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アクロストンが教える“おうち性教育” 恥ずかしさ克服のポイント

  • 2022年4月8日

「赤ちゃんってどうやってできるの?」 「生理や射精って何?」
いま、関心が高まっている子どもへの性教育。大切だと分かっていても、どうしても「恥ずかしさを感じる」という人も多いのではないでしょうか。
実は、話すときの雰囲気作りやことば選びを工夫すれば、親子で自然に性について話すきっかけをつくることができるといいます。そのポイントを医師の立場から性教育を行っているユニット「アクロストン」の2人に教えてもらいました。
(首都圏局/ディレクター
二階堂はるか 大久保美佳)

活動のきっかけは「危機感」

今回話を聞いたのは、子ども向けの性教育の絵本を作ったり、学校や地域に出向いて性に関する授業を行ったりしている「アクロストン」、産業医のみさとさんと都内のクリニックに勤務するたかおさん夫妻によるユニットです。

2人が性教育を伝えようと思ったきっかけは、ネットにあふれる“誤った性の情報”への「危機感」でした。

みさとさん
「ネット上で性的なこと以外のものを検索しても、アダルト系の広告がすごく出てくることに気付きました。もしかしたら子どもたちは、想像以上に小さいころからゆがんでいたり、暴力的な性の情報に触れているのではと怖くなりました。初めて触れる性の情報が誤った知識であってほしくない。そうした情報に触れる前に、正しく豊かな性の知識を伝えられたらと思いました」

さらに、世界的に見ても遅れている日本の性教育の現状も活動の背景にあるといます。

ユネスコなどの『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』では、性教育を5歳から開始するプログラムを推奨しています。その内容も、生殖機能だけでなく、ジェンダー平等やパートナーとの関係、性の多様性、人権の尊重など幅広いものです。

一方、日本の公立学校で初めて性について学ぶのは小学4年生。内容も、二次性徴による男女の体つきや生殖器の違い、生理や射精などの性機能に関することが中心です。

受精と胎児の成長については学びますが、性行為や性的接触は学習指導要領の『はどめ規定』において、小中学校では『取り扱わないものとする』とされています。文科省は、性交を教えることは禁止しておらず、学校が必要と判断した場合や、個々の生徒に対応して教える場合などは可能だとしていますが、教育現場では性交について教えることを事実上タブーとしている場合が多いといわれます。

みさとさん
「私たち親世代は性教育の大切さなんて言われてこなかったし、むしろ“タブー視”され、十分に知らずに育ってきていると思っています。だからまず大人自身が『性』に興味をもって、色々と知ってほしいと思います。その上で、子どもと一緒に『性』について一緒に学んでいく、そんな姿勢が大切だと思います」

恥ずかしさを乗り越える工夫とは?

とは言うものの、いざ子どもと「性」について話そうと思っても、恥ずかしさを感じてしまうという方も少なくないのでは。
まず、自然に話がしやすくなるポイントをアクロストンの2人に聞きました。

(1)性教育の本を置いておく
性について話すきっかけがつかめないという場合は、子ども向けの性教育の本を本棚やリビングなどに置いておくといいそうです。共有スペースにあることで、「性」は「語ってもいいこと」「日常の一部」というメッセージにつながるといいます。
また、読むときには横に並んで座ると、あらたまった感じにならず、落ち着いて話ができるそうです。

(2)何気なく「つぶやく」
話す時間をあえて作らなくてもできることがあります。
たとえば家族でテレビを見ているとき。男女の描かれ方が偏っていると感じたら「何か変じゃない?」とつぶやくだけでも話が始まるきっかけになるといいます。モヤモヤしたものに“ツッコミを入れる”感覚で。

(3)繰り返し口に出す
そして、繰り返し「性」の話題を口にしていくこと。少しずつ性を語ることに慣れ、「日常の一部」にしていくことが大切だと言います。

みさとさん

性をすごくオープンにすべきというわけではなく、性は『話せるもの』だという認識を持つことが大切です。子どもが性について前向きに受け入れていくことができますし、性に関して困ったことがあった時に、親に相談しやすくなると思います。

子どもの「性」の不安 親はどうすればいい?

子どもが異性に関心を持ち始めたり、インターネットを使うようになったり。
日常の中で、子どもの「性」に関する不安を感じることがあります。その時どのように親が対応すればいいのか、3つのテーマについて聞きました。

(1)子どもが性に関心…どう答えれば?

1つ目は、子どもが性への疑問を投げかけてきたとき。
「赤ちゃんってどうやってできるの?」「生理や射精って何?」。そんなときどう対応したらいいのでしょうか。

【ポイント】 親が騒がない
避けるべきは「親が騒いで大ごとにしてしまうこと」だといいます。
親が騒ぎ立ててしまうことで、性をタブーだと感じさせてしまい、話すことをためらったり、相談しにくい状態にしてしまう可能性も。あくまでも「淡々と」対応することが大切だそうです。

たかおさん

性教育の話ってセックスをはじめ、大人がちょっとドキッとする用語が出ちゃうんですけど、一呼吸して落ち着いて、少しずつ子どもの興味の範囲内で説明すればいいと思います。

(2)ネットのアダルト情報にはどうする?

2つ目は、ネットにあふれるアダルト情報について。見るつもりがなくてもスマホやタブレットなどで、子どもが簡単にアダルトコンテンツに触れられてしまう時代。どう対処すればいいのでしょうか。

【ポイント】先にリスクを伝える
まず、子どもがスマホなどを使い始める前に、ネット上にあふれるアダルトコンテンツの“危険性”を伝えておくことが大切だといいます。

 

友達への暴力に例えるとわかりやすいです。片方の人が『殴っていい?』って聞くと、聞かれたほうは『やめて』と言っている。なのに殴った上で最後は2人仲良しって終わるのがアダルトコンテンツの内容だよって。そういうと子どもたちは『ありえない』って反応をするんですよね。

 

子どもが性的なことに興味を持つのは自然ですし、それ自体は全く否定しません。ただ、アダルトコンテンツは、本当のように描かれているけど、そうではない。誰かを傷つけてしまう暴力的な行為が多いから、まねしてはいけないと伝えています。

(3)性的同意をどう教える?

3つ目は、性教育の大きな意義のひとつでもある、加害者にならないための知識をどう身につけるか。相手の嫌がることをしない、「性的同意」の大切さを日常生活の中で伝えるために何ができるのでしょうか?

【ポイント1】ラブシーンを利用する
話すきっかけになると2人があげたのがテレビでのラブシーンです。“壁ドン”や“無理やりのキス”など恋愛ドラマの中で描かれている表現の中には「性的同意」が正しく取れていないものもあります。そうしたシーンを見ながら話し合ってみてはどうでしょうか。

 

漫画でも壁ドンや、かっこいい男の人がぐっとキスする場面で「これ同意取れてないよね?」とか 「この人は笑っているけど、本当は嫌なんじゃないかな?」と話してみることができます。性教育の目線で見ると話すテーマにあふれているんですよ。

【ポイント2】親が日頃から実践する
性的同意については、子どもが小さくても日頃の親の働きかけで学ぶことができます。
おむつ替えや服を着替えるときなど、親が子どもの体に触れる際に「おむつ換えるよ?」「体に触るよ?」と子どもの同意をとる。そうすることで「人の体に触れるときは確認する必要がある」というルールを子どもが自然に学ぶことができます。

 

服を脱ぐのを嫌がっているのに親が無理やり脱がしてしまうと、その子の権利が守られなかったことになります。親がそれをすると子どもは自分も他の人にしてもいいんだと理解してしまいます。親子でも対等な関係でコミュニケーションを取ることで、自分の体は自分のもので自分が決められるということを実感できる。それが自分を守ることになるし、相手を加害しないことにもつながります。

「正しさ」に縛られず もっと気軽に

アクロストンの2人が繰り返し語っていたのは「性の話をもっと気軽に」というメッセージでした。

みさとさん
「性教育は、性行為や避妊だけでなく、人間関係、ジェンダー、自分がどう生きていくか、どう人生を幸せなものにしていくか…生きることすべてが含まれるくらい幅広いものです。いざ性教育というと、間違ってはいけないとプレッシャーを感じる人もいますが、親が間違ってもいい。それを修正する機会は日常の中にたくさんあります。また、思春期になってしまったから手遅れということもありません。必要だと気づいたときに始めてください」

たかおさん
「まず気楽に始めてみることだと思います。本でもいいし映画でもいいし、自分の興味のある分野や好きだなと思ったものから触れていって、少しずつ性教育に取り組んでいくことが大事だと思います。意外とお互いが感じていたモヤモヤが、“ああわかるー”とわかり合えることもあるので、タブー視せず親子で一緒に話してほしいです」

  • 二階堂 はるか

    首都圏局 ディレクター

    二階堂 はるか

    2016年入局。沖縄局、ニュースウオッチ9を経て現職、2年ほど前から「性暴力」をテーマに取材。

  • 大久保 美佳

    首都圏局 ディレクター

    大久保 美佳

    2020年度入局。貧困や福祉、労働問題などに関心を持ち取材中。

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