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保育士の虐待 元園長の証言「私の保育園でも虐待が…」なぜ?

  • 2022年12月9日

「私のいた保育園でも、虐待に近い行為がありました」

こんな投稿を、保育所の元園長が、私たち取材班に寄せてくれました。
早速、本人に話をうかがうと、保育所が今、直面する根深い問題が見えてきました。
(保育現場のリアル取材班/記者 藤田梨佳子)

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保育現場のリアル

園児への虐待 寄せられた声

私たちは、この夏から「保育現場のリアル」と題して、さまざまな保育の実態や課題を取材しています。

静岡県の保育所で起きた園児への虐待事件について、皆さんに投稿を呼びかけたところ60人を超える方々からさまざまな情報をいただきました。投稿者の多くは、保育士の方々からです。
みなさん、ほぼ全員が、「虐待は絶対あってはならない」「同じ保育士として恥ずかしい」と語っています。

ただし、なかには、「一つ間違えれば私の園でも」とか、「うちの園でも虐待があった」といった投稿も複数寄せられました。

元園長の証言「虐待の隠ぺい ありえる」

今回取材に応じてくれた元園長もそんな1人です。
20年近く保育士を務め、関東地方の保育所で園長をしていました。
まず、私が今回の事件についての率直な受け止めを聞くと、元園長はこう語り出しました。

元園長
「あまりにもひどい事件だと思いました。ただ、園長が隠そうしたのではとニュースでみて、自分の体験上、ありうることだとも感じました。大変残念ですが、保育現場では虐待に近いことはあると思っていました。今回私が話をさせて頂くのは、こうした不適切な保育をやめてほしいからです」

「廊下で食事」「小突く」「わざと泣かせる」

私が、「自身の園でもあったんですか」と伺うと、元園長はこう続けました。

元園長
「ある保育士が、給食を食べない子を、廊下に立たせたり、廊下で食事させたりしたことがありました。子どもは激しく泣いていて、私はそれに気付いてどうしたんだろうと見に行ったら外に出されていました。また、飲み物をこぼした子の頭を小突いたり、わざと泣かせたりしたこともありました。公園に連れて行き、気に入った子だけ、遊具を使わせるといったこともあったようです」

また、言うことを聞かない子に、「このままでは、赤ちゃんクラスだよ」と叱り、引きずって連れて行ったことも起きていたといいます。子どもたちは、すごくおびえてしまい、怖い先生たちには近寄らなくなったり、朝泣きながら登園したりする子もいたそうです。

私は女性に、「元園長として、これらの事態を知った時、どうしたのですか」と問いました。

すると元園長は、「すぐに止めるよう、指導しましたが、気づけなかったこともたくさんありました。私自身の力不足でした」と答えたうえで、こう続けました。

元園長
「こうした行為をした保育士は複数人いました。良い先生と思っていたので、とても残念でした。辞めさせるべきかと思いましたが、保育士が足りず、代わりがいませんでした。さらに、そうなると運営側から責任を問われるので、どうしたらいいかとずっと悩んでしまいました」

いらだちを子どもに…暗黙のルールも

こう聞いて、私自身も頭が混乱しました。
子どものことが大好きで、保育に強い使命感を持つ保育士がなぜこうした行為をするのか、分からなかったからです。
その疑問をぶつけると、元園長はいろんな理由があると思うと断ったうえで、一番の理由は、余裕がないことによるいらだちだったのではないかと答えました。

元園長
「保育士の業務は、年々多くなっています。さらに、人手不足で1人の保育士に負担が集中しています。慢性的な忙しさと余裕のなさでいらだちを覚えている人は少なくないと思います。それを、絶対にあってはいけませんが子どもたちにぶつけていたと考えています。
さらに、多くの保育所では新人保育士の育成システムが現場任せです。そうなると、虐待に近いことをしている先輩保育士の行為を後輩もまねてしまうこともあります。他人の保育士のやり方に、口出ししないという暗黙のルールみたいものもあったと思います」

虐待の背景に目を向けて

ここ最近、私たち取材班には、この元園長以外にも、虐待に関する投稿が60件以上寄せられています。

「3歳児20人近くを1人で担任した経験があります。本当につらかったです。やんちゃな子、マイペースな子、手のかかる子、そんな個人差がある20人を1人でどう見れば?
もちろん虐待はだめです。ただ、全く気持ちが分からない訳でもないと思ってしまったのが正直な気持ちです」
(保育士)

「静岡の保育士の虐待、これはひどいと思います。
ただ、現場の保育士はそんな人たちばかりではありません。給料は全く見合っていませんが、私たちは心をこめて子どものことをお預かりしています。毎日一人ひとりの子の特徴をみて、少しでも成長を感じたら、みんなで喜びます。今の報道だけでは、さらに保育士不足になってしまうのではないでしょうか」
(埼玉県・保育士)

「私は保育所で働く栄養士です。虐待は許されず、悪いことです。ですが、保育園の実態も知って頂きたいです。朝7時から夜7時まで、0歳児から就学前の子たちを預かります。
保護者のなかには、離乳食やトイレトレーニングもしてほしい、英会話も習わせてといった要望もあります。子どもが帰ってから残業し、家に持ち帰っての仕事もあります。そんな仕事で手取り10万円台です。
どうかみなさん知ってください。保育園があるから、働けるということ、その保育園で働いている人たちにも家族がいるということを」
(女性栄養士)

 

どれも、とても考えさせられる内容です。今回の事件は、絶対に許されることではありません。
ただ、今回の取材を通して、これらの問題を防ぐには、今のあまりに悲惨な、保育士の働き方や待遇、さらに、保育士の配置基準の問題を真正面から向き合う必要があると感じます。引き続き取材を続けたいと思います。
ご意見や情報をこちらの 投稿フォーム よりお寄せください。

  • 藤田梨佳子

    水戸局 記者

    藤田梨佳子

    2021年入局。初任地の水戸局で、県警・司法などを担当。母が保育士。保育現場の取材も継続していきたいです。

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