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“痴漢”という性暴力 生徒たちを守るためにできることは?

#本気で痴漢なくすプロジェクトNO.3
  • 2022年4月15日

「私たちは泣き寝入りしません・見逃さない」と書かれているバッジ。
これは痴漢防止に取り組む大阪の団体「痴漢抑止活動センター」が制作している“痴漢抑止バッジ”です。
3月に「首都圏ナビ」で、都内の高校が行った調査で女子生徒の4人に1人が痴漢被害にあったと回答したという記事を掲載したところ、この記事を見たセンターから取材した高校に“痴漢被害を防止するために”と「缶バッジ」100個が贈られました。
(首都圏局/記者 岡部咲)

痴漢・盗撮被害に遭った、または目撃したことはありますか?
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新学期に配ったのは“痴漢撲滅バッジ”

「痴漢を許さない意思表示として、こういう方法もあります」
新学期が始まってまもない4月上旬、東京・台東区にある岩倉高校で希望する生徒に配っていたのは、冒頭で紹介した大阪の「痴漢抑止活動センター」が制作したバッジです。

この高校はJR上野駅のすぐ目の前というアクセスが絶好な場所にあり、生徒のおよそ9割が電車で通学しています。毎年4月になると、生徒から痴漢被害の相談が寄せられるといいます。

痴漢被害の実態を把握しようと、高校がことし1月、生徒770人余りにアンケート調査をしたところ、女子生徒では4人に1人にあたる26.5%が痴漢被害に遭ったと回答しました。また、男子生徒からも2.9%が被害にあったと答えました。

この実態調査について報じた「#本気で痴漢なくすプロジェクト」の記事を見た、痴漢防止に取り組む団体「痴漢抑止活動センター」が、高校の取り組みを後押ししようと、痴漢被害を防止するための缶バッジ100個を高校に寄贈したのです。

バッジには「私たちは泣き寝入りしません」「痴漢は犯罪です」などと書かれています。この痴漢抑止バッジのねらいは、痴漢被害にあわない、痴漢加害者を生まない、冤罪被害者もつくらないことです。
痴漢抑止活動センターの代表理事 松永弥生さんは「こうしたバッジをがなくても安心して電車に乗れるようになることが一番いいことだが、残念ながらまだ痴漢がいる世の中です」と指摘したうえで、自分を守ることを最優先してほしいと話しています。

痴漢抑止活動センター代表理事 松永弥生さん
「こんなバッジ1つで痴漢に遭わなくてすむの?と思う人も多いかもしれないが、実際に『つけて良かった』『つけたら被害に遭わなくなった』という声が届いています。痴漢はだいたい後ろから来るので、後ろにいる人に見えるようにバッジをカバンの持ち手の後ろ部分につけるのが効果的です」

クラスで痴漢について話す場を

岩倉高校では新学期、痴漢被害について声をあげやすい環境づくりを進めています。
1月に行った実態調査の結果を生徒たちに説明し、痴漢が身近なところで起こっていることを伝えた上で、被害にあったときにどう行動したらいいのか、生徒同士で話し合ってもらいました。「痴漢にあったらこわい。対処する勇気がない」「痴漢だと思うことはあったけれど、相談できなかった」痴漢にあったらどうするか尋ねたところ、返ってきた言葉です。生徒たちが口にしたのは「戸惑い」の声でした。

女子生徒
「友達が『かわいいね』と声をかけられて、電車に乗ってもついてきたことがあって、私は横で見ていたけど、こわくて何もできなかった」

女子生徒
「対処する勇気がないので、回避するほうに力を入れたい。痴漢にあったらこわいし、どう動いたらいいのか改めて考えるきっかけになった」

女子生徒
「がっつりではないけれど、痴漢かな?みたいなことはあった。今度からは紛らわしくても何かしらアクションを起こして防いだり、誰かに相談したりしてみようと思う」

男子生徒
「性別に関係ないんだと、被害の現状を知って僕も驚いた。振り払うとか自分でできることはやってみようと思う」

4割が「誰にも相談していない」

生徒たちにとって、声を上げることはとてもハードルが高い…。被害を受けたあとの対応にも戸惑いが浮き彫りになっています。学校が1月に行った調査で、痴漢被害を受けたときにどう対応したかも複数回答で尋ねましたが「誰にも相談しなかった」が40%を占めていました。

“誰にも相談しなかった”ということがないようにするためには、どうしたらよいのか。生徒たちに考えてもらいました。

女子生徒
「友だちが公園にいたときに盗撮されて、私が犯人に声かけたことがあったが、それでも警察に行くのはやっぱりまだ抵抗がある。大人は簡単に声をかけられなくて、頼りにくいから、もっと気軽に声をかけられる環境づくりがいろいろな所でできたらいいと思う」

女子生徒
「大人に相談するのはすごくハードルが高いので、友だちが一番話しやすい」

男子生徒
「クラスメートが大人には相談しづらいと言ったので、担任の先生でもいいし、親とか、親身になってくれる大人の人を頼れるように提案してあげたい」

こうした生徒たちの戸惑いの声を聞いた担任は、自分で駅の係員や警察に被害を言うこともできるし、自分では行動しにくい人は学校に来て先生に相談したり、保健室やカウンセラーに相談することもできることを伝えました。

岩倉高等学校 明石有美教諭
「話題に何回か出てくれば、相談するのが当たり前になってくると思います。どう対応したらいいのか、機会があるたびに、ホームルームなどで話していければいいと思う。相談のハードルをできるだけ下げるシステムを考えていきたい」

 

取材後記

もちろん悪いのは痴漢をする人で、安心して電車に乗ることができる状態が理想ですが、残念ながら痴漢被害が相次いでいるのが現状です。万一被害にあったときにどうしたらいいのか、被害を受けた人が本当の意味で相談しやすい環境になっているのか。
「大人は頼りにくい」と打ち明けてくれた高校生の声に私たち大人がどう向き合うのか、問われていると感じました。

 

今後も「#本気で痴漢なくすプロジェクト」として痴漢についての取材を継続していきます。
痴漢被害に関するご意見をこちらの 投稿フォーム にお寄せください。

  • 岡部 咲

    首都圏局 記者

    岡部 咲

    2011年入局。宮崎局、宇都宮局を経て、現在は教育などを担当。

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