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梅毒の感染者急増 なぜ?症状は? 女性は特に注意 妊娠に影響も

  • 2022年11月4日

性感染症の梅毒の感染者が急増しています。今年の感染者数は、現在の形で統計を取り始めてから初めて1万人を超えました。放置すると脳や心臓に深刻な症状が出ることがある梅毒。妊娠中の女性が感染すると流産や死産、胎児に影響を及ぼす恐れもあります。
性風俗を介して感染するケースが多いとみられますが、性風俗と関係がない感染者も少なくありません。感染拡大の背景に何があるのか、どう防げばいいのか取材しました。
(首都圏情報ネタドリ!「梅毒」取材班)

リスクが高い性風俗サービスが拡大か?

性風俗の店で働き、梅毒になった20代の女性です。性感染症の検査を毎月受ける中、5月に梅毒と診断されました。交際相手はなく、接客した相手から感染したとみられます。

性風俗店で働く女性
「いつかは梅毒になるかもしれないと覚悟はしていたのですが、まあ平気でしょという気持ちもどこかではあって。でもいざなると、ショックはすごく大きかったです」

当時、女性が働いていた店では、「NS=ノースキン」と呼ばれる、コンドーム無しでのサービスを売りにしていました。以前は、NSを行うかどうかを選ぶことができましたが、コロナ禍以降、経営が厳しくなった店側は、NSができる女性しか雇わなくなったといいます。
女性は、自分のいた店以外でも、リスクが高いサービスを行う店が増えていると感じています。

「コロナになってから、お店へのお客さんの入りがすごく減ったというのは聞いていました。そうなると、いかにリーズナブルでいいサービスを受けられるかで、集客率が変わってくる。性感染症は怖かったけれど、快楽を求める場所なので…」

梅毒となり働けなくなった女性。店側からは、感染したことを客に伝えないよう指示されたといいます。個人的に連絡をして確認できただけでも、2人の客が感染していたことがわかりました。

「たぶんお店の利益もあるし、大々的に性病にかかったとは言えないということなんだと…。感染させてしまったお客さんには、本当にごめんなさいという気持ちですね」

女性は一時、リンパの腫れや性交のときの痛みがありましたが、服薬により症状は落ち着いたといいます。

梅毒に感染すると、体に発疹が出たり、しこりや潰瘍ができたりしますが、症状が出ない人や、すぐに消えてしまう人もいます。しかし放置したまま数年経つと、まひなど、脳や心臓に深刻な症状が出ることもあります。

特に注意が必要なのが、妊娠中の女性です。流産、死産につながるリスクがあるほか、母子感染でうつってしまうと、子どもが「先天梅毒」になり、生まれてまもない時期に発疹や骨の異常などの症状が出ることや、数年後に難聴などの症状が出ることがあります。

若者や風俗産業の取材をしている佐々木チワワさんは、コロナによる性風俗産業の変化が、梅毒が広がるリスクを高めているのではと指摘します。

ライター 佐々木チワワさん
「コロナ以降、性風俗は集客のため過剰なサービスが増加傾向にあります。スカウトも女の子に『稼げるのはNSだよ』と勧誘しています。女性たちの性病検査を必ず行っている店舗はありますが、個人任せの店もあるのが現状です。コロナの影響で仕事を失って風俗で働く女性の中には、梅毒に感染して完治するまで、数か月出勤停止になると生活ができなくなるので、感染を隠して働く場合もあります。また、お店を通さない個人売春やパパ活に流れる人もいました。利用する男性側のモラルの問題もあり、男性から女性にうつすケースもあると思います。利用者も一人一人が性病検査をすることが必要です」

性風俗との関連がない人も感染… 背景に何が

国立感染症研究所のまとめによると、男性では性風俗の利用歴のある人が、女性では性風俗の従事歴のある人が、患者のおよそ4割を占めています。一方、性風俗との関連がない・不明とされるものなどを合わせると半数以上に上ります。

こうした人たちはどこで感染しているのか。梅毒の治療や対策の最前線に立つ専門家に聞きました。

 そねざき古林診療所 古林敬一院長
「感染者が急増している原因は、結局よく分からないんですよね。スプレッダーみたいな人がいて、その人をきっかけに多数が感染してしまうのではないかと思います」

 プライベートケアクリニック東京 尾上泰彦院長
「プライベートでプライバシーに関わることですから、疫学的調査はなかなか難しいです。ただ、臨床現場で患者を診ていますと、マッチングアプリが関係している可能性はあると思います」

 神戸大学 重村克巳准教授
「SNSの普及によって、男女の出会いの場が変わってきている、不特定多数の方との性交渉がまん延していると感じています。また、この病気に対する知識が不十分で、たとえば完全に治癒していない人が感染源になっている可能性もあると思います」

 東京女子医科大学 余田敬子准教授
「コロナ禍で、グループで遊びに行けないとか、クラブ活動ができないとか、若い人の中で、集団で楽しむ機会が減っています。その分、ストレスの発散が性行動の活発化につながってるんじゃないかと思います」

マッチングアプリによる出会いで不特定多数と性交渉

複数の専門家が指摘する、「性行動の変化」や「マッチングアプリの存在」。なぜリスクを冒してまで、不特定多数との性行為におよぶのでしょうか。
マッチングアプリを通じて複数の女性と関係を持つなどする中で、性感染症になったという男性(25歳)に話を聞きました。

マッチングアプリではまず、自分の容姿や特徴などを登録します。互いにマッチすれば、連絡を取り合ったり直接会ったりすることが可能となります。

マッチングアプリを利用する男性
「社会人1年目くらいの時に、コロナで人と出会う数が減って、人とつながれないという寂しさがあったので、その時はマッチングアプリをしていました。マッチングアプリで会う人は見ず知らずの人、何のつながりもない人だから、それこそワンナイトでいいかな、という形でやっていました。ちょっと虚無感はありましたが」

そうした中、梅毒ではありませんでしたが性感染症に感染しました。しかし、自分自身の行動を変えることはなかったといいます。

「性感染症になったのはアンラッキーだとは思いましたが、それによってワンナイトとかマッチングアプリをやめはしなかったです。誰かと会って満たされたいという気持ちがありましたので」

感染防ぐために… カギは性教育と検査

性に関する価値観が多様化したり、性をめぐる環境が変化したりする中、性感染症から身を守るためには何が必要なのでしょうか。梅毒など性感染症に詳しい、日本大学医学部主任教授の川名敬さんに聞きました。

日本大学医学部主任教授 川名敬さん
「性の多様化は、個人の自由に関わることなので、規制することはなかなかできません。このため、自分で自分を守るための『知識』と『予防力』が重要です。学校の性教育では、性感染症や梅毒の話まではいかないことが多いので、梅毒について知識が得られるよう、家庭も含めて性教育の場が広がってほしいと思います。この病気は、いつ誰がかかってもおかしくありません。症状が出ないこともありますので、自分が感染していないとは思わずに、気軽に検査をしてほしいです」

梅毒から身を守るためには、交際前や結婚前など、節目節目での検査も有効です。都内や各地域の保健所などでは、匿名・無料で受けることができます。他の性感染症の検査も受けられる保健所もあります。各自治体のホームページなどを検索してみてください。

性感染症に関するアンケートを行っています。正しい予防法や対処に役立てるために、あなたのご経験・ご意見を聞かせてください。(回答は こちら から)

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