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「3歳児以上の主食持参」なぜ?保育園の“謎ルール”

  • 2022年8月24日

保育園の決まり事って、いろいろあると思いませんか?
「使用済みのおむつは保護者が持ち帰る」
「シーツや布団カバーは家庭で手作り」…SNSでは、こうしたルールを疑問視する保護者の声が多く見られます。ちょっとした困り事のように思えるかもしれませんが、働く保護者にとっては、大きな負担になっているようです。
保育園の“謎ルール”に迫る第2弾は、「3歳児以上の主食持参」。
3歳の子どもを保育園に通わせている私は、そのルールがどうして生まれたのか、自治体によってばらつきはないのか…保育園の主食事情を調べてみることにしました。
(首都圏局/ディレクター 大岩万意)

親は大変!?「主食持参」 朝の早炊きに夜のコンビニ?

「3歳からは主食持参ってどういうこと?」

SNSで見つけたお母さんの声です。
3歳児以上は、給食は副食(おかずなど)だけが提供され、ごはんやパンなどの主食は家庭から持参しなければいけない園があるといいます。
首都圏で暮らす保護者の方たちに取材をしてみると…。

埼玉在住の
母親/Mさん

3歳児クラスにあがったとたんに、主食を持参しなくてはいけないと知って驚きました。

そう話すのは、埼玉県に住むMさん。夫婦共働きで、3歳の娘と5歳の息子が保育園に通っています。
主食の米は、「朝炊いた米」という保育園の決まりがあるため、Mさんは、朝6時に炊飯器を「早炊き」モードでセットし、7時半に家を出るまでに2人分のごはんを弁当箱に詰めています。

さらにMさんを悩ませているのが…「献立によって主食を変えること」。
シチューやスパゲッティなど洋食の献立の日はパンが推奨されているため、買い忘れた!というときには、夜に子どもたちを連れてコンビニエンスストアを回ったこともあるそうです。

埼玉在住の
母親/Mさん

朝、ごはんを炊いたり、夜、パンを買いに行ったり…夫婦共働きで主食を用意するのは大変です。2歳児クラスまで園で提供してもらっていたのに、どうして持参になったのか、不思議です。

神奈川県に住むIさんも、息子が卒園する2年前まで毎日主食を持参させていました。
Iさんの息子は、冷めて固くなった白ごはんだと食が進まず、残していました。そこでIさんは担任の先生に頼み「ふりかけなら、ごはんにかけてきてもOK」にしてもらいました。すると、食が進むようになり、完食できるようになったそうです。

神奈川在住の母親/Iさん

子どもが冷たいごはんを食べているのはかわいそうでした。たまたま園が柔軟に対応してくれるところだったから良かったのですが…。

SNSでは、Iさんの保育園のように「ふりかけOK」という園や、「ふりかけ・のり・味付きごはん不可」、「梅干しはOK」、「型抜きしたごはんOK」、パンは「バターロールはOK」「菓子パン・具入りは不可」など、園によって異なる“独自ルール”に関する投稿が見られました。

そもそも なぜ「主食持参」? なぜ「3歳児以上」?

この「3歳児以上の主食持参」ルール。そもそも全国一律のルールなのか、それとも自治体によっても違うのでしょうか…。

少し前のデータになりますが、保育団体が2016年に全国の保育施設を対象に行った調査によると「3歳以上児の主食」の対応について、認可保育所のうち43パーセントが「家庭より主食を持参」と回答しました。また39.6パーセントが「主食代を保護者から徴収し提供」と回答しています。
さらに調べてみると、都内の一部の自治体など、独自に主食費を負担し、施設で提供しているところもあるそうです。

自治体や施設によって対応が異なるようですが、専門家に話を聞くと、この「3歳児以上の主食」に関するルールの背景には、国の補助の有無が関係しているといいます。

保育政策に詳しい元帝京大学教授・現 みつまた保育園(埼玉・加須市)理事長 村山祐一さん

村山祐一さん
0歳から2歳児までの『主食費』『副食費』はどちらも国から補助がありますが、長年、3歳児以上は『副食費のみ』が補助の対象とされ、『主食費』は除外されてきたんです。そのため、家庭から主食を持参してもらうという園が多くを占めてきたんです」

では、なぜ主食費は補助の対象外となったのでしょうか?
保育の歴史に詳しい専門家によると、戦後はじまった保育所給食の事情が関係しているようです。

保育の歴史に詳しい 白梅学園大学・井原哲人准教授
「3歳以上の主食費が国から支払われてこなかった理由は、戦後、保育所給食が始まった頃の社会背景が関係します。1949年に保育所給食がスタートしたころの日本の食糧事情では、主食(米)を確保することは困難でした。また財政的に予算を確保することが難しいという事情がありました」

井原さんによると、1949年、ほとんどの保育所では副食のみの給食がスタート。このときはまだ、3歳という区分はありません。その後、1950年代に入って「保育所の制度を確立していこう」という動きが生まれます。

井原准教授
「制度を確立していく中で、“職員の人員配置”などほかの基準が“3歳”で区分されているのに合わせて、給食も“3歳未満・以上”という区分にそろえることになったと考えられます。
そして1958年に“3歳未満は主食と副食の両方、3歳以上は副食のみ”が国の財政支援の対象となりました。保育給食の制度は、一方で給食を充実させようという運動があり、もう一方で保育の予算を抑制し保護者の負担を強化しようという流れもあり、その中で生み出された問題なのです」

井原さんのお話を聞き、戦後のさまざまな事情から「主食」だけ扱いが異なることや「3歳」という線引きが生まれたことがわかりました。

ちなみに、前述の保育政策の専門家・村山さんによると、2019年に始まった「幼児教育・保育の無償化」により、それまでの「副食」「主食」の区別にも変化がありました。

3~5歳児の認可保育所などの利用料は無償化されるも、「給食費は無償化の対象から除外」され、今まで国から財政支援のあった「副食費」も、「主食費」と同じく“保護者負担”となったのです(免除対象となる世帯を除く)。

しかし、こうして国の制度が変わっても、施設によって「主食だけ持参のルール」が残っているのは、戦後から続く慣習だと考えられると、村山さんは話していました。

「主食持参ルール」やめてみた! 子どもたちにも変化?

この「家庭からの主食持参」を、思い切ってやめてみたという保育園があります。
訪ねたのは、神奈川県厚木市の私立保育園、依知(えち)保育園。ここでは去年、主食持参ルールから園で提供する“完全給食”に移行しました。保護者が支払う主食代は、月額1,500円です。

給食の時間。5歳児クラスの園児たちが食べていたのは…。

クファジューシー

沖縄の郷土料理「クファジューシー」。ごはんに豚肉や野菜、かまぼこなどを混ぜた炊き込みごはんです。

「おいしい!」「おかわり~」と次々に完食していく子どもたち。
園長の早川知子さんによると、以前はこうしたメニューはなかったそう。

早川園長

持参してもらっていたときは、子どもたちは冷めたごはんを食べていました。
園で主食を提供するようになってからは、炊き込みごはんや丼物、麺類などバラエティに富んだメニューを出せるようになったんです。

依知保育園の主食メニューの例

しかし正直なところ、保育園側としては家庭から持参してもらった方が楽なのでは…?早川園長に率直に尋ねてみると…。

 

もともと3歳未満の子どもたちに主食を用意してきましたし、イベントの時に使う大きな釜などの調理器具もそろっていました。なので、3歳以上の主食分が増えても大きな負担にはなっていません。子どもたちが喜んでいるのを見て、職員たちも喜んでいます。

“完全給食”に移行してから約1年。
実は、主食持参のルールをなくすのは簡単ではなかったといいます。というのも、主食代を一律で徴収されることに抵抗のある保護者もいたからです。
園が最初に提示した主食代は、園児1人あたり月額2,000円。国が資料に記載している主食費3,000円より低いものの、これまで通り家庭から持参した方が費用を抑えられるのではという声もあり、反対意見が多かったというのです。
そこで、園が給食委託会社とかけあい、主食代を月額1,500円に抑え、さらにバラエティ豊かなメニューを提示したところ、保護者の理解を得られたといいます。

 

いろいろなご家庭の事情があるので、一概に園で提供した方がいいとも言えません。それでも、うちの園ではやってよかったと思っています。温かいごはんが出るようになって、子どもたちの食が進むようになったからです。

“食育は保育の一環” 「主食持参ルール」私たちはどう考えれば?

自治体や保育園によっても異なる「3歳児以上の主食」の扱い。私たちはどのように考えればよいのでしょうか。最後に再び、保育政策に詳しく保育の現場にも携わる村山さんに聞きました。

元帝京大学教授・現 みつまた保育園理事長 村山祐一さん
「子どもにとっては、ごはんもおかずも関係ありません。すべて大切な食です。『主食だけ持参』というルールは、望ましくはないと思っています。厚生労働省が掲げる“保育指針”には、“食育は保育の一環だ”と明記されています。そのことば通り、国や自治体は主食・副食に関係なく給食への財政支援を行ってほしい。その上で、一部の給食費を所得に応じて保護者に支払ってもらうなど工夫するのが望ましいと考えます」

取材後記

「温かいごはんが出るようになったら、子どもたちの食がびっくりするほど進むようになった」依知保育園の早川園長のことばが特に印象に残っています。

「主食持参ルール」には、さまざまな社会背景が関わってきたことがわかりましたが、子どもにとっては毎日楽しみにしている食事。長年続いてきた制度や慣習を見直して、子どもにとって最善の選択を社会全体で考えていく必要があると思いました。
保育園や学校の“謎ルール”。みなさんが疑問に思っていることを、これからも継続して取材していきたいと思います。

 

保育・教育現場の身近な“謎ルール”募集します!「これって謎ルール?」という保護者の方の声や
「私の職場ではこんなルールをやめた」などの現場からの声…
あなたの周りの“謎ルール”について、情報を こちら までお寄せください!

  • 大岩 万意

    首都圏局 ディレクター

    大岩 万意

    2014年入局。大分局・福岡局を経て、2022年から首都圏局。障害者や介護など福祉分野を取材。3歳の息子が保育園に通う。

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