各地で相次いで発覚する不適切保育。本当に心が痛みます。そんな取材をしている私たちにこんな投稿が寄せられました。
「私もブラック保育園で働いていました。そこには、若い保育士が辞めたくなるような保育園の実態があります」
声を寄せてくれたのは、東日本に住む元園長です。“もっと不適切保育が起きる背景を知ってほしい”と訴える元園長に早速話を聞きました。
(首都圏局/保育現場のリアル取材班 浜平夏子)
数年前まで、新設の認可保育園で園長をしていた女性。いきなりショックな話を口にしました。
その保育園は開設当初から人手不足のため国の保育士の配置基準を満たしていなかったというのです。
配置基準というのは、上の表のように園児の年齢にあわせて配置される最低限の保育士の数ですが、それを下回ることは原則あってはならないはずです。
配置基準について詳しくはこちら
元園長
「働き始めてびっくりしました。運営側に配置基準満たしてもらうよう“保育士を採用してください”って話をすると、“求人は出しているのだけど、来ないんだよ”って言われました。それを信じて一生懸命やっていたのですけれども…」
保育士が配置基準に満たないことで、園にいる保育士たちにそのしわ寄せがいきました。
この園では、昼の休憩時間が長めに設定されていましたが、実際にはほとんど取得することができませんでした。勤務時間も10時間に及ぶ日もあったといいます。
ある日、元園長は、運営側が自治体に提出する保育士の名簿を見る機会がありました。
それを見て驚いたと言います。なぜならその名簿には、元園長が知らない保育士の名前があったのです。
元園長
「いわゆる“名義貸し”ですよね。もうびっくりですし、もちろん運営側に対しての不信感、もうここで保育をできないなっていう悔しさと悲しさとですね。必死になって現場で働いていたのに、配置を満たすための保育士を最初からもう採用する気がなかったのじゃないか、疑念がわきました。ブラック保育園だったと思います」
休憩もとれずに長時間に及ぶ勤務、まさにギリギリのなかでの保育だったといいます。
そして、心配していた出来事が起こります。
ある日、保育士2人と1歳児クラスの子どもたちが公園に散歩に出かけました。散歩から戻り、園の入り口で人数を数えたところ、園児が1人足りなかったのです。
「○○ちゃんがいない!」
保育士が青ざめて、通った道を戻って探しに回りました。すると、園児は公園の砂場に1人でちょこんと座っていたといいます。
元園長
「公園の周りは道路ですから、1人で公園の外に出たら交通事故に遭う危険もあったし、連れ去り事件にあった可能性もありました。本当に冷や汗ものでした。しかし、大きな事故にならなかったとして、運営側は、本来報告すべき保護者や自治体に報告しませんでした」
過酷な労働環境だけでなく、決められた人員も配置されず、結果的に子どもの安全も脅かされる現状を目の当たりにし、女性は1年ほどでみずから園長を退きました。
働いていた同僚の保育士たちも相次いで退職したといいます。
元園長は自身のこうした経験から、園が適切に運営されていないと、不適切保育の温床になりかねないと警鐘をならしています。
元園長
「待機児童の解消のもと、保育施設を増やすことばかりを優先して、保育の質はどんどん下がってきている気がします。
保育の理念を持たない運営側が、飲食店のシフトを組むように、人数合わせて保育士のシフトを組む。そして、名義貸しを悪気もなくやってしまう、そんな環境は、ヒヤリハットの事案が起きやすいと思います。
不適切保育をしたくて保育士になった人はいないと思います。みんな学生の時に夢を抱いて就職するのですけれども、余裕のなさと閉鎖的な空間の中で、何が正しいのか分からなくなってしまう。相談できる上司がいない、見本になる保育士がいない、それが不適切保育につながっていると思います」
保護者の視点で保育園問題と向き合ってきた普光院亜紀さんは、次のように話します。
「保育園を考える親の会」顧問 普光院亜紀さん
「保育士がいきいきと保育ができないと保育の質は上がらない。保育士自身がゆとりを持って、子どもに愛情深く接することが大切です。
そのためには、給与や休憩時間など労働環境を整えて保育士を大切にする運営側の視点がなければいけない。
例えば、以前は保育園の人件費は、ガチガチに決まっていて柔軟に運営できなかったのですが、今は逆に弾力化運用されていて、人件費を本社のほうに上げて新規事業の拡大にあてる運営側もあるんです。
保育士、子どもを大切にするために、今後はそういった事業費の使い方もある程度しっかり透明性を高める必要があると思います」
意見をお寄せください
ことし4月には「子ども中心」を掲げるこども家庭庁が設置されます。
取材していると、現場の保育士たちからは“今が保育が変わる最後のチャンスなのかもしれない”といった声を耳にします。
わたしたちは、これからも取材を続けます。ぜひご意見をこちらの 投稿フォーム よりお聞かせください。