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神奈川 鎌倉 住民がつくる移動鮮魚店 店がないなら自分たちで!

  • 2022年7月25日

神奈川県鎌倉市の郊外にある今泉台地区。高齢化が進んで商店が次々に閉店、スーパーも遠く、買い物に困る住民が増えています。
こうした中、住民たちがみずから移動鮮魚店を立ち上げました。住民たちの挑戦を取材しました。
(横浜放送局 鎌倉支局/記者 中村早紀)

大行列の移動鮮魚店

ことし6月、鎌倉市今泉台の公園に長い行列ができていました。お目当ては鹿児島県の阿久根市から届いた新鮮な魚介類です。

ハガツオにヤガラ、マトウダイにキビナゴと、珍しい魚が飛ぶように売れていきます。予定よりも大幅に早い1時間あまりで完売しました。

売るのも住民 買うのも住民

魚を販売していたのも住民たちです。
「お久しぶり」「元気にしていた?」
買い物を機会に会話が弾みます。

移動鮮魚店プロジェクトの代表をつとめるのが、元町内会長の田島幸子さん(68)です。

田島さん

こんなにたくさん来ていただけると思っていなかったので、びっくりしました。ありがたいです。

移動鮮魚店を立ち上げた背景には、地域が抱える深刻な課題がありました。

高齢化で買い物困難に

鎌倉市の郊外にある今泉台地区は、1960年代の高度経済成長期に宅地開発された丘陵地です。高齢化率は40%を超えて、市内で最も高くなっています。

商店街の店主も高齢などを理由に引退。青果店、鮮魚店、精肉店、米の販売店など、生活に必要な店が続々と閉店しました。
最寄りの大型スーパーまではバスで20分かかり、日々の生活に必要な買い物に困る住民が増えてきたのです。

こうした中、自分たちに必要な店は自分たちで作ろうと立ち上がったのが田島さんたちでした。

田島さん

誰かに何かをしてもらおうと思っていると、私の生きているうちには実現しない。自分たちで動かないといけないと思いました。

きっかけは鹿児島 阿久根市との縁

プロジェクトのきっかけとなったのが、2018年に開かれた鹿児島県阿久根市の鮮魚販売イベントでした。
水産業の盛んな阿久根市が、新たな販売の仕方や魚食の普及を目的に、鎌倉市の公園や飲食店で移動鮮魚店を開催。連日多くの住民が詰めかけたのです。

今泉台町内会には住民たちから次の開催を待ち望む声が多く寄せられ、その後もインターネット販売やオンラインの魚のさばき方教室を開くなど、阿久根市との交流が続いていました。

町内会の役員に加えて、地元の若手プロデューサーや大学生、そして阿久根市の水産業関係者など、次々と協力の輪が広がり、今回の移動鮮魚店の実現につながったのです。

移動販売の鮮魚店を開こうと集まった田島さんたちでしたが、鮮魚の扱いについては全くの素人でした。そこで協力してくれたのが、阿久根市の漁業者や水産業者、それに料理店の店主たちでした。鮮度の良い魚の見極めや処理の仕方、捌き方や売り方に加えて、魚の種類や調理方法まで、細かく指導してくれたのです。

 

阿久根市のまちおこし会社代表 石川秀和さん
「魚離れが進む中、少しでもおいしい魚をみなさんに届けたい。阿久根市としても、市場には出ない多種多様な鮮魚を消費者に直接届けることができる貴重な機会でもあります」

“常設”の移動鮮魚店を目指して

6月から7月にかけて、鎌倉市内の5か所で10日間にわたる移動鮮魚店のテスト販売が行われました。毎日、阿久根市から新鮮な魚介類が届き、いずれも大盛況でした。コロナ禍で久しぶりに外出し、おしゃべりをしたという高齢者もいました。

買い物客

生ものというのはやっぱり張り切っちゃう。魚が生き生きしていると自分もいきいきしてしまう。

田島さん
「住民全体がひとつになって立ち上げていくんだと思えたので、ますますやる気は出てきました。魚を買いに来るだけじゃなくて、そこから生まれる交流とか情報交換とかにつながっていけばいいなと思います」

田島さんたちは、閉店した鮮魚店に冷凍庫や製氷機などをそろえ、定期的に移動販売を行うことを計画しています。10月には阿久根市の関係者とともに一般社団法人を設立する予定で、11月からの販売開始を目指してクラウドファンディングで資金を募っています。
高齢化や買い物困難といった、全国どこにでもある課題に挑む、住民たちの挑戦に注目です。

  • 中村早紀

    横浜放送局 鎌倉支局 記者

    中村早紀

    2015年、湘南エリアのニュースや話題を担当する通報員になる。ケーブルテレビや雑誌なども合わせると鎌倉の取材歴は約17年。「カメラを手に取材に駆け回っています。気軽に声をかけてください」

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