次は脇を脱毛したんですよ。これがかなり早くトゥルントゥルンになってくれました。そうなるとおもしろくなるんですよ。足もいっそ脱毛しようと思い、全部やりました。

よく、『どうして全身脱毛するんですか?』と聞かれるんですけど、脱毛をやってみると、むしろこんなふうに思うんですよ。『自分は、こことここだけ毛を残している。なぜ、ここだけわざと自分は毛を残しているんだ。なぜ脱毛しないのか』と。足を脱毛した時点でそう思うようになりました」

脱毛した坂井さんの足

ほぼ全身の毛を無くした坂井さん。脱毛する男性に対する社会の見方は変わってきていると感じています。

「かつて、男はこうでなきゃいけないとか、女はこうでなきゃいけないという社会規範がありましたが、そういうものは弱まってきています。自分の容姿は自分で好きにすればいいじゃないかと思うんですよね。

僕が脱毛をしたからといって、誰かが『坂井さんかっこよくなったね』と言ってくれるわけでは全然ないんです。でも、僕の自己満足としては、結構うれしいんです」

“老後の備えに…” 増える介護脱毛

美容目的だけでなく、老後に備えるための介護脱毛にも注目が集まっています。 
大手脱毛クリニックでは、下半身のデリケートゾーンの脱毛を契約した40歳以上の女性が、ここ10年あまりで60倍以上に増えているといいます。

介護脱毛では、排せつ物がつかないよう、VIO(下半身のVライン・Iライン・Oライン)と呼ばれる部分を脱毛します。

施術を受けた戸田啓子さん(64歳)です。介護脱毛をしたきっかけは、親を介護している友人から、排せつのケアの大変さについて聞いたことでした。

戸田啓子さん 
「『アンダーヘアに排せつ物がついたとき、それを拭き取ってきれいにする作業がとても大変だった』と聞いたんですね。私は1人暮らしで家族がいないので、下のお世話をしてもらうことに対して、抵抗がありました。それなら、なるべくきれいな状態でお任せできるほうが、自分自身にとってもいいと思いました」

戸田さんにとって介護脱毛は、老後を前向きに過ごすための準備だったといいます。

「介護脱毛で、自分の気持ちが少し豊かになれたらいいじゃないですか。これから年を取れば、いろんなことが大変になってくるし、それに対して自分がどう向き合うか。そのなかの1つの選択が、私は介護脱毛だったんですね」

介護脱毛はどのくらい介護の負担を減らすのでしょうか。専門家を取材すると、少し意外な答えが返ってきました。

東京都介護福祉士会 会長 永嶋昌樹さん(日本社会事業大学 准教授) 
「排泄の介助の際は、毛がある状態、無い状態でも、介護福祉士など介護のプロにとっては、負担はほとんど変わりません。

毛を無くすことは個人の自由ですが、“毛があると介護者にとって迷惑になる”という考えは広がってほしくありません。要介護状態は誰もがなりうるものです。どんな人でも等しく受けられるサービスであるべきかと思います」

脱毛人気の陰でトラブルも…

「体毛は手入れするもの」という考えは、いつから広まったのでしょうか。1920年代の婦人誌を見ると、すでに脱毛剤の広告が載っており、「ムダ毛を無害に脱毛」という表現が使われていました。

奈良女子大学大学院で日本の脱毛文化の研究を進める河野夏生さんによると、今のような形で”身だしなみ”としての体毛処理が普及したのは明治時代の終わりごろからで、洋装化によって、肌の露出が増えたことが一つの契機になったと考えられているということです。

ただ近年、脱毛へのニーズが高まる中で、トラブルも急増しています。国民生活センターには今年度これまでに、脱毛エステに関する相談が約1万6000件寄せられました。すでに前の年度の4倍近くにのぼっています。

中でも多いのが、広告などで格安をうたいつつ、実際に契約をしたあとに支払いが高額に及ぶケースです。代金を前払いしたのに、予約を入れようとしてもほとんどできなかったという事例もありました。

街中やネット上にあふれる脱毛の広告に、別の懸念を示す人もいます。写真研究者として広告の分析などをおこなっている小林美香さんです。

こちらは、小林さんの監修のもとで、実際の広告を参考に再現したものです。

「毛のない状態が好ましい」などとうたうものも少なくなく、脱毛への同調圧力を生みかねないと小林さんは指摘します。 
中でも動画配信サイトやSNSで流れる動画の広告は、より強いメッセージが打ち出されているといいます。

写真研究者 小林美香さん 
「ストーリー仕立てにして、『脱毛をしないと嫌われる』『就職の面接で失態をさらしてしまう』などといって、脱毛に誘導していく。そういう広告がたくさんあると、強い強制力を持ちますよね。

若い世代の人たちが、『毛が生えているのはよくないこと』という意識や価値観を持つと、自分自身を傷つけてしまう。『こうあるべき』というものが広告によって刷り込まれていないか、自覚することが重要だと思います」

“ムダ毛”の表現をやめる カミソリメーカーの方針転換

こうした中、「毛」についての価値観を見直そうという動きもあります。大手カミソリメーカーでは、これまで広告で使ってきた、”ムダ毛”という表現をやめました。

さらに、これまではそりあがった状態の肌を広告に載せることが多かったのですが、産毛の画像を初めて広告に使用することにしました。”体毛はムダ”としてきた考え方を全面的に見直したのです。

シック・ジャパン マーケティング本部 マーケティングコミュニケーション 
マネジャー 古川滋子さん 
「会社の存在意義も問われるような大きな転換になるので、慎重に社内で議論を重ねながら進めてきました。ちょっとした表現をきっかけに、なんとなく思い込んでしまっていた考えを少しずつ変え、新しいものの見方ができるかなと思っています」

さらに新たに始めたのが、小学生向けの出張授業。性教育に取り組む産婦人科医と共同で、体毛についての向き合い方を考えてもらおうとしています。

成長期の子ども達にとって体毛が生えることは自然なことで、恥ずかしがったり、とまどったりする必要はないと伝えます。

産婦人科医

皆さんはこれから、いろんなところに毛が生えてきます。大人になると、どんなところに毛が生えそうですか。

児童

ちんちん。

産婦人科医

周りに毛が生えるかもしれませんね。 自分の体がどういうふうに変化していくのかを知ることで、不安な気持ちを減らすことができます。これも、体を大切にすることです。

体毛をどうするかは自分で考え、自分で選択することが大切だと、子どもたちに伝えていきたいと考えています。

シック・ジャパン 古川滋子さん 
「子どもたちが『嫌だなあ、毛が生えてきちゃった』と思うんじゃなくて、『成長しているんだな。そういう証なんだ』というふうに、ぜひ前向きに毛と向き合って、毛を好きになってもらいたいなと私たちは思っています」

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