性感染症の梅毒の感染者が急増しています。特に注意が必要なのが妊娠中の女性の感染で、母子感染すると子どもが「先天梅毒」になり、流産・死産につながったり、難聴や知的障害などが出たりすることも。「自分は不特定多数の人と性行為はしていないから大丈夫」と思っていても、恋人や配偶者からうつってしまうこともあります。症状や治療法は?感染をどう防げばいいのか?性教育漫画がSNSで大きな反響を呼んでいる漫画家のヲポコさんと取材してきました。
(首都圏局/ディレクター 竹前麻里子、科学文化部/記者 三谷維摩)
漫画家のヲポコさんが、梅毒など性感染症に詳しい医師に話を聞き、先天梅毒の症状や予防法をわかりやすく漫画にしました。
梅毒感染拡大の背景を取材した記事はこちら。
梅毒に感染するとどのような症状が出るのか、検査はどのように行うかなど気になるポイントを、産婦人科医で日本大学医学部主任教授の川名敬さんにさらに詳しくうかがいました。
日本性感染症学会監事・日本大学医学部主任教授 川名敬医師
Q.梅毒にかかると、どのような症状が出るのですか?
初期は性器にしこりができたり、潰瘍ができたりするのですが、痛みを伴わない場合が多いです。症状がすぐに消えてしまうこともありますし、無症状の人もいます。
Q.症状が分かりづらいんですね。
症状が出ても気付かなかったり、「治ったからいいか」と思い込んだりする人は多いです。ここが梅毒の怖いところで、症状が消えても薬を飲まないと治らないので、その間に誰かにうつしたり、妊娠中の女性だと母子感染して、赤ちゃんが先天梅毒になってしまったりすることがあります。梅毒は、”偽装の達人”と呼ばれるくらい多彩な症状があり、別の病気と区別がつきにくいことがありますので、疑わしいときは保健所や病院(婦人科や泌尿器科、性感染症内科など)で抗体検査をしてください。
梅毒トレポネーマ
Q.検査はどのようなものですか?
血液検査で感染しているかどうかがわかります。保健所では匿名で検査が受けられます。
Q.先天梅毒はどんな病気ですか?
梅毒に感染した女性が妊娠したり、妊娠中に梅毒に感染したりすると、梅毒が血液を通って胎盤から赤ちゃんの体に入り、赤ちゃんが感染することがあります。これが先天梅毒です。
Q.妊娠中に風疹に感染すると赤ちゃんに障害が出るという話は聞いたことがあるのですが、梅毒も赤ちゃんに影響を与えることがあるんですね。
妊娠中に感染すると胎児に影響を引き起こすことがある病気をまとめて「TORCH(トーチ)症候群」といいます。Tはトキソプラズマ、Oが梅毒など、Rが風疹、Cがサイトメガロウイルス、Hがヘルペスウイルスで、注意が必要です。
Q.性行為の際にコンドームをすれば、感染を防ぐことはできるのでしょうか。
コンドームを付けると感染の確率を下げることはできますが、「付ければ大丈夫」とは言えないです。梅毒はオーラルセックスでもうつるので、ペニスを膣に入れるときだけコンドームを付けても、感染を完全に防ぐことはできません。
Q.もし梅毒に感染したら、治療を受ける際の注意点はありますか。
ペニシリンという抗生物質が処方されることが多いのですが、4週間はしっかり飲んでください。途中で飲むのをやめてしまうと完治しません。ただ、妊婦健診で梅毒に感染していることが分かった妊婦さんが、薬を4週間しっかり飲んだとしても、14%は母子感染してしまいます。
Q.妊娠中に感染しないことが重要なんですね。
そうです。梅毒は決して特殊な人がなる病気ではありません。これだけ感染が広がっていると、どのような人でも、性行為や性的接触をしていれば感染する可能性があります。妊娠を考える女性やそのパートナーは、妊娠前に気軽に検査をしてほしいと思います。