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横浜 野毛地区 ジャズ喫茶「ちぐさ」約90年の歴史に幕

  • 2022年4月21日

ジャズの町として知られる横浜市でおよそ90年にわたって愛されてきたジャズ喫茶が、施設の老朽化などのため、4月にいったんその歴史に幕を閉じました。“本場のジャズを聴いてほしい”と吉田衛さんが創業した老舗のジャズ喫茶は、どんな存在だったのか。そこには訪れる人たちのさまざまな思いがありました。
(横浜放送局/記者 小林香菜瑛)

老朽化などを理由に閉店に

横浜市の野毛地区にあるジャズ喫茶「ちぐさ」は、レコードでジャズを聴きながら、こだわりのコーヒーを楽しめる店として長年親しまれてきました。
しかし、建物の老朽化などを理由に4月10日に閉店となりました。閉店前の3日間は、店の思い出を語ってもらおうとファン感謝祭が開かれ、長年の常連など大勢の人たちが訪れました。

閉店を聞いて東京から来た男性
「ただでさえジャズ喫茶は減ってきていますし、これだけ歴史のある店がなくなってしまうのは寂しい」

レコードでジャズを聴きながら…

吉田衛さん(撮影:奥村勝司)

ちぐさが横浜市の野毛地区に誕生したのは昭和8年です。本場のジャズを聴いてほしいと、当時20歳の吉田衛さんが店を出しました。
しかし、太平洋戦争末期の昭和20年。空襲によっておよそ6000枚あったというレコードとともに店は焼けてしまいます。
それでも、吉田さんのジャズへの思いが冷めることはなく、知り合いや友人などからレコードを提供してもらい、昭和23年に店を再開させました。戦後の自由な空気の中、再開した店には以前にも増して多くの人が集まるようになります。

日野皓正さん

後の世界的ジャズプレーヤー、日野皓正さんや秋吉敏子さんも若き日にちぐさに通いつめていたといいます。彼らは、当時の初任給と同じくらい高価なものだったレコードをむさぼるように聴いて、この店でジャズの基礎を学んだのです。吉田さんは、店の経営だけでなく、若手ジャズミュージシャンの育成にも力を入れ、常連客は、吉田さんのことを「おやじ」と呼んで慕っていました。まさに、横浜のジャズの中心地の一つがちぐさだったのです。

しかし、その吉田さんが平成6年に死去。妹の孝子さんに常連客がスタッフとして協力し、店の営業を10年以上続けましたが、マンション開発の影響で平成19年に閉店しました。

“立ち止まらない”2度目の復活

それでもちぐさは、平成24年に2度目の復活を果たします。きっかけとなったのは、その前の年に起きた東日本大震災でした。

当時、ちぐさの復活を考えながらも店の運営の難しさなどから二の足を踏んでいた元スタッフの1人がある新聞記事を目にしたことでした。それは、被災した岩手県陸前高田市のジャズ喫茶「h.イマジン」の記事でした。

その記事には、津波に流されたがれきの中で、レコードを持って立ち尽くすジャズ喫茶のオーナーの写真が載っていました。そして同時に、それでも再開を目指したいというオーナーのことばが書かれていたのです。

「野毛にいる私たちは何を立ち止まっているんだ」
みんなが記事を読んで心を突き動かされました。いてもたってもいられなくなった、ちぐさ会(=ちぐさファンの有志からなる会)のメンバーたちは、陸前高田市のジャズ喫茶「h.イマジン」を支援しようとチャリティーイベントを企画。支援金やジャズのレコードの寄付を呼びかけました。

このとき、陸前高田市に寄付金やレコードを持って行った1人は「被災しても前向きにジャズ喫茶を復活させようとする姿が、空襲で焼け野原となった横浜でちぐさを再開させた吉田衛さんの姿と重なった。すべて失った焦土からおやじさんが復活させたちぐさの物語をここで終わらせるわけにはいかないと思った」と話します。

その後、熱心なファンたちが集まって運営法人を作り、震災翌年の3月11日にちぐさを復活させました。

今後はジャズミュージアムとして

ジャズを愛するさまざまな人の思いを乗せ、う余曲折をへながらも横浜の地で愛され続けてきた「ちぐさ」。ジャズ喫茶としての歴史にいったん幕を閉じますが、今後は、横浜のジャズの文化を伝え続けていくため、ジャズミュージアムに建て替えられることになっています。

完成イメージ図

ちぐさが形を変えて残っていくことに、ファンからは喜びの声が聞かれました。

20歳からの
常連客

ちぐさは日本一のジャズ喫茶です。閉店は寂しいですけど、ジャズミュージアムでは、野毛に受け継がれてきたちぐさの姿が再現されると聞いているので、できたらすぐに行きたいです。

ちぐさ代表
藤澤智晴さん

ちぐさは野毛にとっても、横浜にとっても大事な文化遺産。新しいスタイルのジャズミュージアムを作り上げて、後世に伝えていきたい。

完成予定は令和5年の3月11日で、今の場所に2階建ての建物が建設される計画です。写真や貴重なレコードなどで横浜のジャズの歴史を知ることができるほか、過去のちぐさの店内を再現した喫茶コーナーも設けられるということです。
建設費用のおよそ1億円は運営法人の資金や寄付などで賄う予定で、寄付は、ちぐさのホームページからできるほか、横浜市内のライブハウスなどに募金箱が設置される予定だということです。

  • 小林 香菜瑛

    横浜放送局 記者

    小林 香菜瑛

    2021年入局。横浜放送局で事件、事故や災害、地域の話題などを幅広く取材している。

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