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旧統一教会など宗教2世は訴える “宗教虐待”を知ってほしい

  • 2022年10月26日

旧統一教会の信者の両親のもとに生まれた小川さゆりさん(仮名・26歳)。10月7日に日本外国特派員協会で会見を開き、宗教2世が受けている精神的な被害などを訴えました。会見に先立ち、旧統一教会から会見中止を求める文書が、小川さんの両親の署名入りで届いたこともSNSなどで大きな注目を集めました。
「宗教虐待を知ってほしい」とNHKにその実態を語ってくれた小川さん。
宗教2世たちの声から、苦しむ子どもをなくすにはどうすればいいのか考えます。
(首都圏局/ディレクター 大淵光彦・梅田慎一)

旧統一教会から会見中止要請が… 涙の訴え

小川さんは会見で、両親の献金により困窮に陥ったことや、見た目の貧しさからいじめを受けたことなどを落ち着いた様子で語っていましたが、会見の後半、涙を流す場面がありました。

会見する小川さゆりさん(右から2人目)

会見中、特派員協会のスタッフが、旧統一教会から文書が届いていたことに気付き、その文書の内容が小川さんに伝えられたときのことでした。文書には、小川さんが精神疾患により虚偽の内容を話すようになったという趣旨や、小川さんへの法的手続きを検討していることが書かれていました。

それでも会見を続けた小川さんは、涙ながらに訴えます。

小川さん
「両親は私から200万円近くの給料をとっていきました。お金を渡さないと職場まで来て、渡すまで職場から帰りませんでした。そういったことが積み重なって私は精神を病みました。夫の支えで、心の症状については治っています。
お金を返しもしないで、自分たちが正しいと主張を続けている人たちと、私のどちらが悪なのか。多くの人は分かってくれると信じています」

“誰も助けてくれなかった”今も抱えるトラウマ

小川さんは、旧統一教会の合同結婚式で結婚した両親のもと、6人兄弟の長女として生まれました。「神の子」として育てられ、テレビや漫画などは「サタン」「地獄に落ちる」と言われて制限されたといいます。

子どものころの小川さん

母親は、布教活動や選挙の手伝いなどを率先して行う熱心な信者で、小川さんは母親にお願いされて小学1年生のころから、たびたび家族の食事を作らされていました。

父親は、地区の教会の責任者でした。毎週日曜日になると教会に連れて行かれ、特に小学生のころまでは、拒むことは許されなかったといいます。

小川さゆりさん
「肩を引っ張られて、日曜礼拝に無理やり連れていかれて、肩を痛めたこともありました。朝5時からの祈祷会も参加させられたのですが、体が弱かったので気絶したことも何回かあったんですね。それでも無理やりやらされました」

両親の希望に沿おうと、小川さんは次第に教会の活動に自ら参加するようになります。高校生のころには、創始者の教えを伝えるスピーチの大会で入賞するまでになっていました。

そんな小川さんが、両親に対し疑問を抱くことになった出来事があったといいます。教会のイベントに参加した高校3年生の時、男性スタッフから受けたというセクハラです。悩んだ末に教会幹部にメールで相談したところ、次のような返信がありました。

「大人であってもメールで記された内容の行動はあり得ます」
「男性は目から刺激を受ける傾向がありますが、かと言って、美しいものを美しいと思うこと自体が罪ではありません」

ショックを受けた小川さんが母親に相談すると、思わぬ言葉が返ってきました。セクハラを受けるのは小川さんに悪いところがあり、悪霊がついているから、韓国にある施設でおはらいを受けるよう言われたといいます。

さらに母親の行動が、失意にある小川さんを追い詰めることになります。母親は足りなくなった生活費を補うため、小川さんのバイト代を求めるようになったというのです。しかし、同時期に教会への献金を繰り返していたといいます。

小川さゆりさん
「親の間違っているところやおかしいところは、うすうす気付いていました。でも最終的には、自分の味方でいてくれると思っていた。裏切られたのはあまりにもつらかったです」

当時19歳だった小川さん。すがる思いで役所の相談窓口を訪ねましたが、ここでも取り合ってもらえなかったといいます。

小川さゆりさん
「いろいろ相談したんですけど、『家族間の問題は家族間で解決してほしい。宗教のことはよく分からない』と相手にしてもらえませんでした。
警察にも行って『お金をとられました』と話したのですが、やっぱり家族間のこと、宗教のことだからと取り合ってもらえなくて。『あなたが自立するしかない。親元から離れるしかない』と言われました」

小川さんは絶望を深め、部屋に引きこもるようになりました。21歳のとき家出をして、両親と距離を置くことができましたが、その後も当時の記憶が蘇り、突然過呼吸に襲われるなど、体の不調に苦しんでいます。

現在は結婚し、生後半年になる長男を育てている小川さん。母親になって初めて気付いたことがあります。
「自分が受けてきたのは虐待だったのではないか」

小川さゆりさん
「毎晩、勝手に体が不安になって泣きだしちゃったりとか、震えが止まらなくなったりということはありました。
小1の時の自分が大人になりきれてなくて、心の中でずっと泣いてて。その声をずっと自分は無視してきたんですよね。当時、誰にも話せず、抱え込んでしまうタイプだったので。まずはその声に向き合っています」

旧統一教会の他にも 声を上げる宗教2世たち

いま、旧統一教会だけでなく、他の宗教団体の2世たちも次々と声を上げ始めています。
宗教2世の当事者が呼びかけた自助会には、30人近い当事者が集まり、自らの体験を話しました。

参加者の男性
「教祖の名前を叫びながら殴られたり、風呂の浴槽に頭からつけられて、無理やり溺れさせられたりしたことがありました。親は『暴力は神に導かれている。暴力は良い方向に進むため』と思っているんだと思います」

参加者の女性
「教会を否定したら、親や先祖まで地獄の底に落ちるという恐怖を植え付けられてきました。自分の存在を否定することになると言われて、すごく絶望した覚えがある」

参加者の男性
「信仰の強制が一番つらかったです。学校に入った時に『自分が宗教を信じているので、体育と剣道はやりません』って言わなきゃいけない。その練習を家とか集会でさせられました。自分で語ることによって教えは正しいと信じ込ませる。それはマインドコントロールだと思うんですよね」

“宗教虐待” 被害を見過ごさないために出来ること

10月6日、厚生労働省は全国の自治体に、“宗教虐待”に関する通知を出しました。
そこには、保護者の宗教の信仰が理由だとしても、身体的暴行を加えたり、言葉による脅迫、子どもの心・自尊心を傷つけるような言動を繰り返し行ったりすることは、虐待に該当すると書かれています。
また虐待の相談に対して、「宗教に関することのみを理由として消極的な対応をしない」よう求めました。

これまでの行政の消極的な姿勢が、“宗教虐待”の被害が見過ごされる要因になってきたのではないか。そう語るのは、マインドコントロールを研究し、宗教2世の問題に詳しい立正大学心理学部の西田公昭教授です。

西田公昭さん
「行政側は、信教の自由とか親権が立ちはだかって、深く調査するということができないだろうと考えてきたと思うんですね。そのため、『信仰に基づく虐待』という構図を想像することができなかった。
親には信仰の自由がある一方で、子どもにも『信仰しない自由』があり、その人権は当然守られるべきです」

親の信仰によって苦しんでいる子どもを見つけ出すには、“宗教虐待”の認知度を上げていくことが重要だと、西田さんは話します。

西田公昭さん
「社会全体で、確かな救済の制度を作っていく必要があります。そのために、『虐待の背景に宗教の教え込みがあるのではないか』『宗教活動を子どもたちが強制されているのではないか』という想像力を、みんなが持つことが重要です。
さらに現状では専門家が足りないため、専門知識を持つ相談員・支援員を配置して、相談体制を整えることや、一般社会と断絶した環境で暮らしてきた子どもが社会復帰できるようケアすることも大切です」

信仰続ける宗教2世は 子どもにどう向き合う

一方で、今も信仰を続ける宗教2世もいます。
自宅の祭壇に置かれた、旧統一教会の創始者・文鮮明夫妻の写真。その前でお祈りの言葉を唱えるのは、ともに20代の旧統一教会2世の夫婦です。

今の教会には反省すべき点はあるものの、これからも信仰は続けると語りました。

現在も信者の宗教2世の女性
「今も苦しんでる方に対する謝罪や、いけなかった部分はちゃんと変えていくことは大事だと思います。(旧統一教会の教義によって)夫婦がお互い1人だけを愛するというのを2人とも思ってるので、信じ切れる」

ことし2月、女の子が生まれました。子どもに信仰を強制するのか問いました。

現在も信者の宗教2世の女性
「子どもに信仰を強制したり、苦しい思いをさせたりしないよう、そこは気をつけたいなと思っています。(もしも子どもから、違う宗教を信仰したいと言われたら)なんでそう思ったのか、よく聞くと思いますね。子どもも、親みたいに幸せになりたいなと思ったら、自然と良さを感じて自分からやりたいって言うと思うので」

“子ども自身が生き方を選ぶ自由がある”

子どもが自由な生き方を選択するためには、どうすればいいのでしょうか。再び西田公昭教授に聞きました。

西田公昭さん
「虐待というのは宗教に限ったことではなく、熱狂的な思想活動をしている場合にはありえます。大切なのは、親の価値観とは別に、子どもの人生は子ども自身が選ぶ権利があるということを、私たちが認識することです。
親や家の思想と自分の考えが違っていても、親以外の価値観に触れて、子ども自身が生き方を選ぶ自由がある。そういう社会であるべきです。
“宗教虐待”は、子どもが自分自身で声を上げにくい問題です。だからこそ私たちが想像力を働かせて、子どもたちを常に見守っていくことが大事だと思います」

 

  • 大淵光彦

    首都圏局 ディレクター

    大淵光彦

    1998年入局。報道局おはよう日本を経て2021年から首都圏局。ヘイトスピーチやネットの誹謗中傷など、人権にかかわる企画を制作。

  • 梅田慎一

    首都圏局 ディレクター

    梅田慎一

    2016年入局。松山局、報道局おはよう日本を経て、ことし8月から首都圏局。過去にも児童虐待についての番組を制作し、ことし7月からは旧統一教会についての取材を続ける。

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