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老舗の歌声喫茶「ともしび」(東京・新宿区)を守りたい 24歳の奮闘

  • 2023年2月7日

昭和の香りが色濃く残る「歌声喫茶」。その草分けとされる店が東京・新宿区にあります。新型コロナの影響で一時は閉店に追い込まれましたが、営業を再開した今は20代の若いスタッフが中心になって新たな試みを始めています。

目指すのは、一緒に歌って楽しむ文化を次の世代に引き継ぐことです。
(首都圏局/記者 岡部咲)

“老舗”歌声喫茶 2年ぶり再開

JR高田馬場駅から歩いて3分ほど。通り沿いにある雑居ビルの1階に「歌声喫茶ともしび」はあります。
店内では、スタッフが奏でるピアノやアコーディオンの調べにのせて、客やスタッフが懐かしい昭和歌謡を楽しそうに歌っています。

昭和52年当時の歌声喫茶ともしび

この店は歌声喫茶の草分けとも言われ、新宿区内で場所を変えながら60年以上にわたって営業し、昭和の歌声喫茶ブームを支えてきました。

NHKに残っていた昭和52年の映像には、若者であふれかえる店内の様子が映っています。インタビューに応じた客は、長年通っていることや、この店で妻と出会ったことを語っていて、歌声喫茶がいかに多くの人を惹きつけてきたかが伝わってきます。

昭和、平成、令和と時代が変わっても、店には当時を知る人たちが今も訪れていて、歌を通じた人とのふれあいが大きな魅力だといいます。

訪れた客

多種多彩な人が来ていて、みんなで歌うというのがいいですね。

訪れた客

21歳のときから来ているからもう54年になります。みんなで歌って歌手の気分になれる。カラオケとは違いますね。

訪れた客

お友達から誘われるとつい来てしまいます。元気をもらえるんですよ。

歌声喫茶に異色のスタッフ

客もスタッフも年配の人が多いこの店に、ひときわ若いスタッフがいます。
高橋諒佑さん、24歳。

専門学校で音楽を学んでいた5年前、アルバイト先としてこの店を紹介されたのを機に働くようになりました。それまで歌声喫茶に来たことはありませんでしたが、初日から客やスタッフの一体感に魅了されたといいます。

高橋さん
「ニコニコ、ワイワイしながらみんなが歌を歌うのを見ていました。すごくいい場所、すごく素敵な空間だなって思いました。結構すぐに溶け込めた感じで、やっぱりそれも歌声喫茶の良さの1つというか、若い人でも年配の人でも、どういう人が来ても受け入れてくれる。すんなりとその場になじませてくれるんです」

コロナ禍を経た店への思い

しかし、3年前、新型コロナの感染拡大で状況は一変します。

歌声喫茶の大きな魅力だった人とのふれあいが難しくなり、客足は遠のくばかりに。たちまち経営が成り立たなくなり、令和2年(2020年)9月、店は閉店に追い込まれてしまいました。

歌声喫茶での仕事に喜びを感じていた高橋さんも途方にくれたといいます。

高橋さん
「すごく居心地がよくて店が自分の居場所になっていたので、この先どうしたらいいのかなと思いました。ただのアルバイトでしたけれど、お店が閉まってしまうんだな、この空間がなくなってしまうんだなと思うと寂しくて」

店のホームページ

この状況を救ったのは、常連客など歌声喫茶の多くのファンの人たちでした。
店のホームページなどで募金を呼びかけたところ、のべ3000人から総額6000万円もの寄付が集まったのです。

店は、去年11月、場所を移して高田馬場で復活することができました。
店長の齊藤隆さんも、歌声喫茶の価値に改めて気づかされたといいます。

歌声喫茶ともしび店長 齊藤隆さん
「歌声喫茶の伝統をここで終わらせちゃいけない。その責任の重さもすごく感じましたね。店を再開できて、まずはほっとしました」

店の営業再開にあわせて正社員に登用された高橋さん。多くの人たちから愛されているこの店をこれからも存続させるにはどうすればいいのか、しっかり課題を見据えていました。

高橋さん
「歌声喫茶の文化を引き継いでいくことを考えると、やっぱり新しいお客さんをどんどん迎え入れていかないといけない。いかに今の現役世代だったり私と同じ年代だったり、そういう若い世代の人たちに歌声喫茶の価値を知ってもらうかが大事だと思います」

若い世代へPR新たな挑戦

「ともしび」では今、高橋さんを中心に若い世代を取り込む新たな試みを始めています。

その1つが、店で歌う曲をまとめた歌集の更新です。

歌声喫茶は客がリクエストした曲をスタッフが演奏してみんなで歌うので、若者になじみのある曲を中心に新たにおよそ90曲を加えました。

「栄光の架橋」や「ひまわりの約束」など、若者だけではなく常連客も思わず口ずさみたくなるような曲を選んだといいます。

また、若い世代との接点を増やそうと、SNSでの情報発信も始めました。
LINEの公式アカウントをつくり、イベントの告知をしています。ツイッターやYouTubeでの発信も積極的に行っていて、まずは歌声喫茶のことを知ってもらいたいと考えています。

さらに、店の臨場感を伝えようと、月に1回ほど、盛り上がる店内の様子を有料でネット配信する取り組みも行っています。

店の天井などにカメラ3台とマイクを設置。高橋さんがパソコンを操作して、配信の画面を切り替えたり、音量を調整したりしています。
若いファンを増やそうと奮闘する高橋さんたち若手スタッフの提案を、齊藤店長も頼もしく感じています。

齊藤店長
「若い世代にも支持されるお店でないといけない。若いスタッフが入ってきて力を発揮してくれて、本当に助かったし良かったと思っています。若い発想は僕にはわからないのでどんどん変えていってもらいたいです」

歌声喫茶の文化を次の世代に引き継いでいきたい。高橋さんはその役割に大きなやりがいを感じています。歌集に載っている曲の練習に励んだり、ベテランスタッフから場を盛り上げるトーク術を学んだりと、みずからの腕前を上げることにも余念がありません。

高橋さん
「一緒に歌うことでその場にいる人どうしのつながりができるのが歌声喫茶のいいところだと思います。もう本当に1度来てもらって楽しんで帰ってもらえれば、きっと良さが伝わるんじゃないかと思います。常に若い人がお店にいるっていうのが当たり前な歌声喫茶にできればいいですね」

営業を再開し、若い力にも支えられる歌声喫茶「ともしび」。歌うときもマスク着用をルールにして、換気装置も整えるなど感染対策を徹底しているということです。
高橋さんたちは学生向けのPRイベントなど、今後もさまざまな方法で歌声喫茶の魅力を伝えていきたいと考えています。

  • 岡部咲

    首都圏局 記者

    岡部咲

    2011年入局。宮崎局、宇都宮局を経て、現在は防災・減災や医療問題など取材。

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