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ニーズ高まる「冷凍野菜」は値上げの救世主?南極料理人の活用術は

  • 2022年6月30日

値上げの夏。少しでも食費の節約を…と考える人にいま人気なのが“冷凍野菜”です。
食品ロスを減らせるだけでなく、すでに下処理がすんでいて時短にもなると、食材としての地位を確立しつつあります。
実は冷凍野菜のおよそ9割は輸入。取材すると、国産の製品を増やしにくい事情があるようです。
また、「おいしくないのでは?」というイメージがある人も。そんな冷凍野菜を賢く使うヒントを「南極料理人」に教えてもらいました!
(首都圏局/ディレクター 関根幸千代)

コロナ禍で冷凍食品の需要アップ!

埼玉県の和光市駅前のスーパーを訪ねると…。30メートルにも及ぶ冷凍の平ケース。周囲の空気もひんやりと冷えています。この店は去年、冷凍食品の売り場を3倍以上に拡大しました。

きっかけはコロナ禍。この店をはじめ、スーパーやコンビニを展開する企業では、2019年度までは横ばいだった冷凍食品の売り上げが2020年度以降3割アップしたといいます。外出自粛により、自宅で料理をする機会が増えたことが背景にあるとみられています。

日本冷凍食品協会の調査によると、2021年に国内で生産された冷凍食品のうち、“家庭用”が前年比3.6%増の79万8667トンとなり、初めて“業務用”を上回ったことがわかりました。

便利な“冷凍野菜”が大人気!

中でも、今年に入ってからもずっと売り上げを伸ばし続けているのが、料理の食材として使う“冷凍野菜”です。ブロッコリーやほうれん草、枝豆などの定番商品はもちろん、最適な熟度の時に急速凍結させているのでおいしさを長持ちできるため、ぶどうやいちごなどのフルーツまで、品数は50種類以上にのぼります。

想像以上に売れているのは、豚汁用の野菜がミックスされたものなど野菜のセットです。人気を支えているのは、便利さだけでなく生鮮に比べて価格も安定しているところ。
加熱済みのパプリカとズッキーニのセットを手にした女性客は、「手ごろな価格でいろんな野菜を食べられるのが魅力。仕事で遅くなってもすぐに野菜いっぱいのパスタもできるし、安心材料にもなっている」と話してくれました。

大手スーパー マーチャンダイザー 川上智之さん
「買い物の回数や調理の手間を減らしたい共働き世帯や、一回の調理で野菜を使う量が少ない高齢の単身世帯の人に求められていると思います。使いたいときに使いたい分だけということができるので、食品ロスの軽減にもなり、これからもニーズは増える一方だと思います」

冷凍野菜の9割は輸入!そのワケは 

しかし、日本冷凍食品協会の調査によると、冷凍野菜のおよそ9割は輸入です。昨年の輸入量は約107万トン。輸入額は調査開始以来、過去最高となりました。それに対して、国産の冷凍農産物は約6万トン。ここ5年ほどは横ばいが続いています。
輸入が多いのには販売価格を抑えるねらいがあります。
例えば、ブロッコリーは、大規模に栽培されているエクアドルのものであるとコストも抑えやすかったり、里芋は皮をむく作業が必要とされるため人件費が安い国での生産に依存したりする傾向が強いといいます。

輸入依存に不安も…国産野菜に集まる注目

一方で、消費者の中には国産の商品を求める声もあります。全国で小売りや宅配を展開する日本生活協同組合連合会(コープ)は、いち早く国産の冷凍野菜に力をいれてきました。ここ10年ほどは売り上げの75%を国産で供給できていたといいます。

しかし、コロナ禍で冷凍野菜の需要は1.2倍に増加。国内の原料には限界があるため、増えた分を輸入品で補わなければならない状況に陥りました。特に人気が高いブロッコリーやアスパラは、需要の5割ほどしか国産でまかなえないといいます。
 

冷凍加工用枝豆の農場(北海道)

そんな中、去年、東南アジアを中心にコロナによる食品加工工場の閉鎖が相次ぐなどして、輸入品の供給が追いつかない事態が起きました。
こうした状況が今後も続く可能性があると、生協では、これまでは北海道や九州が主だった野菜の調達先を全国各地に増やし、供給の安定を図りたいとしています。

今こそチャンス!国産にこだわり続けた企業

国産冷凍野菜のニーズの高まりが追い風になっている企業があります。
茨城県水戸市の食品加工会社は、国産野菜にこだわって冷凍野菜を生産し続けてきました。昭和25年、ごぼうの問屋として創業。青果販売する際に規格外になったごぼうを加工・冷凍して販売していましたが、その後は冷凍野菜が事業の中心になりました。最近の需要の高まりを受けて、扱う野菜の種類を増やしています。

中でも、力を入れているのは“ほうれん草”です。秋から春にかけて育つ「露地栽培」のほうれん草を主に扱っています。露地栽培のものは、寒さで糖度が上がり、またビタミン類やカロテンも増えます。付加価値をつけたものを製品化しているといいます。

他にも、さといもや小松菜、大豆、さつまいもなどを扱っていて、その多くは地域の学校給食で使われているとのことです。安定供給を続けるために自社の農地を保有しているほか、首都圏を中心とした30軒以上の農家とも契約しています。

食品加工会社 専務取締役 宮田さん
「地域の野菜を地域で循環させるのが一番だと思ってやってきました。この先、天候や国際情勢的にも何があるか分かりません。突然輸入ストップとなった場合には、私たちのような企業が支えていくことになる。その意味でも、今後も地域の食材にこだわって冷凍野菜を作り続けたいと思います」

生鮮野菜よりおいしい!?南極料理人の発見

需要が増えている冷凍野菜ですが、「おいしくない」と敬遠する声もまだまだ聞こえてきます。
しかし、「冷凍野菜ならではのおいしさがある!」と断言する人が。冷凍した食品しか使えない南極で料理を作り続けた人物です。

北海道在住の西村淳さん。これまでに2度、料理担当として南極観測隊に参加しました。中でも1996年に訪れた「ドームふじ基地」は、平均気温マイナス57度、最低気温マイナス80度と、全てが凍ってしまう環境。その中で、9人の隊員の食生活を1年間にわたって支えなければなりませんでした。
調達できるのは水のみ。肉や魚、卵、そして野菜の計11トンは冷凍した状態で持ち込みました。

中でも西村さんを悩ませたのが野菜でした。当時、西村さん自身も「冷凍野菜はおいしくない」と思っていたため、出発前に食品メーカーから冷凍野菜を調達し、レシピ開発に挑みました。

実際に調理してみると、解凍するとべちゃっとしてしまうと思っていたかぼちゃやさといもは、凍ったまま調味料と合わせてレンジにかければホクホクの煮物に。冷凍の野菜がおいしくないのではなく、解凍や調理の仕方に誤解があったことが分かりました。

そんな試行錯誤の中で、西村さんは「冷凍キュウリ」がないことに気づきます。食品メーカーに製造を依頼すると、「水分の多い野菜を凍らせると、解凍したときに水分が出てしまう」と断られたそう。
その答えを聞いて、「冷凍キュウリを解凍すれば、塩もみしたキュウリと同じ状態になるのでは」と、かえって可能性を感じた西村さん。反対を押し切って作ってもらうと、手間をかけずにおいしいキュウリの酢の物ができました。

たまねぎも、スライスやみじん切りにして冷凍すれば、油を使わずに10分であめ色になるため、時短かつヘルシーな一品に。こうした発見で、「特性をうまく生かせば、短い調理時間でおいしいものを作れる最高の食材だ」と冷凍野菜への評価は変わったといいます。

西村淳さん
「冷凍野菜はまずくない。解凍法や調理法がまずいだけ。特に、市販の冷凍野菜は、ゆでたり下処理されているのに、使う時に再度ゆでてしまうなどでおいしさを損なってしまうケースが多い。例えばブロッコリーなどは冷凍したまま調理に使うのがおすすめ。そのまま食べたい時は、解凍時に出る水分でべちゃっとなりやすいので、キッチンペーパーにくるんで冷蔵庫で自然解凍するなどの工夫が必要。生鮮と冷凍の違いを正しく理解して使えば、生鮮よりも魅力的な食材になります」

南極料理人おすすめ!家庭でできる冷凍夏野菜

▼冷凍きゅうり

・丸ごと1本キュウリを凍らせる
(沸騰したお湯にサラダ油を1~2滴入れ、1~2秒くぐらせたあとに冷凍すると、1か月は表面の色も維持できる)
・凍ったキュウリの表面の氷を手で落とし、そのままの状態で薄い輪切りにする
・水気を切って絞る
・ワカメやしらすなど好きな食材と、酢と砂糖(1対1の分量)を混ぜて酢の物として食べるのがおすすめ

★冷凍キュウリをそのまますり下ろし、豆腐などにかけてもおいしい。

▼冷凍トマト

・トマトのヘタをとり、十字に切り込みをいれて凍らせる
・軽く水に通すと皮がつるんとむける
・角切りにして、炒め物やカレーに使うものはもちろん、めんつゆに入れて、うどんやそうめんをつけて食べるのがおすすめ

★冷凍トマトもそのまますり下ろすことができます。はちみつやガムシロップをかけ、シャーベットとして食べるとおいしい。

 
  • 関根幸千代

    首都圏局 ディレクター

    関根幸千代

    2006年入局。福井局、制作局、大阪局、さいたま放送局などを経て 現所属。主に生活情報番組を担当

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