体重28キロ。それでもなお「もっとやせたい」「やせられない自分はダメだ」と考えていた20代の女性です。
食べては吐きを繰り返し、摂食障害と診断されました。
「“もっとやせたい”という気持ちの裏側には“周りの人に自分を認めてほしい”という思いがあった」と話します。
(首都圏局/記者 浜平夏子)
関西地方に住む20代の女性が、摂食障害を発症したのは高校生の頃でした。学校では成績も優秀でしたが、ずっと自分に自信が持てないでいました。
その当時高校では、友だちとの会話で頻繁にダイエットの話題があがっていました。女性は学校行事が忙しかったこともあり、食事があまりとれず、体重が一気に5キロ減ったのをきっかけに、やせる行為がエスカレートしていきました。
“このままやせられたら自分にもっと自信が持てて、世界が変わるんじゃないか”と感じ、体重を落とし始めました。しかし、やせて見た目が変わっても自分に自信が持てたわけではありませんでした。『もっとやせないと』と、追い詰めていってしまったのです。
なぜ「やせたい」にとらわれていったのか。
「常に“いい子”でいることを自分に強いていた」と女性はこれまでを振り返りました。
女性
「小学生の頃、親は仕事が忙しくなかなかかまってくれませんでした。いい子になれば振り向いてもらえるのかなって。小さい時から絶えず大人の言うことを聞いていい子にしてきました。でも、それで自分の言いたいことが言えなくなってしまい、本当の自分をさらけ出せないし、素直になれないし、生きづらいという気持ちをずっと抱えていました」
女性には小学校の頃、体重をみんなの前で言われたり、太っていて醜いと言われたりするなど、いじめられた経験があるといいます。先生は何もしてくれず、親にも相談できなかったといいます。それどころか、"自分がいい子じゃないから、太っているから、いじめを受けて当然なんだ”と思っていた女性。そのため、体型についてずっとコンプレックスを抱えていたのです。
さらに、SNSの影響も大きく受けたといいます。ダイエットに成功したことをSNSで公表した人には、1万人以上のフォロワーがついていて、称賛の声が寄せられているのを見て、女性は「人に認められるにはやせなくてはいけない」という強迫観念を持つようになりました。
それから、やせるために食べては吐く行為がとまらなくなり、体重が一時、20キロ台にまで落ち、背骨が浮き出る状態にまでになりました。
女性
「SNSで『やせている=良い、太っている=悪い』と評価する社会の風潮を敏感に感じていました。身長や体重などを公開した、やせた女性にたくさんのフォロワーがついて体型の細さを称賛する声が寄せられ、一方、そうでない人に辛辣(しんらつ)なことばがつぶやかれているのもたくさん目にします。それを見て、“わたしはまだ足りないんだ。もっともっとやせなければ”と思ってしまいました」
初めて入院をしたのは、高校を卒業したあとでした。食べて吐く行為が止まらなくなり、自殺を考えるまでになり、病院に入院しました。吐く行為は、胃酸が失われて体内のバランスが悪くなり、心臓にも影響を及ぼすといいます。このため、その後も2度入院しました。体重も28キロまで落ちたこともありました。
摂食障害と診断されてから数年。今、女性は治療を続けながら、少し遅れた大学生活を送っています。少しずつ改善につながり始めたのは、看護師や大学の教員、塾講師など信頼できる大人に出会えたことでした。
女性
「わたしがうれしかったのは、『そのままでいいよ』という看護師や大学教員からのことばです。勉強ができなくも、見た目がぐちゃぐちゃでも、お風呂に入らなくてもいいよ。そのままで存在してくれるだけでいいよということを、何度もしつこく伝えてくれました。取り繕った自分じゃなくてそのままの自分を受け入れてくれる人がいると思えるようになりました」
看護師とは4年半、交換ノートのやりとりを続けています。最初は、食べて吐く行為をしたかどうかなどの報告でしたが、自分の気持ちも赤裸々につづるようになりました。看護師からは赤字でコメントが書かれています。
(ノートより文章を抜粋)
女性:「(体重が減らないのは)気狂いそうやし、めっちゃ嫌やけど、いやいやいやいや!これでええねん!!体重増えても私の価値はなんも変わらんねん!!むしろ増えたくらいが人間らしくてええねん!」
看護師:「その通り。そうそうその方がええねん。体重の増減があなたの人間の価値を決めるんじゃない」
女性は、「もっとやせたい」「やせられない自分が嫌だ」と強迫観念のようになってしまった根底には、自己肯定感の低さがあると考えています。そして、それは周りの大人に自分を理解してほしいというSOSだったと話します。
女性
「やせていない自分はダメだとかっていう人たちは自己肯定感が低くて、『そのままの自分でいいよ』って言ってもらった経験がきっとない人だと思う。それで、やせないと自分は価値がないって追い込んでしまうのかなって思います。ことばで『助けて』と言えないので、やせることで表現していたというのが、わたしにもありました」
自分の経験から、子どもの周りにいる大人たちに伝えたいメッセージです。
女性
「子どものいいところを教えてあげてほしいし、親御さんなら、“あなたは愛されているし、大事に思われているよ”ということをことばと行動で伝えてほしいです。子どものそのままを受け入れて、ただ一緒にいるのではなく、心理的に寄り添ってほしいと思います」
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