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もう一人保育士がいたら…「子ども主体の保育」を取材

  • 2023年2月6日

最近、保育士による不適切保育について私たち(取材班)も取材する機会が多く、「保育の質」の重要性を痛感しています。

そこで、気になっているのが国の指針でも保育所に導入を求めている「子ども主体の保育」です。「保育の質」にも関わるというこの子ども主体の保育。従来の保育と何が違うのか、その狙いと課題は?

早速現場を取材させてもらいました。
(保育現場のリアル取材班/記者 浜平夏子、ディレクター 後田麟太郎)

※現場の声、保護者の声を引き続きこちらまでお寄せください。

保育士歴40年のベテランも実践

その保育所は埼玉県所沢市のあかねの風保育園。この園も「子ども主体の保育」に取り組んでいます。
そこで保育士として働く仲葉子さん(61)です。実は以前にも取材をさせていただきました。

今回「子ども主体の保育」を記事にするにあたり、再度、仲さんに取材をお願いしたのは、保育士歴40年のベテランだからこそ、過去と今の「保育の違い」を肌感覚でわかるのではないかと思ったからです。

現在、仲さんが担任をしているのは、2歳児のクラス。園児12人を同僚の保育士と2人で担当しています。

あかねの風保育園 仲葉子さん
「昔の保育はわりと管理的でしたね。今は子どもの思いを大人がしっかり受け止め、子どもが安心して何でも言える環境をと思っています」

ベテラン保育士も大変! 子ども主体の保育

仲さんの保育の様子に密着させてもらいました。
午前8時30分には、多くの子どもたちが登園します。仲さんも、園庭で元気よく遊ぶ子どもたちと一緒になって遊びます。

仲さんは、おままごとをしたいという子どもに付き添いましたが、教室の中をのぞいてみると、絵本を読んだり、おもちゃで遊んだりする子どももいます。

どんな遊びをしたいかを決めるのは、あくまで子どもたち自身。保育士はその子どもたちの意思を尊重し、見守りサポートして、また子どもたちの遊びが深まるように工夫します。

しかし、現場は予想以上でした。
ある子どもの大好きなドーナツのおもちゃが見つかりません。仲さんは一緒に探しますが、途中で別の子どもたちから次々とだっこをせがまれます。

61歳の仲さんは両脇に子どもをだっこしながら、別の子どもたちの安全にも目配りし続けます。“これは本当に大変だ”と思わずにはいられませんでした。

仲さん
「子どもたちの気持ちを尊重しながら保育をしていますが、人手不足は感じます。こういうとき、もう1人保育士がいてサポートしてくれたらと思うんですよね」

食事の時も意思を尊重

この保育の考え方は給食の時間にも浸透しています。給食は全員そろって「いただきます」はやりません。

準備ができしだい、食べたい子から食べます。
(※3歳児以降は、一斉に「いただきます」をすることもあります)

仲さんは、遊んでいる子どもに無理矢理遊びを中断させることはしません。
「おいしいごはんできましたよ~」と声かけをして子どもが自ら食べたいと思えるよう促します。

食事の量も、「どれくらいの量食べる?」と子どもたちひとりひとりに尋ねます。個々の意思を尊重しながら、みんなが安全にしているか、とても注意が必要な時間なんだと感じました。

「子ども主体の保育」とは

そもそも「子ども主体の保育」とはどんなものなのか。

それは厚生労働省が2018年に施行した『保育所保育指針』に明記されました。
この指針は国が保育内容や保育に対する考え方をまとめたものです。1965年に最初に制定され、以来数回の改訂を重ねてきました。

かつて多くの保育所で行われていたのは、保育士が主導して協調性などを身につける集団の保育でした。

しかし、そうした保育の方針は転換され、2018年に施行された指針に「子ども主体の保育」という文言が初めて盛り込まれました。自分でやりたいことを見つけて、方法を考えて達成することの大切さが書かれています。

また、幼稚園と保育園の機能を合わせ持つ「認定こども園」など、幼保一元化の動きが進み、保育所にも幼児教育の考え方を取り入れたことも理由の1つにあるといいます。
専門家はこの「子ども主体の保育」の意義について次のように話しています。

玉川大学 大豆生田啓友教授
「これまで乳幼児は、大人に教えてもらわないとわからない存在とみられてきました。しかし、今は子どもは自ら育つ存在と見なされています。子どもが興味を持って遊んでいるときに豊かな学び・育ちがあるというのが主体性の重要なポイントです」

「子ども主体の保育」は時代にあった保育だなと思います。
実際に取材した園では、いきいきとした子どもたちの様子がとても印象的で、子どもたちが自分のやりたいことにチャレンジしていました。

一方で、仲さんたち保育士の大変さも目の当たりにしてきました。その理由を考えると、これまでも何度も取り上げてきましたが、保育士の配置基準の問題を考えざるをえません。

子どもの年齢によって必要な保育士の数を定めた配置基準は、75年前からほとんど変わっていないのです。

仲さん
「保育士の仕事は、とても楽しいしやりがいのある職業だと思っています。しかし、労働環境が厳しい。それに加えて今は、保育のやり方が、“子どもの主体性を大事”にとか言われます。“子どものやりたいことができるように”と言われますが現実に人がいないと、危険が伴ってしまうこともあるので、矛盾しているなと思うことはあります。

子どもたちそれぞれで、やりたいことは違うし思いも違うので、それを実現しようとすると人が少ない。
そうなると、見える範囲、目の届く範囲に置いておかなければ危険が生じる。『行っちゃダメ』『待っていてね』が増えてしまう。

これが子どもの主体性を尊重する保育なんだろうか。配置基準を見直してほしい、そう思います」

配置基準の見直しを~子ども主体の保育を実現させるために

取材を通して見えたのは“子どものための保育をしたい”、“子ども主体の保育をしたい”と思いながらも、現場はその人手が足りない。そのギャップに苦しむ保育士の姿でした。

4月にはこども家庭庁も発足し、そこでも今の保育の問題点は議論されます。こうした現場の声に国もぜひ耳を傾けてほしいと思います。

私たちは引き続き取材を続けます。現場の声、保護者の声を引き続きこちらまでお寄せください。

  • 浜平夏子

    首都圏局 記者

    浜平夏子

    2004年(平成16年)入局。宮崎局、福岡局、さいたま局を経て、2020年から首都圏局。医療取材を担当。

  • 後田麟太郎

    首都圏局 ディレクター

    後田麟太郎

    2015年入局。松山局を経て2019年から首都圏局。 これまで医療や介護・貧困に関心を持ち取材。

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