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夏休み明け 思春期の子どもの心と向き合う 東京・板橋区の中学校

  • 2022年8月31日

コロナ禍になり3年目の夏休みが明けようとしています。
久しぶりの学校に、“気合いが必要”という人もいるかもしれません。
長期休業明けの子どもたちの不安や心の変化に向き合おうと、夏休みの後半から、アンケートや電話などでのやりとりを続け、生徒と“つながり続ける”中学校があります。
生徒の心の揺らぎを見逃さず、少しでも不安を和らげたい・・・。
先生と生徒の“1対1の会話”です。
(首都圏局/ディレクター 今井朝子)

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“まもなく2学期 いまどんな気持ち?” 全校生徒の声を聞く

東京・板橋区にある板橋第三中学校。
この学校では、コロナ禍のオンライン授業で普及したタブレット端末を、学習面だけでなく、日頃の生徒たちの様子を知るためにも活用しています。
毎日の体温や出欠席の連絡、相談事があれば自由に書き込める“報 連 相フォーム”、そして、去年の夏休みから始めたのが、生徒たちの休み明けへの不安を聞き取る「長期休み明け“生活アンケート”」です。新学期が始まる2週間ほど前に、全校生徒448人に向け、端末からアンケート記入の呼びかけを行い、1週間程の間に子どもたちに記入してもらうというものです。
ことしの夏休みには、8割を超える生徒が回答をしました。(8月30日時点)

タブレット端末から回答 全校生徒に向けたアンケート

質問は選択制で大きく3つ。

Q.まもなく2学期が始まるが今の気持ちは?
Q.不安な気持ちがある人は、不安の原因は?
Q.不安に思っていることを先生にどのように相談したい?

アンケートは、去年の夏休み以降、冬休み、春休みと、長期休業のたびに行ってきました。

アンケート作成に関わった岡本和隆教諭
「今年の夏で4回目になります。1週間かけて全校生徒の声を聞きたい。だからこそ、アンケートは答えやすいシンプルなものにしました。アンケートとはいえ、休み中に途切れていた担任との“1対1の会話”なんです」

“いつも気にかけているよ”のメッセージを大切に

アンケートの回答を見ていく中で、先生たちが特に大事にしている3つのことがあります。

〇「少し不安」を見過ごさない
〇生徒ひとりひとりにあったアプローチ
〇焦らず長期的に

アンケートの一部抜粋

1つ目は、「少し不安」を見逃さないということ。 
2学期を迎えるにあたり「少し不安」と答えた生徒。その理由は、勉強のこと、感染症(コロナ)のこと、学校の人間関係などさまざまです。ぼんやりと、なんとなく“少し不安”と思っている生徒の気持ちを見過ごしてはいけないと、先生たちは考えています。

岡本教諭

『少し不安』と答えた生徒ですが、『相談はしなくていい』と回答する生徒も少なくありません。そんな生徒にもなんらかのアプローチをするように心がけています。

2つ目は、生徒ひとりひとりにあったアプローチです。
生徒によっては直接会って話をしたい人、電話の方が話しやすい人、SNSでのメッセージのやりとりのほうが気持ちを伝えやすい人、いろいろいます。中学校では、夏休みの登校に合わせて面談を取り入れるなど、話しやすい方法を選んで、生徒に寄り添うことを心がけています。

先生からのメッセージの例

教員

『相談したくない』とか『相談しなくてもよい』と書きながらも、でもちょっと不安と書いている人もいるので、このクラスルームの中で一人ずつ『お元気ですか』というメッセージを送っています。『何かあったらお返事くださいね』という言葉を今後も入れていこうと思っています。

そして3つ目は、焦らず長期的に
子どもたちは、いま話したいと思っても明日はその気持ちがなくなってしまったり、話したくなくなってしまったりすることもあります。
先生たちは、無理をさせず、チャットや電話などでまずは声をかけます。そして、夏休みが明けてからも、子どもたちの様子を見逃さないようにしています。

2学期まであと1週間 「少し不安」の生徒へ・・・先生が伝えた言葉とは

2学期まであと1週間のこの日、担任の先生が、「少し不安」と答えた生徒に電話をいれました。

有賀健人教諭

アンケートに答えてもらって心配で電話したんだけれども。心配なことって、具体的には、勉強のこと、進路のこととかあと人間関係のこと結構あるね。それだけ一生懸命やりたいって気持ちがあるんだと思うんだけど・・・。

この生徒は、少し不安な気持ちの理由に、勉強や進路、人間関係をあげていました。電話でやりとりを続けると、特に人間関係について、クラス替えがあって、1学期を過ごしたけれど、まだクラスになじめていない部分があるので少し不安だと語りました。

 

話す人が決まってきたりするからそこがまた2学期どうなるのか不安っていうことかな。
うーん、そうね。話してみたい人とかたくさんいるの?でも1学期は話しかけられなかったの?
そっか・・・。じゃあちょっとあれだね。昼休みとか、あと学活とかで、みんな楽しめるものとか私も考えるから、ちょっと作戦考えましょうよ、一緒に。2学期始まったらさ、日記とかでもかまわないからさ、教えてよ。

そして、最後に先生は、新学期が始まる前の自分自身の気持ちを生徒に伝えました。

 

私も始業式初日にさ、みんながちゃんと反応してくれるかなとか、話してすべんないかなとか、心配なところもあるんですよ。だからさ、わたしが何か言ったら笑ってくださいね。またなんかあったら、メッセージ送ってあるからそこで教えてください。
はい。じゃあ、残りの1週間、楽しんでくださいね。また1週間後会いましょう。さようなら。

有賀健人教諭
「1学期話せていた人と2学期話せなくなったらどうしようとか、あとは1学期話しかけられなかった子がいて、特にグループができはじめているから、自分がどんな風に話しかけられるか不安だってことで。前であれば2学期の最初から授業を飛ばしていたかもしれないですけど、こうやって不安な気持ちがあるのを聞いていると、自分も子どものころ不安だったなって。細かいことをいうのは大事なんですけど、初日に関しては不安な気持ちの人も多いので少し寄り添った1日目にはしたいと思いますね」

“話を聞いてもらって気持ちが楽になった”

こうした夏休み中に行われる生徒と先生の会話。アンケートがきっかけで、休み明けの登校をスムーズに、不安なくできたという生徒もいます。

去年のアンケートで、友達とのLINEでの悩みを打ちあけた女子生徒。
「夏休み中にLINEのグループで嫌がらせを受けた」と自由記述に書きました。
「不安に思っていることを先生にどのように相談したいか」という質問には、「相談しなくてもよい」と答えましたが、休み中に学校を訪ねた際、担任の先生が話を聞いてくれたといいます。

女子生徒

去年の夏、LINEのグループから自分だけがはずされたと思って落ち込んでいました。学校が始まる前に先生に話しを聞いてもらえて、気持ちが楽になりました。

後に、グループにいた友達がふざけて、この女子生徒以外の友達も一緒にLINEグループから外していたことがわかりましたが、先生に相談し、夏休み中に不安な気持ちが解決できたことで、9月から普通に学校に通うことができたと話してくれました。

他の生徒からも

「アンケートをきっかけに先生に相談しやすくなった」

「先生からも『その後どう?』と気にかけてもらえるようになった」

「2学期から委員会や生徒会活動など挑戦するのを悩んでいたけど、先生に相談してやってみようという勇気がわいた」

などの声が寄せられています。

子どもの“こころ”を知る 広がり始めたアンケート

去年の夏から、板橋第三中学校が独自に始めたこのアンケート。
これまで4回アンケートを実施し、教員たちにも大きな気づきがあったといいます。

板橋第三中学校 武田幸雄校長
「われわれが見過ごしがちな子どもってどうしてもいます。長期休業に入る前にすごく元気で活動していて、夏休みも部活動に来た様子を見ていると、すごく元気そうに見えていて、われわれからしてみるとノーマークだったりするんです。でも、そういう子がアンケートを取ってみると、実は、長期休業明けの生活にものすごく不安を抱いていたというケースがあったんです。私たちがぱっと見た目で判断するのではなくて、こういうアンケートを夏休み中にすることによってそういう子の不安も取り除けたのかなと思いました」

また、「少し不安」と答えた生徒とその後やりとりをするうちに、長期の休みの間にも、いかに“関わり合う”ことが重要か痛感したといいます。

武田校長
「同じ面談をやるのでも、学校にわざわざ出て来て顔と顔を付き合わせて面談というよりも、子どもが一番リラックスできる場所でパソコンの画面越しに行ったり、また、メッセージ機能で会話をしたりすると面談のハードルもぐんと下がっていくと思います。いろいろ話をしていて根本的な解決にいたらないかもしれないけど、『話を聞いてくれただけですごく安心しました』『ほっとしました』『気が楽になりました』と生徒が言ってくれました。このようなコミュニケーションを取ることの大切さを実感しました」

いま、このアンケートの取り組みは、板橋第三中学校以外にも広がっています。
ことしの夏には、板橋区の全小中学校に向けて実施が呼びかけられ、74の小中学校でアンケートが行われました。

板橋区教育委員会 指導室長 氣田眞由美さん
「本区も全国的な傾向と同じで、不登校の数は決して少なくはありません。やはり増加傾向というところも実態としてはあります。私たち教育委員会としても、ざっと全体の『面』で見るのではなくて、一人一人をちゃんとしっかり『点』で見るということ。それにはこういったアンケートを個別にしっかりやることによって、個の状況をしっかり把握をして、それに合わせた支援をしていく。区内のすべての小中学校の子どもたちを誰一人取り残さず救っていきたい。そういった思いで、全校に取り組んでもらおうと進めております」

データが示すコロナ禍の子どものこころ 注意点は?

夏休み明け、新学期が始まるこの時期に気をつけたい子どもの異変。
最後に、知っておきたい子どものサインを専門家に聞きました。

お話をうかがったのは、国立成育医療研究センター研究所・社会医学研究部 児童精神科医の石塚一枝さん。去年12月に行った石塚さんたち研究グループの調査で、子どもの「からだの不調」と「抑うつ」の関連が強いことがわかってきました。

小学5年生~中学3年生の子どものうち、週一回以上頭痛や腹痛といったなんらかのからだの不調を日常的に自覚している子どもの約20~30%が、抑うつ症状の重症度が高いことがわかりました。
さらにそれぞれの症状とうつの関係を調べたところ、週1回以上腹痛を自覚している子どもでは、中等度以上の抑うつ症状がある子どもが51%にのぼっています。

コロナ禍で思い切り楽しんだりする機会が少なくなっている子どもたち。
石塚さんは、体を動かす機会が少ないことはうつ症状を引き起こすことにもつながりかねないと指摘。長期間の休みが明けるこの時期、体調の異変や日常生活の中から出されている子どものサインを見逃さないでほしいと話します。

●いつ体調の変化があるのか、どのように痛みを感じているか
「どんなときに痛みがあるか、例えば、朝学校へ行くときにお腹が痛くなるのか、食事後にお腹が痛いのか、何もしていないのにお腹が痛いのか、どれくらい痛みが強いのか、どれぐらい続いているのか、を気にかけることが大切です。心の病気なのか、本当に体の具合が悪いのか、気づくことにつながると思います」

●いつもと違う様子に注意
「『いつもはすぐ朝起きるのに起きたがらない』『いつもと違ってイライラしている』『怒りっぽい』『いつもよく会話をしてくれる子どもが話さなくなる』などに注意。子どもの場合、理由が思い当たらずイライラしている子どもには、うつの症状が隠れていることがあります。子どもの場合は大人と違ってうつの症状の出方も違います。親御さんや先生など周りの大人が、気にかけていただけたらと思います」

子どもたちのメンタルヘルスについて、今後も継続して取材していきます。
ご意見をこちらの投稿フォームにお寄せください。

取材後記

コロナ禍に入った2020年3月から、わたしは学校現場を取材続けてきました。子どもたちの多くは、マスク生活だと1年、2年たっても同じクラスの友達ぐらいしか顔がわからないと話します。

不登校や若者の自殺が増える傾向にあるいま、背景に何があるのか、答えを見つけることは簡単なことではないと思います。未来をつかもうと目標に向かって頑張りたいのにうまくいかない…。受験に対する言い知れない不安感…。思春期の子どもたちにとって、誰かひとり、話を聞いてくれる人がいてくれるだけで頑張れるときがあると思います。
こうした取り組みで、前を向いて歩いて行ける子どもがひとりでも増えることを心から願っています。

  • 今井朝子

    首都圏局 ディレクター

    今井朝子

    2019年入局。報道局(おはよう日本)を経て2021年から首都圏局 。教育や医療を中心に取材。不登校や虐待、子どもの人権について取材を続ける。

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