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ヤングケアラー当事者1000人アンケート 支援届いていない実態明らかに

~SOSなき若者の叫び(3)
  • 2022年5月6日

NHKは通信アプリのLINEを通じて、ヤングケアラー当事者へのアンケート調査を行いました。対象は、現在、家族の介護や世話を行っている15歳から17歳までの「ヤングケアラー」700人と、18歳未満のときに介護や世話を行い、現在は18歳以上になっている「元ヤングケアラー」300人の合わせて1000人です。アンケートを通して、当事者本人がSOSを発することができず、支援が届いていない実態が見えてきました。
(NHKスペシャル「ヤングケアラー SOSなき若者の叫び」取材班
記者 鵜澤正貴/ディレクター 先崎壮・棚原大悟)

​​​​※当該調査の条件合致者の性年代比率にて補正。LINEリサーチにて実施「2022年4月12日~16日」
※文中のグラフは小数点第1位まで表示。

「ヤングケアラー」を意識したことは

まず、このアンケートに答える以前に自分がヤングケアラーだ(だった)と意識したことはあったか尋ねたところ、「意識したことはない」が76%、「意識したことがある」が24%でした。

介護や世話をしている家族について

介護や世話をしている(していた)家族は誰か、複数回答で尋ねました。
「父親」が23%、「母親」が36%、「祖父」が22%、「祖母」が35%だったほか、「きょうだい」と回答した人も12%いました。

介護や世話の頻度について

家族の介護や世話をしている(していた)頻度については、週1日から2日が44%、週5日以上が40%、週3日から4日が17%などとなりました。

介護や世話でやりたいけどできないこと、悪い影響について

家族の介護や世話でやりたいのにできないこと、悪い影響が出ていることはあるか(あったか)、複数回答で尋ねたところ、「遊びや趣味、部活など自分の時間がとれない」が最も多く43%、「睡眠が十分にとれない」が24%、「自分のために使うお金がない」が16%、「勉強をする時間がとれない」14%などとなりました。「特にない」は28%でした。

自由記述には、次のような言葉がつづられました。

「自分のことよりも家のことを優先しないといけないから友達との遊びに全然行けない」
「兄弟のご飯の支度をしないといけなくて友達と遊べず、友達に理由を言うべきか悩んだ」
「睡眠不足で学校も思うように通えなくて心身共につらかった」
「介護のせいで寝られない」
「介護と金銭的な問題で進学できなかった」
「なりたい職業にはなれず、違う道へ進んだ」

相談した経験について

家族の介護や世話について、誰かに相談した経験があるか尋ねたところ、「まったく相談したことはない」が30%で最も多く、次いで「ほとんど相談したことはない」が26%、「あまり相談していない、(しなかった)」が17%、「たまに相談している、(していた)」が16%、「日常的に相談している、(していた)」11%でした。

このうち相談しない(しなかった)理由について、複数回答で尋ねました。

「相談しても意味がないから(意味がなかった経験がある)」が29%、「他人には相談しづらいから」が28%、「相談する必要がないと思ったから」、「相談することを考えたことがなかったから」がそれぞれ25%などとなりました。

自由記述には、次のような言葉がつづられました。

「相談できる人もいなく、相談したら親に怒られると思った」
「周りに気づかれたくなかった。自分が我慢すればいいと思っていた」
「家族の状況を周りに話すなと言われていた」
「家族のことを知られて自分が嫌われてしまうのかと思いうまく言葉が出なかった」
「誰かに話を聞いてほしいと思ったけど、相手から簡単に同情されるのはいやだ」
「頑張っていると認められたいけどかわいそうだとは思われたくない」

必要だと思う支援・サポートについて

ヤングケアラーに特に必要だと思う支援・サポートについて、選択肢から最大5つまで選んでもらったところ、「自分自身へのケア(声をかけたり気づかってくれたりするなどのサポート)」が最も多く55%、次いで「家族全体への支援」が51%、「金銭的な支援」が45%などとなりました。

実際に利用した支援・サポートについて

そのうえで実際に利用している(していた)支援・サポートを複数回答で尋ねたところ、「特にない」が70%にのぼり、「自分自身へのケア (声をかけたり気づかってくれたりするなどのサポート)」が11%、「金銭的な支援」は7%、「家族全体への支援」は6%にとどまりました。

支援・サポート受けられていない(受けられなかった)理由について

十分な支援・サポートを受けられていない(受けられなかった)としたら、その理由は何か複数回答で尋ねたところ、「どんな支援があるかわからないから」が45%、「どこに相談すればよいのかわからないから」が38%などとなりました。

希望の進路や夢との両立について

15歳から17歳までのヤングケアラーを対象に、家族の介護や世話をすることと、希望の進路や夢は両立できると思うか尋ねたところ「部分的にはできると思う」が30%、「できると思う」が26%、「わからない」が18%、「あまりできないと思う」が15%、「まったくできないと思う」が10%でした。

元ヤングケアラー 介護や世話で人生に困難は

18歳以上の「元ヤングケアラー」を対象に家族の介護や世話をすることで、人生の大事な局面で壁や困難にぶつかったことがあるか複数回答で尋ねたところ、「進学のとき」が36%、「就職のとき」が24%、「婚約・結婚のとき」が13%などとなった一方、「特にない」は29%、「わからない・答えたくない」は16%でした。

専門家 “まずは子どもたちに寄り添って”

ヤングケアラーの調査や研究、支援に取り組んでいる大阪歯科大学の濱島淑恵教授は当事者へのアンケートで、これまでに「まったく相談したことはない」「ほとんど相談したことはない」「あまり相談していない(しなかった)」との回答が合わせて70%を超えたことについて、次のように指摘しました。

大阪歯科大学 濱島淑恵教授
「重大な結果で、話しても何も変わらないという当事者の思いや支援に関する情報のなさ、それに周囲の理解のなさが非常によく表れている。相談しやすいよう理解者を増やしていくことが非常に重要で、相談したら状況が改善されるようにさまざまな社会資源を整えていくことが必要だ」

また、利用している支援・サポートは「特にない」とする回答が70%だったことについては、「ショッキングでなかなか支援が行き届いていないと実感できるような結果だ。やはり周囲が気付いてこんな支援があるよと情報を提供してくれる、そういった社会になっていくことが必要だと思う」と話しました。

そのうえで周囲の人に求められる支援についてはこう述べました。

大阪歯科大学 濱島淑恵教授
「自由記述の勉強や進学、就職、恋愛など、本当にいろいろなものを諦めなければならなかったという言葉が非常に印象に残った。非常に厳しい状況になってから突然介入しようとしても、それまでの関係性がなければアプローチが難しい。日常的にたあいのない会話ができる関係になっていれば、しんどくなったときにすぐに話してもらうことも可能になり、早い段階から少しずつサポートできるようになる。まずは子どもたちに寄り添う、丁寧に一生懸命、話を聞くということから始めてほしい」

自由記述「これだけは言いたい」

アンケートでは「これだけは言いたい」と思うことを自由に記述してもらいました。

「自分で解決しようとしないで誰かに助けを求めるのが大切」
「もし進学や結婚で周りのことを考えて進路を決める時は、一度立ち止まって自分の心がワクワクする方に向かって進んでほしい。自分を幸せにできるのは自分だけです」
「私のようになかなか相談できない人もたくさんいるように感じます。もっと気軽に相談できるような体制を整えていただきたい」
「自分が主役の人生を生きてほしい。使える支援はたくさん使って、楽していいんだよって」
「狭い世界に縛られないで、社会とのつながりを常に感じられるようにすることが大切だと思う」
「なにも『かわいそう』でもないし、変に同情される必要はない。少しでも手助けしてもらうととてもありがたい」
「介護されている本人もつらいが、介護している人もつらいということも世間に知ってほしい」

自由記述「うれしかったこと、助けになったこと」

最後に苦しい時に声をかけられてうれしかったこと、助けになったこと、役に立った支援はあるか自由に記述してもらいまいた。

「いつもそばにいてくれた友達の存在です。なにかと連絡をくれたり、気遣ってくれたり。友達の存在が大きかったです」
「高校の個人面談で当時の担任に初めて家のことを話したとき、先生が泣きながら聞いてくださったことです」
「親友が何も言わずに話を聞いてくれただけで、本当に救われた」
「自分がきつい時に話を聞いてくれた友達に感謝している。無責任に応援しないで私のことを心配してくれてうれしかった」
「近所や周りの方からの温かい言葉(いつもえらいね、頑張っているね、大変な時は甘えていいんだぞ、など)があるだけで自分のことを見ていてくれているという安心感、これからも頑張ろうという気持ちになれた」

NHKではこれからも、ヤングケアラーについて皆さまから寄せられた疑問について、一緒に考え、できる限り答えていきたいと思っています。
ヤングケアラーについて少しでも疑問に感じていることや、ご意見がありましたら、自由記述欄に投稿をお願いします。

疑問やご意見はこちらから

  • 鵜澤正貴

    首都圏局 記者

    鵜澤正貴

    2008年入局。秋田局、広島局、横浜局、報道局選挙プロジェクトを経て首都圏局。

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