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「ツーブロック禁止」校則に悩む理容師 “刈り上げ”なのにダメ!?

  • 2022年3月11日

1月、“真冬でも式典ではタイツの着用を禁止する”という校則について記事を掲載しました。すると、ある理容師から切実な投稿が寄せられました。
「中学生から『ツーブロック禁止だから、ツーブロックっぽく刈り上げて下さい』との注文。翌日学校でツーブロックと指摘されお直しに。翌日のお直しなので料金は取れません…」
理容師の悩みを聞きました。
(首都圏局/ディレクター 高橋弦)

ツーブロックの“誤審”にとまどう理容師

こちらが寄せられた投稿です。

理容業をしています。校則でよく髪型の問題が取り上げられていますが、(中略)僕たちプロの話しも聞いて下さい(泣)
中学生から「ツーブロック禁止だから、ツーブロックっぽく刈り上げて下さい」との注文。翌日学校でツーブロックと指摘されお直しに。翌日のお直しなので料金は取れません。
ツーブロックかツーブロックじゃないかを先生が判断するので基準があいまい。そもそもツーブロックの定義を無視する先生にプロ達が右往左往。その都度頭を抱えています。

今回投稿を寄せてくれたのは、埼玉県戸田市で理容室を営む嶋村洋介さん。
店の半径2キロ圏内に合わせて5つの中学・高校があり、週に10人ほど、中高生の客が来ます。そして、多い時期は毎月のように、「ツーブロック禁止」の校則がもとで「切り直し」をすることがあるといいます。

しかし、「切り直し」はすべて“誤審”によるものだという嶋村さん。特に“誤審”を受けやすいカットの1つが「フェードカット」というカットだといいます。

フェードカットとツーブロックの比較です。一見同じ髪型に見えますが、プロの目線では明らかに異なる技法で、「フェードカット」はツーブロックにあたらないと言います。

・ツーブロック
トップとサイドなど、頭の2つのエリアでカットの長さや種類を明確に変えるカット技法。
長さやカットの異なるブロックが2つできることからこう呼ばれる。

・フェードカット
サイド部分を下から上にかけて徐々に長くなるように仕上げる刈り上げの技法の1つ。
髪の長さがグラデーション状に徐々に変化していくため、ツーブロックのように2つのブロックに明確に分かれない。

しかし、フェードカットで仕上げても、「ツーブロックだ」という“誤審”に基づいて、翌日切り直しに来る客が少なくないと言います。

理容師 嶋村洋介さん
「ツーブロックっぽく見えるっていうちょっと攻めた仕事をしてしまっている僕にも非はあるのかもしれませんけど、やっぱりお客さんが望んでいるものを切るっていうのが僕たちの仕事だと思うんですね。で、お客様はそれで満足して帰ってくれていたのに、学校からダメ出しを食らうと。しかも間違った判断を元に。それで目立たないようにとか、目をつけられないようにカットをするってなんかちょっと違うんじゃないかなと。僕らは何を頑張ってきたんだろうってなりますし、お客様も気の毒ですよね」

嶋村さんは客の気持ちを思い、納得のいかない切り直しでも追加料金はとらないことにしています。
一方で、金銭面の負担以上に、カットの表現の幅が狭められていくのではないかと危機感を抱いています。

嶋村さん
「僕が若い頃はツーブロックがダメなんて言われませんでしたが、徐々にツーブロックみたいな切り方は注意してくださいねと言われるようになって、このままでは、刈り上げ自体ダメだよということになりかねない。でも、お客さんは僕に切ってもらうとかっこいいからと、うちの店をチョイスしてくれるわけです。その表現力をどんどん減らされてしまうと、自分の武器をそがれていくような感じがします。お金をもらって、おしゃれじゃない、かっこよくない髪の毛をわざわざ作る、おかしなことになっていってしまう」

女性の髪型だった? ツーブロック驚きの歴史

プロの理容師を困惑させる「ツーブロック禁止」の校則。しかし、そもそもなぜ禁止されているのか?ツーブロックの歴史をひもといてみることにしました。

お話しをうかがったのは、山野美容芸術短期大学で、美容・服飾と時代様式の関係について研究している富田知子さんです。

取材を始めるや否や、衝撃的な事実が告げられました。実はツーブロックは元々「女性向け」のカットだったというのです。
1980年代、日本にツーブロックを持ち込んだのは、現在東京に10店舗を展開するヘアサロン「SHIMA」の創業者、嶋義憲さん。ツーブロックは、当時の時代背景と強く結びつく髪型として日本に伝わったものだと富田さんは言います。

1984年、「ツーブロックカット」として紹介された写真

山野美容芸術短期大学 富田知子教授
「1980年代はボディコンシャスとワンレングスが流行したころですが、男女雇用機会均等法ができ、女性も男性と一緒に働けるんだということで、女性のメークやファッションも非常に迫力のある強さみたいなものが求められる時代でした。自分の言葉でものを言えるような、今までにないクールな強い女性像を表現する1つのスタイルとしてツーブロックが紹介されました」

しかし、ディスコブームの影響でワンレングスやトサカ前髪などが大流行。ツーブロックが女性の間で大きく広がることはありませんでした。

その一方で、ツーブロックはメンズカットの手法として着実に定着していきます。

日本人は一般的に髪質が硬く、こめかみ周りを短くすると髪が立ち上がり、大きな膨らみが出来てしまいます。それを抑え、軽さと柔らかさ、清潔感を出す手法として適していたのがツーブロック。古くから刈り上げの文化があったことも、男性に抵抗なく受け入れられた理由ではないかと、富田教授は推察します。

90年代には木村拓哉や江口洋介を筆頭とする“ロン毛ブーム”が到来し、ツーブロックの流行は一時身を潜めます。

江口洋介さん

しかし2002年の日韓ワールドカップの際に当時のイングランド代表、デビッド・ベッカム選手の“ベッカムヘアー”が注目されました。
短髪人気の高まりからツーブロックが再び日本国内で流行し、それが今日まで続いているといいます。

「禁止」の理由は不明…

ツーブロックが定着した経緯は分かったものの、なぜ校則で禁じられるようになったのかという具体的な事実関係は実のところよく分かっていません。
今回も、校則について研究をしている専門家や、1980年代以降の教育現場を知るベテランの教師、文部科学省などに取材を行いましたが・・・

 

ツーブロックが入ってきた80年代前後はツッパリブーム。当時、不良のアイコンとされたリーゼントと混同されたのでは。

 

地域によって違うかもしれないが、学校で禁止されるようになったのは2000年前後だったように思う。

 

サイドを刈り上げるという共通点から、モヒカンのような学校側が嫌がる髪型につながると考えられたのでは。

専門家や教育関係者からはこうしたさまざまな説が聞かれたものの、確かな答えを知っている人はいませんでした。

背景に“理不尽さに意味がある”という価値観?

そうした中で、興味深い見解を示す専門家が。

禁止される理由が分からない「理不尽さ」にこそ意味があるのではないか、というのが武庫川女子大学学校教育センターの准教授で、20年ほど前から校則に関する研究をしている大津尚志さんです。

大津さんによると、特定の髪型を校則で禁じる理由とされるのは、主に以下の3つだといいます。

1)非行につながる恐れがある
2)流行を追うことや華美にすることは、学業と関係なくふさわしくない
3)お金がかかる髪型は生徒の経済格差を顕在化させるおそれがある

確証はないものの、ツーブロックは2の理由から禁止されてきたのではないかという大津さん。
一方、髪型がもとで学校が荒れる、授業に集中できなくなる、学力が落ちるなどといった裏付けはなく、禁止することは合理的ではないとも指摘します。

こうした校則ができた背景には、頭髪指導が取り入れられた1975年ころ、全国的に校内暴力などで学校が荒れていた状況が関係していると大津さんはいいます。

武庫川女子大学 学校教育センター 大津尚志 准教授
「暴力行為が問題になったころは、とにかく言うことを聞かせるのが大事、言うことさえ聞けば中身はどうでもいいと。むしろ『理不尽なことにも従う』ことが、教育効果が高いということでさえあったわけです。そんな目的の校則ですから、合理的な理由を考えて作られているとは限りません。
それで、あとからこじつけた理由を考えるわけです。実際に『ツーブロックは事件や事故に巻き込まれるから禁止』とか『ポニーテールは毛先が目に入って失明するから禁止』といった非常に苦し紛れな理由を挙げているケースがあります」

「ツーブロック禁止」どうするべき?

起源や明確な理由が分からない中で、現在も一部の学校で禁止されているツーブロック。

文部科学省は、校則は各学校の校長の権限で定められるため、個別の事案には言及していないとしたうえで、平成22年3月に公表している「生徒指導提要」を元に各学校で検討を進めてほしいとしています。
「生徒指導提要」では、校則について主に以下のようなことが言及されています。

・社会通念に照らして合理的とみられる範囲内で、学校や地域の実態に応じて適切に定められる
・校則の指導が真に効果を上げるためには、その内容や必要性について児童生徒・保護者との間に共通理解を持つようにすることが重要
・校則の内容は、児童生徒の実情、保護者の考え方、地域の状況、社会の常識、時代の進展などを踏まえたものになっているか、絶えず積極的に見直さなければならない
「生徒指導提要」(平成22年3月文部科学省)より

取材後記

今回理容師の嶋村さんから投稿を頂いたことで、教師、児童・生徒、保護者以外にも、校則に深く関係する人がいるのだということに初めて気づきました。
現在一部の学校で、児童・生徒を巻き込んで、校則の改訂が行われる事例も増えてきています。
「ツーブロック禁止は非合理だ」という指摘が専門家からありましたが、ぜひ理容師など“隠れた関係者”の声も取り入れながら、見直しを進めてほしいと思います。

  • 高橋 弦

    首都圏局 ディレクター

    高橋 弦

    2017年入局。広島局を経て2021年から首都圏局。教育や不登校、災害・防災について取材。

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