東京オリンピック・パラリンピック開催から1年。東京都は、大会後に残るレガシーとして、「真の共生社会の実現」や「被災地復興支援」などの理念を掲げ、競技会場については「都民に愛されるシンボルになる」と説明してきました。
関連経費なども含めると、費用の総額は2兆3千億円あまり。このうち、国・東京都からの支出は1兆6900億円あまりにのぼります。国民一人あたりに換算すると約3千円、都民の場合は約9万6千円にあたります。実際に、私たちの税金はどのように使われたのでしょうか?
東京オリンピック・パラリンピックの経費について大会組織委員会は、新しい競技会場や仮設施設の整備などの「開催経費」が1兆4238億円になったと先月発表しました。このほか、都市のインフラ整備やバリアフリー対策など都が示した7000億円あまりの「大会関連経費」や、競技力の強化関連など国が「オリパラ関係予算」として計上した3959億円もあり(うち1869億円は組織委の開催経費に含まれる)、大会に関係する費用としては分かっているだけでも総額2兆3千億円あまりにのぼります。
この中で最も多くの資金が投じられたのが、大会後も利用を続ける競技場などの「恒久施設」です。この整備費に国と東京都から合わせて3491億円が支出されました。
東京オリンピック・パラリンピックのために新たに建設された恒久施設は7つあります。これらの施設で今後想定されている年間収支を見てみると、黒字は有明アリーナのみ。コンサートなどイベントでの利用を想定し、年間3.6億円の黒字を見込んでいます。しかし、そのほかの施設はすべて赤字の見込みです。現時点で明らかになっている見通しでは、国立競技場では年間23.7億円の赤字、それ以外の5施設は、年間10.9億円の赤字となっています。こうした赤字の補填にも、私たちの税金があてられていくことになります。国や東京都は、たとえ収支は赤字でも、多くの人に利用されるレガシーになると説明してきましたが、施設の利用状況について今後も注視する必要があります。
それぞれの施設の整備費と年間収支の見通しの詳細です。
(国立競技場の年間収支は、令和4年度の見通し。ほか6施設の年間収支見通しは、平成29年4月に東京都が発表した「新規恒久施設の施設運営計画」を参照しています。)
国立競技場
東京アクアティクスセンター
海の森水上競技場
有明アリーナ
カヌー・スラロームセンター
大井ホッケー競技場
夢の島公園アーチェリー場
7つの施設のうち令和4年7月22日時点で既にオープンしているのは、国立競技場、海の森水上競技場、大井ホッケー競技場、夢の島公園アーチェリー場の4施設です。都の担当者によると、夢の島公園アーチェリー場は、年間20大会の開催を目標としていましたが、倍の40大会が開催される見込みです。大井ホッケー競技場も、代表選手の合宿や体験教室などでの利用が進み、年間の収支は当初の計画よりも改善する見通しだといいます。一方で、今年4月にオープンした海の森水上競技場については、年間30大会の開催を目標としているものの、大会利用は10程度にとどまる可能性も出ていて、赤字幅は想定している1.6億円を上回る見込みだといいます。
競技会場の後利用に関する都の会議で委員を務めた早稲田大学教授の間野義之さんは、新しい施設の今後について次のように提言しています。
早稲田大学 間野義之 教授
「本格的な都民や国民の利用はこれからなので、現段階ですべてのレガシーを評価するのは時期尚早ではありますが、結果として考えるとオーバースペックで造り込みすぎてしまったという感じは否めないと思います。オリンピック・パラリンピックというのは施設から見たらただのスタートなんです。ゴールじゃないんです。そのプロセスの一つにしか過ぎないんだけれど、そこがどうもやっぱりゴールのようになってしまった感はある。人がどれだけ集まってにぎわうかというのがレガシーとしてはとても大事。競技会の時は当然ながら、競技がないときでも人を集めるようなプログラムやソフトというものをみんなで知恵を出してやっていかないとせっかくこれだけ時間やお金やそれぞれの労力をかけたものをうまく生かせなくなる恐れがある。行政だけでなく民間企業やわれわれ学術団体なども含めて、みんなでもう一度この“後利用”について円卓会議でも何でもいいので再検討する必要があると思います」
東京大会から学ぶべき教訓について
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「東京五輪“レガシー”為末大が語る教訓『ビジョン』と『責任』」