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新型コロナ対策 学校給食の“黙食”どうしてる?第8波で現場は

  • 2023年1月27日

新型コロナウイルス対策として、学校で行われてきた給食の際の「黙食」。

去年11月、文部科学省は給食の時の過ごし方について、「適切な対策を行えば会話は可能」とする通知を都道府県の教育委員会などに出しました。

一方で、給食の際の会話について、最終的な判断は自治体や学校に委ねられています。

第8波のなか、学校現場はどう対応しているのでしょうか。
(首都圏局/記者 桑原阿希)

“黙食緩和”の小学校は

まず取材に訪れたのは、東京・多摩市の北諏訪小学校。
3年前に新型コロナウイルス対策として行われた一斉休校のあとから、給食の際に会話を控える「黙食」を指導してきました。

しかし、国や自治体からの通知などを踏まえ、この小学校では去年12月初めから方針を転換し、「黙食」を求めないことにしました。

給食の際の感染対策として、子どもたちには前を向いたまま、隣の児童と机を離し一定の距離を開けるよう指導しています。

5年生のクラスでは、校内放送でクイズが出題されると、近くの友だちと小声で相談したり、ジェスチャーを送りあったりしていました。

児童

新型コロナが広がるのは怖いけど、みんなと明るく過ごしたいので、給食の時にも少し話すようになりました。

教員

「おいしいね」と隣の友だちと話す姿を見るとうれしい進歩だと思います。
一方で新型コロナの感染拡大前の給食の姿に戻ってほしいという気持ちはありますが、いまも感染には注意が必要で、折り合いを付けるのが難しいと感じています。

この小学校では「黙食」を求めないことで、子どもたちが食事をより楽しめる環境を作るとともに、会話の時は小声で話すなど食事中のマナーの指導にも力を入れることにしています。

ただ、子どもたちの中には、長い間「黙食」を続けたことでそれが習慣のようになり、あまり会話しない子どもも少なくないということです。

北諏訪小学校 木下雅雄校長
「食事中に全く話さないのは不自然なことだと思うので、どうしたら子どもたちが給食の時間を楽しく過ごせるかという視点で対応を考えていきたいです」

“黙食継続”の中学校は

一方、東京・江戸川区の松江第一中学校では、3年前から始めた給食の時の「黙食」の対応をいまも続けています。

その最大の理由は、2月から本格化する高校入試です。

新型コロナの第8波で、この学校では去年12月、1クラスが学級閉鎖に。
3学期に入ってからは、インフルエンザに感染する生徒も出ています。

過去には、入試の数日前や当日に生徒が新型コロナに感染するケースもあったといい、本格的な受験シーズンを前に警戒感を高めています。

江戸川区では給食の際、感染に気をつけながら小声で会話することは可能だとしていますが、具体的な対応は各学校の判断に委ねられています。

この中学校では、校内で検討を重ねた結果、受験シーズンを迎えている中学3年生への感染を防ぐことを優先し、当面、すべての学年で「黙食」を継続することにしました。

3年生の教室では、生徒たちは机を前に向けたまま隣の生徒と一定の距離を開けて静かに食事をとり、食事が終わると再びマスクを着けて、本や参考書を読んでいました。

中学3年生の生徒

受験にも影響があるので黙食の方が安心して過ごせます。一方で黙食には慣れましたが、やはり友だちと話せないことに寂しさも感じます。新型コロナがなければみんなで楽しく給食を食べたかったです。

この中学校では受験シーズンが終わりしだい、感染状況を踏まえた上で「黙食」を続けるか、改めて検討することにしています。

松江第一中学校 山岸健校長
「子どもたちがワイワイと給食を食べる姿をみんな見たいと思っているし、子どもたちもそれを願っています。ただ、学校として一番大事なのは子どもたちが安心安全に生活できることで、次の3年が決まる大事な時期にやはりベストな状況で臨んでもらいたいです」

“黙食”をめぐる方針 政府が転換

新型コロナ対策として、飲食店や職場などで呼びかけられてきた「黙食」。
その対応は、オミクロン株の特徴を踏まえた感染防止対策として、去年2月に政府の新型コロナ対策の基本的対処方針に盛り込まれました。

学校現場では、文部科学省のマニュアルの中で、給食では、「飛まつを飛ばさないように机を向かい合わせにしないことや、大声での会話を控えるなどの対応が必要」と記されています。

政府は去年11月、基本的対処方針を変更し、「黙食」の記述をなくしました。
これを受け文部科学省は、給食の時の過ごし方について、適切な対策を行えば会話は可能だとする通知を都道府県の教育委員会などに出し、地域の実情に応じた取り組みを検討するように求めています。

東京23区の対応は

学校現場の給食の時の過ごし方について取材していくと、東京23区の自治体でも対応方針がわかれていました。(1月26日時点)

小さな声で会話を認めるなど「緩和」の方針に転換(12区)
新宿区、文京区、江東区、品川区、世田谷区、中野区、杉並区、荒川区、板橋区、足立区、葛飾区、江戸川区

“黙食”や食事中の会話を控える対応を「継続」(7区)
千代田区、中央区、港区、墨田区、目黒区、豊島区、練馬区

去年11月の国の通知の前から、基本的な感染対策をとった上で、小さな声で会話をしてもよいなどとしている(4区)
台東区、大田区、渋谷区、北区

こうした給食の対応方針については、最終的な判断を各学校に委ねている自治体もあり、
学校では手探りで対応を検討しています。

専門家「一律ではなく 個別に判断して対応を」

生徒指導に詳しい専門家は、学校現場の給食時の過ごし方について、一律ではなく、子どもたちの意見を聞きながら学校や学級単位でその状況に適した対応を選ぶことが求められていると指摘しています。

大東文化大学文学部教育学科 山本宏樹 准教授
「この3年間はトップダウンの指導が一時的に強まったが、これからは先生側が“どうしようか”と子どもたちに問いかけてみんなで議論し、状況に応じてクラスや学校単位で自分たちのルールを作ることが大事だと思う。今後も新型コロナの対応は続くと思うが、学校現場では子どもの声を大事にしながら集団生活を送っていくことが求められる」

「マスク着用」については

学校現場では、ほかにも今後の対応が注目されている新型コロナ対策があります。
「マスクの着用」です。

政府は、新型コロナの感染症法上の位置づけを季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行する議論とあわせ、マスク着用のあり方についても、今後は個人の判断に任せる方向で検討しています。

このマスクの着用についても、学校現場の取材ではさまざまな意見が聞かれました。

 

ルールが緩和された場合、子どもたちの状況や意見を踏まえ対応する。

 

今の状況ではマスクをつけない対応は難しいと思う。

生徒指導に詳しい専門家は、次のように指摘していました。

大東文化大学文学部教育学科 山本宏樹 准教授
「子どもの中には基礎疾患を持っていたり、高齢者と同居していて感染することを恐れている子どももいる。個別の事情に配慮して子どもにとって過ごしやすい環境を考えていかなければならない」

取材後記

今回の取材で、学校の先生たちは、子どもたちが置かれた環境を踏まえ、大切にするべきものは何か、悩みながら判断していました。

一方で、子どもたちも決められたルールの中で教室でマスクを着けて、黙食が緩和されても小さな声で話すなど、今もひたむきに毎日を過ごしています。

学校生活の充実と子どもたちの安全安心をどうやって両立していくか。

新型コロナをめぐる対策が変わっていく中、子どもたちの置かれた状況に配慮しながら、学校や学級など小さい単位で、個別に対応を考えることがより求められる局面に入っていると感じました。

  • 桑原阿希

    首都圏局 記者

    桑原阿希

    平成27年入局。富山局を経て首都圏局。 福祉・医療分野のほか、学校現場への新型コロナの影響やヤングケアラーを取材。

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