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保育士配置に“自治体格差” あなたの地域は?

シリーズ(4)保育現場のリアル
  • 2022年10月21日

「保育士配置の自治体間格差は本当に深刻です」
これは人手不足を訴えるため、“崖っぷち保育”と題した漫画を描いた保育士の特集記事を読んだ人から寄せられた投稿です。
この「保育格差」の実態に迫ろうと、1都3県の自治体を調べてみました。
すると、国の保育士の配置基準では保育所がもたないとして、独自の財源で手厚く保育士を配置している自治体と、そうではないところで対応が分かれていました。
(首都圏局/記者 氏家寛子)

保育士の数 国の配置基準では…

まず、国の配置基準をおさらいします。
国は、認可保育所で働く保育士の数を、子どもの年齢ごと(0歳児~5歳児)に必要な保育士の配置基準を以下のように定めています。例えば3歳児なら保育士1人に対し、園児20人といった具合です。

自治体ごとの格差浮き彫りに~民間団体の調査

私たちがこの問題を調べるにあたり、参考にしたのが、園児の保護者などつくる民間団体「保育園を考える親の会」がまとめた調査結果です。

100都市保育力充実度チェック

調査の対象は、首都圏の1都3県と政令市を中心とした100の自治体。
それぞれの自治体が保育士をどのように配置しているか、調べていました。

結果をみると、0歳児から5歳児のいずれかの年齢で国の基準より保育士を多く配置していたのは、85の自治体に上っていました。
一方で、すべての年齢で国と同じ基準のままの自治体も14ありました。

全年齢が国の基準と同じ自治体
東村山市、稲城市、さいたま市、和光市、市原市、柏市、佐倉市、野田市、名古屋市、大阪市、神戸市、岡山市、広島市、福岡市

このうち、3歳児(国の基準 保育士1:園児20)を見てみると、39の自治体が国より手厚く配置していました。

なかでも最も手厚かったのは、埼玉県の戸田市とふじみ野市で、12人の園児に対して1人の保育士が配置されています。

首都圏の自治体は…

私たちは、この調査結果を一目見てわかるようにするため、以下のような地図を作成してみました。
今回の調査対象となった首都圏の東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県の1都3県を、以下のような条件に基づき、3つに分類しました。

色分けの条件
・国基準と同じ → 黄色
・0~5歳児のうち、1つの年齢で独自基準 → オレンジ
・0~5歳児のうち、2つ以上の年齢で独自基準 → 青色
・未調査 → 白色
※公立と私立の保育所で基準が異なる自治体については公立保育所を基準

 

まず埼玉県です。こうみると、多くの自治体が青色、つまり、2つ以上の年齢で手厚い配置をしていることがわかります。
なかでも私たちが関心をもったのがさいたま市に隣接する富士見市です。
人口は11万人、都心のベットタウンで、子育て世代も多く住んでいます。富士見市の配置基準を国のそれと比較すると、ご覧のように4つの年齢で独自の基準を設けています。
しかも、公立だけでなく、私立の保育所ともに手厚い基準であるのが大きな特徴でした。

埼玉県富士見市(公立・私立)
0歳児  3:1(国は3:1)
1歳児  4:1(国は6:1)
2歳児  6:1(国は6:1)
3歳児 13:1(国は20:1)
4歳児 18:1(国は30:1)
5歳児 25:1(国は30:1)

どうして手厚く?富士見市担当者に聞いた

富士見市保育課長と記者

そこで、早速、富士見市保育課の森坂和之課長を訪ねました。
富士見市は、子育て世代の人口が増え続けていることもあり、保育施設などの整備が進み、現在、市内の認可保育所は、公立が6か所、民間が12か所に上ります。市が民間保育所の基準も引き上げるため、独自に負担する分は、年間およそ5000万円に上るそうです。

私はこうした手厚い独自の基準がどういった経緯で設けられたのか知りたく思いました。
それについて伺うと、1歳児、4歳児の基準についてはなんと昭和52年から、3歳児の基準については昭和53年から設けられ、5歳児についても昭和54年までに設けられていたことがわかりました。近年の子育て世代の増加に伴う施策ではなかったのです。
しかし、なぜ、この基準が設けられたのかについては、当時の記録が残っていなかったため、現時点ではわからないままでした。

一方、富士見市では別の問題も抱えていました。こうした手厚い配置基準を維持していることもあり、今も待機児童が解消していないのです。
配置基準を国基準にまで緩める、つまり1人の保育士に対して、より多くの子どもを受け入れれば解消するのをどうしてそうはしないのか、理由を聞きました。

富士見市保育課 森坂和之課長
「多くの保育士で子どもをみることは、子どもたちにとっても良い環境で保育が受けられるということ。待機児童解消も重要なことだとは思いますが、今、保育所で過ごしている子どもたちに対して安全な保育をするために、この基準を継続したい」

こちらは東京です。
23区を中心にオレンジ色(1つの年齢で独自基準)となっています。
実は23区では1歳児の配置基準を国基準の6:1より手厚い5:1にしている自治体がほとんどです。ある区の担当者にその理由を尋ねると次のような答えが返ってきました。

区担当者
「2000年以降は各区がそれぞれで配置基準を決められるようになったが、それまでは都が一律に配置基準を要綱で定めていた。今も一部を除いて一歳児について5:1の基準となっているのはその名残なのではないかと思う」

千葉県です。
ここは少しサンプルが少ないのですが、政令市の千葉市や人口増加で注目されている流山市などでも独自の基準で保育士を多く配置しています。

千葉市(公立・私立)
0歳児    3:1(国は3:1)
1、2歳児   5:1(国は6:1)
3歳児    20:1(国は20:1)
4、5歳児 30:1(国は30:1)

流山市(公立)
0歳児   3:1(国は3:1)
1歳児   4:1(国は6:1)
2歳児   6:1(国は6:1)
3歳児   17:1(国は20:1)
4、5歳児  30:1(国は30:1)

神奈川県で注目したのは横浜市と横須賀市です。

人口370万人の横浜市。市内の認可保育所は、公立が61か所、私立が796か所あります。
公立は国基準ですが、実は私立保育所に対して、手厚い基準を設けています。
それが次の通りです。

横浜市(私立)
0歳児    3:1(国は3:1)
1歳児    4:1(国は6:1)
2歳児      5:1(国は6:1)
3歳児    15:1(国は20:1)
4,5歳児 24:1(国は30:1)

横浜市は、この政策のために毎年78.5億円の予算をあてているということです。

神奈川県横須賀市(公立・私立)
0歳児   2.57:1(国は3:1)
1歳児     4.5:1(国は6:1)
2歳児     5.2:1(国は6:1)
3歳児      18:1(国は20:1)
4、5歳児 27:1(国は30:1)

神奈川県のなかで、トップクラスの手厚い配置基準を設けているのが横須賀市です。平成25年には、この基準を盛り込んだ条例までも施行しています。
これについて担当者に聞きました。

横須賀市子育て支援課
「条例制定以前から手厚く配置した民間保育所に補助は行っていて、その水準にあわせる形で条例を制定した。補助をいつから始めたかはわかっていないが、過去の資料をさかのぼると、遅くとも平成2年には始めていたようだ」

自治体間格差 専門家はこう分析した

1都3県で保育士の配置基準を取材してみて、意外だったのはこうした基準が実はここ数年ではなく、1970年代に定められたものが多かったという点です。
どうして昔の方が手厚い基準となっていたのでしょうか。
これについて、保育研究所の所長で、帝京大学元教授の村山祐一さんに話を聞きました。

村山祐一さん
「高度成長に伴い女性も働き始めて、1970年代に育児休業が始まった。こうした流れの中で、地方自治体の間で保育士の配置基準の見直しを要望する声が高まり独自に基準が定められたのではないか。
しかし、その後、待機児童問題が深刻になり、国もさまざまな対策を打ち出している。これを受けて、保育所の定員を増やすために、自治体が独自に手厚くしていた配置基準を国基準にまで緩和することを検討する自治体もあった。保育所の整備など“量の拡充”に力点が置かれて、“保育の質”の議論は後回しにされてきたのが現状だ」

実態とかい離 国の賃金UPの対象にならない…

さらに、この配置基準の取材を進めると、自治体は別の問題にも直面していました。

国は、ことし2月、エッセンシャルワーカーの処遇改善策として、保育士らの収入を3%程度(月9000円)上乗せする事業を始めました。
しかし、この補助金は国の保育士の配置基準を基に計算されているため、独自予算で保育士を増やしているところほど、一人あたりの上乗せ額は減ってしまいます。

そうした中、練馬区の取り組みは目をひきました。
練馬区では、保育士や看護師などを国の配置基準よりも多く配置していますが、そのため区内の保育施設で働くおよそ6000人のうち、1200人分の補助金が不足しました。
そこで、区は、対象とならなかった人も国の事業と同様に賃金が3%引き上げになるよう、独自の予算を確保しました。支援規模は年間およそ3億5000万円に上るといいます。

練馬区保育課
「同じ職場で働いている保育士には同様に配分されるべきだと考え、国の処遇改善の対象から外れた保育士などに独自支援を行うことにした。保育所は社会を支えるインフラだ。区の負担は少なくないが、処遇改善で人材の確保や子育て支援サービスの充実させたい」

保育格差これでいいの?

取材からは、国の配置基準では保育現場の人手不足に対応できないため、多くの自治体が独自の予算でそれに対応している実態がみえてきました。

ただ、それでいいのでしょうか?

NHKには、保育士たちから「自治体の独自の対応だと、それがいつなくなるかわからないので不安。国の基準を変えてほしい」という意見が寄せられています。

また、専門家からは「子どもの命や安全に影響を与えかねない保育士の配置基準が地域によって差があることはあってはならない」という話もありました。

私たちは取材を続けますので、引き続きみなさんからの意見、お待ちしています。
 投稿フォーム よりお聞かせ下さい。

  • 氏家寛子

    首都圏局 記者

    氏家寛子

    岡山局、新潟局などを経て首都圏局 医療・教育・福祉分野を幅広く取材。

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