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ウクライナ侵攻でバレエ留学中断 帰国した19歳の無念と祈り

  • 2022年3月8日

ウクライナへのロシアの軍事侵攻は、バレエダンサーの夢に向かって励んでいた日本人の若者も翻弄しています。世界から集まった仲間とキエフで学んでいた埼玉県出身の19歳の女性は、留学を中断し帰国を余儀なくされたのです。
「もう一度、あの場所で踊りたい。どうか無事でいてほしい」
女性は、胸が押しつぶされるような思いで日々を過ごしています。
(首都圏局/記者 浜平夏子)

“直ちに帰国してください”

埼玉県春日部市のバレエ教室で稽古に励む鈴木希々花さん(19)は、3年前、海外のバレエ団で踊るための資格をとりたいと、ウクライナの首都キエフのバレエ学校に留学していました。
寮生活を送りながら、世界から集まった仲間たちとともにバレエダンサーの夢に向かって励んでいました。

後列 右から2番目が鈴木さん

しかし、ウクライナ情勢が悪化。ことし1月には鈴木さんの携帯電話に、毎日、日本大使館から帰国を促す電話がかかるようになりました。その内容は緊迫したものでした。

大使館からの電話
「留学とか、日本に帰る、帰らないの話ではなく、生きるか死ぬかの話になってきています。ただちに帰国してください」

2月上旬、急きょ日本に帰国しました。

わたしには帰る国があった

そのおよそ2週間後、ロシア軍がウクライナに侵攻しました。そのとき、鈴木さんを襲ったのは、無力感と自分には帰る国があったという負い目でした。

帰国後 春日部市のバレエ教室にて

鈴木希々花さん
「私は帰る国があるので、ただ自分の国に帰るだけなんですけど、キエフなどに住んでいるウクライナ人の友達は、やっぱり自分の国だから逃げられないし。ポーランドに逃げるって言っても家を捨てて出て行かないといけない。友達や先生の無事を祈ることしかできない。自分が悔しいというか。すごく無力だなって思います」

ウクライナの友人たちは

いま、鈴木さんが気にかけているのは、ウクライナ人の同級生たちの状況です。仲のいいウクライナ人の同級生、インナさんとようやく連絡がとれました。

インナさんは、ホームシックになった鈴木さんを気にかけてくれていました。鈴木さんにとって、いつも声をかけてくれた大切な友人です。
ロシアの軍事侵攻後、インナさんとはこんなやりとりをしました。

鈴木さん

元気?すごく心配しているよ。いまどういう状況か教えてほしい

インナさん

いま私は安全。でもキエフが…

 

キエフにいるの?

 

キエフからは逃げているよ。ロシア軍はわたしたち市民に触れないようにしてほしい。

 

わたしたちもそう願っている。誰も戦争を望んでいないから。

インナさんは、首都キエフを離れ、ウクライナ中部の街に避難しているということでした。鈴木さんは、インナさんの自宅を訪れたこともあります。「ウサギを飼っているの。遊びに来ない?」と声をかけてくれたのもインナさんでした。ほかにも鈴木さんの友人からは、ウクライナの厳しい状況が伝わってきます。

1か月前まで一緒にバレエを踊り、バレエダンサーへの夢を目指した友人たちの窮状を知り、見慣れたキエフの街が爆撃される映像を見て、鈴木さんは胸が押しつぶされそうになっていました。

鈴木さん
「バレエ学校は、キエフの独立広場から歩いて5分くらいの場所にありました。私はあの街並みを毎日見ていました。近くには人気のレストランもありましたし、壁の装飾が細かく、とても美しい街並みです。それが破壊されるのがつらく、悲しいです。ロシアの市民も戦争を望んでいるわけではないと思います。もちろんウクライナの人たちも戦争を望んでいる人は誰ひとりいないのになんの罪もない人たちがつらい思いをしなくちゃいけないというのがすごく悲しいです」

もう一度、あの場所で踊りたい

3歳からバレエを習ってきた鈴木さんですが、その道は決して平たんではありませんでした。

バレエを始めた頃

「海外のバレエ団で踊りたい」と、鈴木さんは夢を追って3年前にキエフのバレエ学校に留学しました。しかし半年後には、両足のじん帯を断裂する大けがをしてレッスンを中断せざるを得なくなりました。
一時、帰国して手術を受けた鈴木さんはその後、懸命のリハビリを終えて再びウクライナに渡り、去年9月にバレエ学校に復学したばかりだったのです。

日本に一時帰国し、病院で手術した直後

鈴木さん
「ウクライナに戻れるなら戻りたい。もう一度、あの場所で踊りたいと、今は気持ちを全部踊りにぶつけていますが、将来どうするのか悩んでいます。ウクライナは、私にとって夢をかなえる場所でもありますが、友達とか先生とか大切な人のいる場所で、いまはみんなのことが心配で心配でどうしようもないです」

日本の人に伝えてほしい

鈴木さんのもとには、3月はじめ、インナさんから日本の人に伝えてほしいと、ウクライナ語で動画メッセージが送られてきました。

インナさん
「ロシアの軍事侵攻が始まって、わたしはパニックになって叫んだり泣いたりしました。何をすればいいかわからなかったです。キエフを離れ、避難していますが、夜継続的に空襲警報が鳴っています。外に出て、店に行くのを怖がっている状況です。いまは食べ物が少なく乾いたパンしか食べていません。お店で買うのも2時間ほど並んでいます。日本の人たちにお願いしたいです。ロシア人に目を開けさせてください。私たちのために食べ物とか薬とか何でもいいから手助けをしてください。この戦争が終わって二度とおこらないように手助けをしてください」

帰国後、毎日、ウクライナの情勢を気にかけている鈴木さん。遠く離れた日本でできることはないか。避難支援の物資や食料品に対する寄付を考えています。

鈴木希々花さん
「インナとはいまも連絡をとっています。インナは、空襲警報のサイレンが鳴り響くなかで寝るのはつらく、今すぐでも国外に避難したいと考えているようです。しかし、家族は爆撃をいつ受けるか分からない中の移動は避けた方がいいと考えているそうです。どうか無事でいてほしい。これ以上、人々が傷つくのを見たくない。いますぐにでも戦争をやめてほしい。みんなが安心して眠れる場所に戻ってほしい」

 
 
  • 浜平夏子

    首都圏局 記者

    浜平夏子

    2004年(平成16年)入局。宮崎局、福岡局、さいたま局を経て、2020年から首都圏局。医療取材を担当。

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