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新型コロナの影響で留学生が長期にわたり不在 大学研究室が危機感

  • 2022年3月28日

新型コロナウイルスの水際対策が緩和され、3月から外国人留学生らの入国が認められましたが、長期にわたる留学生の不在は、最先端の研究を担う大学の研究室に影響を及ぼしています。いま、何が起きているのか、取材しました。(横浜放送局/記者 古市悠)

研究の一端を支えてきた留学生たちが…

私(=記者)が取材に訪れたのは横浜市港北区の慶應義塾大学です。国際的な「知」の交流の場でもある大学院の研究室では、危機感が顕在化しているといいます。

理工学研究科の田邉孝純教授は、「光」を自在に操る技術を研究しています。超省エネ通信への応用などが期待され、世界的に研究が盛んな分野です。

田邉孝純 教授
「光集積回路になりまして、シリコンチップ上に非常に小さな光の配線がたくさん集積されている。これを使って、光をこの中に閉じ込めたり、止めることができれば光のまま情報を記憶することができる」

最先端の研究の一端を支えていたのが毎年、ヨーロッパやアジアから来ていた留学生たちでした。しかし留学を希望していた人たちからは入国できないので入学を諦めますというメールが届いたのです。
この2年間、新型コロナの影響で研究室に留学を希望した5人のうち、4人が留学を断念しました。1人は大学に入学したもののまだ来日できていません。研究室では、いま5つのプロジェクトを抱えています。数年後に成果を出すためには、次々と新たな研究に取り組まなければなりませんが、人手が足りず、挑戦できなくなっていると田邉教授は指摘します。

田邉孝純 教授
「基礎研究は、広大なところからダイヤモンドを探すようなもので、多くの研究に泥臭く挑戦しないといけないがいまは人手に余裕がなくて、現在走っているテーマに学生あるいは大学院生、研究者もアサインして維持するだけの状況。この影響というのは5年後、10年後に、ボディーブローのように出てくるんじゃないか」

協力関係への影響を懸念する声も

海外の大学と築いた協力関係への影響を懸念する声もあります。生産工学の研究をする柿沼康弘教授は、職人並の研磨の技術を持つロボットなど、人間の五感を持った加工ロボットの研究をしています。

柿沼康弘 教授
「研磨は人の手によって行われている。ロボットが人間に変わることができれば夜間や休日など人の確保が難しい時でも工場はフル稼働できる」

研究室では20年ほど前から、生産工学の分野で世界をリードするドイツの大学から、毎年、留学生を受け入れてきました。この2年間で、来日できたのはひとりだけです。
研究室ではこれまで、帰国した留学生と一緒に共同研究を行うなど、研究の舞台を世界にも広げてきました。水際対策が緩和されても、この2年間の留学生の不在は、これまで築いた関係に影響を及ぼすのではないかと心配しています。

ドイツからの
元留学生

日本への留学を希望していた学生たちは、1年以上待っていた。

柿沼康弘 教授

何人かの学生はここでの研究を断念している。

 

柿沼教授は、新型コロナの感染状況に関わらず留学生を受け入れる体制を整えてほしいと提言しています。

柿沼康弘 教授
「ドイツだって、日本ばかり見てるわけではなくて、中国とかベトナムとかそういうところの大学と非常に積極的に交流を深めている状況なので、もし日本が留学生を受け入れないとかそういうことになってくると、他の国にやっぱり進んでいってしまう。水際対策の緩和でこれから入国者が増えていくと言っていますけど留学生はその枠の外で受け入れをちゃんと考えてほしいなと思います」

新型コロナの影響で、海外などとのやりとりを、オンラインで行うケースが増えていますが、実験が中心になる研究の場では、多様な価値観を持った人たちが一緒に実験などを行いながら議論することが欠かせないと言います。5年後、10年後を見据えた対策が求められています。

取材後記

新型コロナの感染が拡大する前、取材で東京大学のキャンパスを歩いていると、留学生の多さに驚いたことを覚えています。アメリカと同じように、日本でも、最先端の研究の一端は留学生によって支えられています。少子高齢化が進む中、優秀な人材を国内外から集めることは、重要な課題となっていますが、柿沼教授が指摘していたように、中国を筆頭にアジア各国も研究力の強化に力を入れていて、人材の獲得競争につながっています。近年、学術研究の規模は大型化し、国際的な研究チームを作って、より大きな成果を目指す傾向が強まっています。こうした国際的な研究チームは留学時代に築いたネットワークの中から立ち上げることも多いということです。感染対策と人の移動を両立させることは難しいことですが、日本に留学を希望する優秀な学生が、ほかの国を選んでしまわないように、今後の水際対策のあり方を国に議論してほしいと思います。

  • 古市悠

    横浜放送局 記者

    古市悠

    2010年入局。水戸放送局、大阪放送局、科学文化部を経て2021年から横浜放送局。神奈川県内の医療や文化、在日米軍基地をめぐる課題など幅広く取材。

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