WEBリポート
  1. NHK
  2. 首都圏ナビ
  3. WEBリポート
  4. ウクライナ侵攻 抗議デモにプラカード “市民の声で実態伝える”

ウクライナ侵攻 抗議デモにプラカード “市民の声で実態伝える”

  • 2022年4月13日

「どこにどうやって隠れるか、怖くてどうしていいかわからない」
「父が殺された。兵士が財布や携帯電話、家の鍵を持ち去っていた」

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、東京都内でも繰り返し抗議のデモが行われています。この中で、道行く人の目を引いているのが、ウクライナの市民一人ひとりの悲痛な声が記されたプラカード。
そこには、市民の声で実態を伝えたいという強い思いが込められていました。
(首都圏局/記者 鵜澤正貴 )

人目を引くプラカード

3月26日、東京・新宿駅前で行われたロシアの軍事侵攻に抗議するデモ。参加者が持つプラカードには、数行の文章が書かれたものが多く見られました。それは、日常を突然奪われたウクライナの市民の声でした。

「『戦争が始まった』という言葉で目覚めた朝。真っ先に考えたことはいかにして生きていくかということです」

「どこにどうやって隠れるか、防空壕の中で、廊下で、アパートかエレベーターの近くで次の晩を過ごそうか。この地獄の始まりから、最初の夜、怖くてどうしていいか分からず自宅の地下室で過ごすことにしました」

「一番怖いのは、親が別の街にいて、連絡が取れないときです」

 

デモを見た女性

こうしたことが現実に起こっているのが、恐ろしくて、本当に心が痛い。

 

もっとウクライナ市民の声を

このプラカードを作っているのは、デモの主催団体のメンバーで、映像制作の仕事をしている田中智さん(24)です。

田中さんは、父親がイギリス人、母親が日本人で、日本とイギリスそれぞれに国籍があります。中学と高校はイギリスで学び、ウクライナ出身の同級生がいたことから、ウクライナとのつながりができたといいます。

キーウで撮影(左:田中さん 右:友人)

在学中から同級生を頼ってウクライナを旅行したり、卒業後もたびたび訪れては長期間滞在したりしました。
現地にも友人ができ、連絡を取り続けてきたため、軍事侵攻には心が締めつけられる思いでした。

田中智さん
「戦争が始まったとき、自分には何もできないんじゃないかと、ちょっと落ち込んだ感じだったのですが、デモのお知らせをウェブで見て、行こうと思いました。何かできることがあったら手伝いますと」

デモに参加して仲間と話し合ううちに、田中さんは、ウクライナの市民一人ひとりの声をもっと伝えたいと考えるようになりました。
そこで、ウクライナの友人たちから、いま苦しんでいることや訴えたいことをメールで送ってもらい、その内容の一部を記したプラカードを作ることにしたのです。

田中智さん
「本当にいま戦争が起きています。実際にこうして話をしている間にも子どもやお母さんとか、ウクライナの人たちが危ない目に遭ったり、亡くなったりしています。それをわかってほしいという思いでした。実際にプラカードを持ったら、人が立ち止まって読んでくれて、話しかけられました。それで会話が始まって、本当に知らない人が一緒に立ってもいいですか、持ってもいいですかと言ってくれ、デモが大きくなりました」

ふつうの若者にすぎなかった私たち

右:田中さんの友人ダリアさん

メッセージを寄せた田中さんの友人の1人、ダリアさん(29)です。
首都キーウから西部のリビウ近郊に婚約者と避難しています。軍事侵攻が始まった頃には、現状を受け入れたくないという悲痛な思いをつづっていました。

「プーチンがウクライナで戦争を始めることはさすがにないと自分に言い聞かせていた。最悪の悪夢がものすごく近くにあるけど、まだ現実的には感じられない」

「彼は緊急用の荷物をまとめるよう言ったけど、私はそれを拒否した。この脅威が現実だと認めることになってしまうから。私は全く間違っていた」

田中さんは、ダリアさんとはメールだけではなく、オンラインで結んで直接話を聞くこともあります。ダリアさんはメッセージを託す理由について、こう話していました。

ダリアさん
「私たちはふつうに旅行をして、音楽を聴き、いろいろな計画を立てたり、朝はコーヒーを飲んだりする、今どきの若者にすぎませんでした。その私たちの人生が1か月前に完全に崩壊してしまったのです。いまは第2次世界大戦のころのように、インターネットがなかった時代とは違います。戦争を終わらせることがどれだけ重要なことか、今後このようなことが起こらないようにすることがいかに重要なことかを広めたい、聞いてほしい、理解してほしいと思います」

現状を訴える声相次ぐ

田中さんのもとには今、現地の友人たちを通じて、その知り合いからも、次々とメッセージが寄せられるようになっています。
3月26日に行われたデモでは、マリウポリ出身でキーウ近郊のブチャに住む14歳の子どもから直前に寄せられたばかりのメッセージが掲げられました。
そこに記されていたのは、過酷な現状を訴える声でした。

「父が殺された。2日間、父の遺体に近づくことはできなかった。ようやく遺体が戻ってきた時、兵士が財布や携帯電話、家の鍵を持ち去っていたことが判明した」

田中さんはこの活動を続けて、ウクライナでいま何が起こっているのか、その実態を少しでも多くの人に知ってほしいと考えています。

田中智さん
「1か月前にふつうの生活を送っていた人が、本当に人生が変わってしまい、つらいことになっている。日本にいても、ちょっとだけ力になれる。みんなの一つ一つの行動が大きなものになる。何かしたいという気持ちが多くの人に芽生えればいいと思います。今すぐに戦争を止めなければいけません」

取材後記

デモの取材で、私が初めて見たプラカードには、「今日、17歳だった兄の親友は、家族と一緒に車に乗っているときに射殺されました」と記されていました。
田中さんの友人のダリアさんは「ニュースを見て、事実を知ることも大事です。でも、それだけではなく、実際に戦争を経験し、苦しんでいる人の声を聞けば、それは多くの人にとって共感できることのはずです」と話していました。
ダリアさんのこの言葉をしっかりと受け止め、今後も取材を続けたいと思っています。

 
  • 鵜澤正貴

    首都圏局 記者

    鵜澤正貴

    2008年(平成20年)入局。秋田局、広島局、横浜局、報道局選挙プロジェクトを経て首都圏局。

ページトップに戻る