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ウクライナ情勢を考える “単純ではない戦争” 絵本が伝えたこと

  • 2022年4月1日

東京都内で開かれている、戦争がテーマの「絵本」を題材にした展覧会。争いをやめられない人間たちを見かねて、動物たちが会議を開いて平和への道筋を議論していくこの絵本は、第2次世界大戦の終結直後に書かれたものです。ウクライナで激しい戦闘が続くいま、この絵本を読んだ大人、それに子どもたちは、何を感じたのでしょうか。
(首都圏局/記者 石川由季)

争いをやめられない人間を痛烈に批判

岩波書店「どうぶつ会議」

「動物会議」は、「飛ぶ教室」などで知られるドイツの作家、エーリヒ・ケストナーが、第2次世界大戦の終結直後の1949年に発表しました。争いをやめられない人間たちを見かねて、ゾウやライオン、それにキリンなど、たくさんの動物たちが世界中から集まり、平和のための会議を開く物語です。
動物たちが開く会議のスローガンは「子どものために!」
人間の大人たちの愚かさについてユーモアを交えながら痛烈に批判するとともに、子どもたちのためにあの手この手で、人間たちの争いをやめさせようとする動物たちの姿が描かれています。

「PLAY!MUSEUM」の会場

東京・立川市の美術館では、この絵本を題材に制作された作品を展示しています。

「無題」梅津恭子

物語の冒頭、ゾウやキリンたちが集まっておしゃべりをする場面から始まります。動物たちは、かわいい子どもたちが戦争に巻き込まれることに憤ります。
この写真は、その様子をイメージして制作された、ぬいぐるみの作品です。8人のアーティストが物語の内容に合わせてリレー形式で制作した作品のそばには、絵本の内容が書き記されています。
 

まったく、人間どもったら!けったくそ悪いやつらだよ!
戦争だ、革命だ、ストライキだって、いつもひどい目にあうのは、子どもたちだ。
なにかしなくちゃ!
でも、なにをしたらいいんだ?

「無題」植田楽

そして、動物たちは世界各地から集まり、どうしたら人間たちが争いをやめるのか、みんなで考える会議を開こうとします。

ぼくたちがあつまっているのは、紙きれをくだらない文字でうめるためじゃない。
子どもたちの力になるためだ。
わかりますか?

ぼくたち動物は、二度と戦争や貧困や革命がおきないことを要求します!
そういうことは、おきないようにしなければなりません!
なぜなら、おきないようにできるからです!

動物たちは、ビルの大会議場に集まり、2度と戦争が起こらないように求めますが、人間たちはなかなか受け入れようとしません。
しかたなく、動物たちは、ある心配事を起こして、人間たちが争いどころではないようにしようと考えます。
それは、人間の子どもたちを少しの間だけ、人間の知らない場所に隠すことです。
ただ、隠すといっても、それは、動物たちと楽しく遊べる場所に連れて行っていただけなのですが、人間たちは子どもたちが消えてしまった現実にことばが出なくなります。
政治家にも将軍にも砲兵にも、みんな大切な子や孫がいるからです。
この最後の一手で、ようやく大人たちは平和のとりきめにサインをすることになりました。

 

「闇の世界 夢の世界」junaida

単純ではない戦争 絵本で考え続ける

展覧会の開催からほどなくして始まった、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻。美術館のスタッフたちの間から「何かできないか」と声が上がり、絵本をきっかけに平和について考えてもらう催しが、急きょ、展覧会の会場で開かれることになりました。

年齢制限は設けず、子どもから大人までおよそ40人が参加して行われた催し。美術館のプロデューサーの草刈大介さんと、絵本家の広松由希子さんが登壇し、ウクライナ侵攻を受けて感じることを語りました。 

草刈大介
さん

絵本の中で、“どうして戦争はやめられないのか”、“人間は人間の手で決断できない”ということが問いかけられていましたが、今、その問いかけがまさに目の前に現れています。

広松由希子さん

いま、なぜ戦争が起きているのかは単純なことではありませんが、答えが出ないから考えるのをやめるのではなく、それを考え続けることができるのは、絵本や展覧会の底力にあると思います。

今回の催しでは、参加した人たちも自由に絵本や展示を見た今の思いを話しました。小さな子どもたちも話に耳を傾けたり、展示のしかけについて質問したりしながら、いっしょに平和について考えるひとときを過ごしていました。

参加した
小学生の
男の子

ウクライナはなんでああなったんだろう。戦争はいろんなところに影響を及ぼす、いけないことだと思いました。

 

男の子の
母親

子どもはすぐに、どっちが悪いの?って聞くのですが、安易に答えるのは違うなと思っていて。ロシアにもウクライナにも、あなたたちみたいな子どもがいるんだよ、ということは忘れずに伝えるようにしていますが、子どもたちに戦争をどう伝えるのか難しいと感じていました。催しに参加して、年齢によって受け止めも違うと思うので、そのときどきで子どもが感じることを大事にしてあげたいと思いました。

取材後記

「なんで、ずっとせんそうしてるの?」

取材のきっかけになったのは、5歳になる自分の子どもが、ウクライナ侵攻に関するニュースを見て発したひとことでした。私はうまく答えられず、子どもにいま起きていることをどう伝えればいいのか悩んでいるときに、「動物会議」の存在を知り、絵本を読みました。
なぜ人は争い、その争いをやめることができないのか、という問いは確かに単純なものではなく、絵本を読んだあとも、子どもにうまく伝えられているかどうか、まだ自信がありません。催しの会場でプロデューサーの草刈さんにそう伝えると「でも、一歩前に出て考えてみることが、今はなおさら必要じゃないですかね」ということばをいただきました。

「僕も親なので自分のこととして考えてみると、学校で教えてくれるとか誰かが教えてくれることではなくって、いっしょに疑問を考えたり、想像してみる。こういうことをほんの少しでもいいので積極的にやるべきだと思うし、絵本や展覧会が“考える”きっかけになったらいいなと思います」

絵本の中では、大人たちが、“子どものため”、“世の中がよくなるように”と言いながら、争いを自分たちだけでやめることができませんでした。今は、大人たちが戦争の解決に向けて世界中のそれぞれの場所で努力しているということを伝えながら、子どもといっしょに、これからも考えることを続けていきたいと思います。

※展覧会の開催は4月10日まで。

 
  • 石川由季

    首都圏局 記者

    石川由季

    2012年入局。大津局、宇都宮局を経て首都圏局。よく子どもから取材の“きっかけ”をもらっています。

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