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ヤングケアラーの葛藤「家族か自分の人生か」迫られる選択

  • 2022年11月21日

家族の介護や世話を日常的に担うヤングケアラー。その割合は中学生の約17人に1人、高校生の約24人に1人にのぼります(国の実態調査より)。当事者を取材すると、進学や就職の際に「家族か、自分の人生か」という厳しい選択を迫られていることがわかりました。どうすればヤングケアラーの人たちが自分らしい人生を送ることができるのか。当事者の声を取材しました。
(全2回のうち1回目/続きを読む
(さいたま放送局/記者 二宮舞子、首都圏局/記者 桑原阿希・ディレクター 岩井信行)

家族か 自分の人生か 選択を迫られるヤングケアラー

高校3年生の健人くんは、幼いころに両親が離婚し、母親と小学生の弟と3人で暮らしています。母親は脳性まひで手足を動かすのが年々難しくなり、家事はほとんどできません。

左から母親、弟、健人くん

このため健人くんが、母親の介護や家事、弟の世話などを担ってきました。
母親の着替えを手伝ったり、飲み物が飲みやすいようコップにストローをさしたりと常に気を配ります。
定期的にヘルパーの支援を受けていますが、食事の準備や洗濯などの家事が1日5時間に及ぶこともあるいいます。

健人くん
「自分も困っているといえば困っているのですが、自分の中では家事や介護をやることが当たり前になっています」

高校卒業を前に、健人くんはいま大きな悩みを抱えています。大学進学を機に家を出るか、このまま残って家族のケアを続けるか、決断を迫られているのです。

進学して1人暮らしをする場合、学費や生活費は全て自分でまかなわなければなりません。また、弟はまだ小学生で、頼れる大人もほとんどいません。

健人くんは進学に向けた準備を進める一方、本当に家を出てもいいのか決められずにいました。

「自分が今やっている介護や家事を全部、弟に任せることになるんじゃないかという心配はあります。1人暮らしをしたいという気持ちはありますが、本当にいま、家を出て大丈夫なのかなと」

家族と離れる選択をした女性も

家族か、自分の人生か。かつて、障害がある母親と離れる選択をした女性がいます。アヤさん(仮名・36歳)です。

アヤさんは知的障害の母親と、気性が荒かったという父親のもとで育ちました。長女だったアヤさんは、2人のきょうだいのおむつ替えの世話や家族の分の洗濯を、幼いころから担わされてきたといいます。

アヤさん
「私はあだ名で『お母さん』って呼ばれていました。それを若干喜んでいた自分もいて。できる家事が増えていくから楽しかったんですけれど」

選択を迫られたのは、高校を卒業してマンガ家を目指していたときのことでした。専門学校に通うため実家を離れることになったアヤさんは、母親を放っておけず、アパートで一緒に住むことにしました。

しかし、母親のケアと学業との両立は半年で限界を迎え、母親を実家に帰す決断を迫られたのです。

「私の人生、このままでたまるかって思っちゃったんです。もっと幸せな人はいるし、何でこんなに親に縛られないといけないんだろうって。もう捨てたかった…」

その後、母親との連絡は途絶えたままです。アヤさんは今も気持ちの整理がついていません。

「実家にはきょうだいがいたので、自分だけが親から逃げるみたいなことになってしまって、すごく葛藤がありました。自分の親だから何とかしなくちゃいけないと思ったり。いまも気にしています」

家族と一緒にいる選択を悩み続ける人も

一方、家族と一緒にいることを選び、悩み続けている人もいます。麻未さん(31歳)です。

麻未さんが高校生のころ、シングルマザーの母親が精神疾患を発症。気持ちが不安定になり、弱音を繰り返す母親のケアが、毎晩遅くまで続いたといいます。

麻未さんと母親

麻未さん
「ああ、きょうも無事に終わったという気持ちの一方で、すごく虚無感があって。これがまた明日も続くのか、みたいな。当時の私には、周りの大人や福祉を頼ることは、頭に浮かびませんでした」

麻未さんは就職を機に一度は母親と離れる決断をしました。初めて自由に生きられる喜びを感じた一方、わだかまりは消えませんでした。

4年後、母親の体調が悪化。麻未さんは再び、母親と暮らす決断を自ら下すことになります。

「誰も助けてはくれないので、どうにもならない日々がずっと続いていく感じです。でも、母が悪いわけではなくて、病気が悪いだけなので。まだ自分が31歳で、自分の人生を作るためにやらなきゃいけないことがいっぱいあるのに、不安定な状況だなとすごく思ってしまいます」

厳しい選択を迫られる、ヤングケアラーの人たち。次の記事では、子どもたちが自分らしい人生を送れるよう、各地で始まった支援の取り組みを紹介します。

 

NHKではこれからも、ヤングケアラーについて皆さまから寄せられた疑問について、一緒に考え、できる限り答えていきたいと思っています。
ヤングケアラーについて少しでも疑問に感じていることや、ご意見がありましたら、自由記述欄に投稿をお願いします。

疑問やご意見はこちらから

  • 二宮舞子

    さいたま放送局 記者

    二宮舞子

    2017年入局。愛媛県出身。盛岡局で東日本大震災からの復興や障害者支援などを取材。ことし8月からさいたま局に赴任し県政や福祉を担当。

  • 桑原阿希

    首都圏局 記者

    桑原阿希

    富山局を経て、2020年から首都圏局。 福祉や子どもの問題を取材。

  • 岩井信行

    首都圏局 ディレクター

    岩井信行

    2012年入局。さいたま局などを経て2021年から首都圏局。子どもの貧困や社会的養護、ヤングケアラーなど、家族に関わるテーマで取材を続ける。

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