将来の妊娠に備えるために行う、卵子の凍結保存。東京都は、健康な女性が卵子の凍結保存を行う際の助成制度をつくるために調査を始めることにしています。
対策に乗り出した背景にあるのは、働きながら出産のタイミングに苦悩する人たちのニーズです。
(首都圏局 都庁担当/記者 金魯煐)
都内に住む30代の女性は、数年前、卵子を凍結しました。
きっかけは、不妊治療を経験した友人のすすめで受けた「AMH検査」でした。
女性のAMH検査結果
年齢とともに減っていく卵子が、卵巣内にどれぐらい残っているかを推測する血液検査のことで、結果は、同世代の標準値と比べてかなり低いものでした。
医師からは、子どもを持ちたいという思いがゼロではないのなら、卵子を凍結することもひとつの選択肢だと説明を受けました。
女性
「病院の先生に、閉経間近の45、6歳の数値だと言われて大きなショックを受けました。生理痛もほぼない体質で過去に婦人科系のトラブルもゼロ。健康には自信があったので、なんとなく出産するなら30代後半でも自分は大丈夫だろうと、婦人科にかかったことも、検査をしたこともなかった」
それまで、出産を具体的に考えたことはありませんでしたが、「いつかは子どもがほしい」と漠然と考えていたという女性。
検査を受けた当時は、翌月に転職を控えていて、プライベートではパートナーと交際しはじめたばかりの頃で、今すぐに出産を考えられるような状況ではありませんでした。
「やりたいことを続けながら、体の砂時計を止められるなら」
悩んでいる時間はないと女性は卵子の凍結保存を決断し、検査を受けた1か月後に予約をとりました。
「将来の妊娠の確率を高めるためには、20個ほどの卵子を凍結するのが望ましい」と医師から説明を受けた女性はおよそ3か月ごとに3回の採卵手術を受けました。
大変だったのは採卵までのスケジュールでした。
直前の2週間は、卵子の状態を検査するために、数日おきに通院しなければなりません。
その検査の結果次第で採卵日が決まるため、事前に予定を立てることが難しく、仕事との両立に苦労したといいます。
女性の卵子
取り出せた卵子は合計18個。女性が利用した病院では、1回の採卵ごとにおよそ40万円がかかったといい、保管費用などを含めると支払った総額は100万円を超えました。
経済的な負担は重かったですが、「そのとき自分にできるベストチョイスをした」と振り返ります。
凍結保存をしたことで、焦らずにライフプランを考えられるようになったという女性。後悔はありませんが、他人に話せない「後ろめたさ」のようなものを感じるとも話します。
女性
「SNSで『凍結までして必死だね』という書き込みを見ることもあって、独身女性への厳しい目線がある気がします。話題にしづらいので、メリットやデメリットについても知るチャンスが限られてしまう」
女性が利用する凍結保管サービスを提供する会社では、「興味はあるがよく分からない」という人たちの判断材料を増やそうと、経験者が登壇するセミナーや座談会を定期的に開いています。
自身も、病院選びやリスクなどについて情報収集に苦労したという女性は、疑問や不安を少しでも解消したいと、凍結までの体験を語る活動をしています。
女性
「私は卵子凍結をするまで、卵子の在庫に個人差があることやプレコンセプションケア(将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うこと)について全く知らなかったんですね。望んだときに『もう遅かった』ということがないよう、自分の体験を話すことで、悩んでいる人の助けになればうれしい」
健康な女性が卵子を凍結保存することについて、日本生殖医学会は、「採卵時の年齢は36歳未満であることが望ましい」との見解を示したうえで、「凍結保存した未受精卵子の使用にあたっては、加齢によって母体や胎児へのリスクが高まることを十分に考慮すべき」としています。
小池知事は、「どのような形で進められるのかなど課題を整理したい」と話し、ガイドラインを策定する方針を示しています。
「いつか子どもがほしいけど、今じゃない」。
取材をした女性の葛藤は、去年、31歳で転職した私自身にも重なるものがありました。
「女性活躍」と「少子化対策」が矛盾しない社会にするためには何が必要か、取材を続けます。