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2拠点居住 都会と地方の「いいとこ取り」?リアルな生活は

  • 2022年3月22日

コロナ禍で、テレワークの活用などで働き方が多様化したこともあり新たなライフスタイルに注目が集まっています。その1つが、都会の自宅とは別に、地方にも生活拠点を構える「2拠点居住」です。本格的な「移住」と異なる最大のメリットは、仕事を変えることなく都会暮らしと田舎暮らし、両方の「いいとこ取り」ができること。東京都内と山梨県を行き来しながら生活している人の「リアル」を取材しました。
(甲府放送局/ディレクター 那須大暉)

森の中でテレワーク

水曜日の夜11時、JR大月駅(山梨県大月市)の改札から出てきたのは、東京都内の銀行に勤める田中祥人さん(37)です。

毎週水曜日の夜、都内での仕事が終わると、大月にやって来ます。駅近くの月極駐車場に止めた車に乗り換え、走ること約15分。着いたのは真っ暗な森の中です。

田中さん
「ここが私の2拠点目の家になります」

木造2階建ての母屋とツリーハウス。田中さんは4年前、この家と都内の自宅を行き来する2拠点居住を始めました。
コロナ禍以前は、週末だけ滞在する別荘として使ってきましたが、この2年で使い方が大きく変わりました。 

感染対策のため、田中さんが勤務する銀行ではテレワークが導入され、出勤しなくても仕事ができるようになったのです。
田中さんは、オフィスの中での仕事が中心でテレワークがしやすい業務ということもあり、現在は木曜と金曜の2日間、山梨でテレワークをおこない、そのまま日曜の午後まで過ごしています。
室内にはインターネット環境を整えており、仕事への支障はないといいます。 

田中さん
「通信回線は東京と遜色ないので、資料作成やリモートでの打ち合わせなど、問題ありません。仕事の合間に緑を見たり、夏は外に出て仕事をしたりできるので、リフレッシュになっていいです」

都会暮らしに疲れ…

田中さんが2拠点居住を始めたのは、5年前の東京転勤がきっかけでした。

それまでは、北海道や九州といった自然豊かな地方での勤務が長く、休日のたびに登山やキャンプなどのアウトドアを楽しんでいました。ところが、東京で暮らすようになってから、生活に息苦しさを覚えるようになったといいます。

田中さん

簡単に自然にアクセスできないのが、ストレスになっていました。ちょっと出かけようと思っても渋滞に巻き込まれたり、施設の予約が必要だったり。それなら、いっそのこと、電車で行きやすいところに、自分だけの拠点を持ってしまおうと考えました。

そこで田中さんは、2018年12月、インターネットの空き家紹介サイトで見つけた築30年以上の中古物件を土地も含めて160万円で購入しました。
関東近郊のほかの場所も探してみましたが、大月市は都心から特急電車で約1時間と利便性が高かったことと、購入費の安さが決め手になりました。

自分の手でリフォーム

ただ、購入して間もない頃は、快適に暮らせる環境ではありませんでした。田中さんは休日に東京から通いながら、自分の手でリフォームしてきました。

 

天井が落ちてきて、壁に穴も開いていました。そういう状況だったので、自分で天井を落として貼りなおし、壁も埋めました。ペンキも塗ってかなりきれいにしました。

それだけではなく、庭のツリーハウスも本やインターネットの情報を参考に自分で作りました。高いところで地上からの高さは4メートル。おやつを食べたり、コーヒーを飲んだりして、気分転換したい時に活用するといいます。

さらに、ピザ窯やウッドデッキ、ドラム缶風呂も手作りです。2拠点居住を始めるまでは大工の経験なんてなかった田中さん。設計から施工まで、全て自己流です。

 

プロに比べると腕前は全然です。ただ、楽しんでやることが大切と思っていて、あまり完璧を求めすぎずにやるようにしています。

2拠点生活 気になる費用は?

妻のゆかりさんは、平日は都内の会社で働いていて、土曜の午前中に合流します。この日は、囲炉裏を囲んで、地元の食材を使った料理を堪能。2拠点居住で生活が豊かになったと実感しています。

妻のゆかりさん

私は実は最初は反対していたのですが、今はすごく楽しく過ごせています。夫も元気に生き生きとしているので、すごくよかったと思います。ここを拠点に、いろいろなところに観光にも行けますし、とても充実していますね。おすすめしたいです。

気になるのが、こうした2拠点居住にかかるお金。田中さんの都内の家は賃貸住宅で住宅ローンがあるといったわけではないため、2拠点居住には踏み切りやすかったといいます。

とはいえ、できるだけ安く抑えることを目標にしているといいます。
まず、大月の家には水道やガスは通っていません。

自作のドラム缶風呂

水は、無料の水くみ場から調達し、お風呂は、近くの温泉施設に行くか、ドラム缶風呂で済ませています。

電気代は、使った分に応じて料金が決まる電気プランを契約し、毎月約1000円。
インターネット通信費が約5000円、
大月駅近くの駐車場代が約4000円。
このほか年間約3000円の固定資産税がかかります。
交通費は毎月3万円。

すべて足し上げると、2拠点居住に1年間でかかるお金は100万円ほど。
100万円は大きなお金ですが、田中さん夫婦にとってメリットは大きいといいます。

田中さん
「都内のスーパーよりも、山梨のほうが食材をかなり安く買えます。野菜を山梨で買って、都内の自宅に持って帰ることもしています。東京での生活費も少し下げることができました」

それに、2拠点居住を始める前は、自然を求めて毎週のように出かけていましたが、2拠点居住では宿泊費やガソリン代が節約できることもあり、2拠点居住を始める前に比べ、年間50万円ほど支出が減ったということです。

移住と違う魅力とは

田中さんは、こうした暮らしぶりをブログやSNSで発信。関心のある人から問い合わせのメッセージが届くこともあります。田中さんは、2拠点居住には移住と違った魅力があるといいます。

田中祥人さん
「移住は、今までの生活からガラッと変わってしまいます。仕事や住む環境が変わるので、リスクにつながる部分があると思います。2拠点居住であれば、今の仕事を継続しながら、都会のいいところと、田舎のいいところ、両方のいいとこ取りができます。東京だけで暮らしていた時よりも生活の質は上がりましたし、地元の人とのつながりも増えました」

自治体も2拠点居住に注目

こうした2拠点居住に自治体も注目しています。
田中さんが暮らす大月市では、都心から特急電車で1時間という強みを生かし、2拠点居住を呼び込もうと、空き家の購入者にリフォーム費用の一部を助成するなど、さまざまな取り組みをおこなっています。

さらに去年、空き家だった教員宿舎をオフィスに改装。もともと2Kの間取りだった部屋の仕切りを撤去し、1区画のオフィスにしたのです。都心の企業に、サテライトオフィスとして活用してもらう考えで、新年度から入居企業の募集を始める予定です。

大月市企画財政課 上條宏久主査
「コロナ禍で、都心を離れてお仕事ができる方々に、仕事ができるスペースとしてこちらの建物を整備しました。この自然豊かな大月の街を知ってもらい、繰り返し来てもらうことで、将来的には移住・定住につなげていきたいと考えています」

山梨県も力を入れています。
去年4月、二拠点居住推進戦略を策定。リニア中央新幹線の開業が追い風になるとみて、県全体でPR活動や企業誘致を本格化させています。
2022年度一般会計当初予算案には、二拠点居住推進事業費として約4100万円を盛り込みました。県の担当者は、人口減少に苦しむ山梨県にとって多くのメリットがあると強調します。

山梨県二拠点居住推進課 柏原隆仁課長
「2拠点居住が進めば、地域経済の活性化や、課題になっている空き家対策、地域の担い手不足の解消が期待できます。また、山梨県の魅力を感じた人の移住・定住につながればと考えています」

総務省の人口移動報告によると、去年は転入超過だった山梨県。都会から地方へという流れをつかみ取れるのか、注目されます。 

  • 那須大暉

    甲府放送局 ディレクター

    那須大暉

    2021年入局。前職は新聞記者で熊本や福岡で勤務し、人口減少や防災などを取材。

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