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私がオーバードーズする理由 “消えてしまいたい”女子高校生

  • 2022年2月4日

去年7月に掲載した「オーバードーズ」に関する記事が、静かに読まれ続けています。そして先日、読者から届いた投稿に目が離せなくなりました。
オーバードーズだけでなくリストカットもしているという女子高校生で、手首が赤く染まった痛々しい画像が添付されていました。
「死にたいとは思わない。けど自分が消えてしまいたい」
このことばの意味を理解したいと強く思い、話を聞きました。
(首都圏局/ディレクター 田中かな)

私にとってストレス発散方法の1つです

待ち合わせの場所に行くと、快活そうでおしゃれな女性が現れました。首都圏の高校に通う16歳のメイさん(仮名)です。1年半ほど前にSNSでオーバードーズを知り、自分でも市販薬の錠剤を一度に5~6錠飲むようになったといいます。

中学では運動部に所属していた活発なメイさん。絵を描くことも好きで、美術系のコースがある高校に進学しました。学校は楽しく、充実した日々を過ごしているといいます。家族は共働きの両親と、きょうだいの5人で、仲はよいと感じているそうです。礼儀正しく、終始はつらつとして話す様子に、私は違和感を抱いたままなぜオーバードーズを始めたのかたずねました。

メイさん
「SNSでオーバードーズをしている人の投稿を見たのがきっかけです。薬をたくさん飲むとスッキリできると書いてありました。でも私が飲んだのは5~6錠で、酩酊したような状態には全然なりません。ラムネをたくさん食べるみたいな感覚です」

薬を買ってくる親にバレないよう、少ない錠数に抑えながら飲んでいたと話すメイさん。それでもオーバードーズをすると、「すっきり」した感覚になったといいます。

「ODは私にとってはストレス発散方法です。嫌なことがあったり、ストレスがたまったりしたときに、友達と『一緒にカフェ行こう』っていう感じのノリで、『あぁ(薬を)飲もう』みたいな」

リストカットも…

しかし、オーバードーズだけではもの足りなく感じるようになり、最近は自分自身の手首を、カッターなどで傷つけるリストカットもするようになったと言います。

私たちに寄せてくれた投稿には、そのことが淡々と書かれていました。

「初めてリスカをしたのは中3の受験期でした。倍率がとても高く精神的に追いやられた時にリスカの存在を思い出し、興味本位でやりました。
1本切ると心が軽くなりました。そこから癖になり日に日に本数が増えてきました。
惜しくも合格とはなりませんでしたが、リスカをすることで心が和らぎました。受験が終わると同時にリスカも辞めていました」

オーバードーズとリストカットは、どちらもストレスを解消するための手段だと説明するメイさん。受験が終わると、自傷行為は止まっていました。それでも、高校に入ると再び始まってしまったと言います。

メイさん
「今はストレスの原因もよくわからないような、小さなストレスがどんどん積み重なった時にやっている感じです。自傷行為が増えるのは、忙しい時期や、やることが多くて追い込まれているときですね。文化祭とかが結構大変で、軽音部での発表の準備とか楽器の練習もして、バイトも詰め込んで、さらに絵の課題もあってすごく大変で。それがもう3週間ぐらい続くと、『あ、ヤバいヤバい』みたいな」

詳しく聞くと、学校や部活動などの多忙さから生まれる疲労感、そうした状況が続くことへのフラストレーション、親から「部屋を片付けなさい」「課題をやりなさい」と怒られることなどが、“小さなストレス”だといいます。
でも、自傷行為以外にストレスを発散する方法はないのか、質問を続けました。

「リスカやOD以外のストレスの発散方法を知らないです。音楽は好きだけど、聴いて発散するほどではないし、方法がほんとに分からない。友達と遊ぶというのも発散方法かなと思って遊びに行くけど、あんまり変わらないです。今は、逃げ場がもうそれ(自傷行為)しかないから。ほかに逃げ場ができたらやめる可能性もあるかもしれないけれども、その逃げ場が見つかっていない感じです」

専門家“苦しさを置き換える行為”

ことばの端々には“そこまで大したことではない”と思わせる明るさはありました。でも、本当にオーバードーズやリストカットはストレス発散の1つの方法に過ぎないと受け止めてしまっていいのでしょうか。メイさんが語った内容を、専門家に聞いてみることにしました。

「逆に、苦しさがすごく伝わってくる内容でした」

長年、医療機関でオーバードーズや自傷行為をした人たちのケアにあたってきた、精神保健福祉士で杏林大学教授の加藤雅江さんは、こう言って説明してくれました。

杏林大学教授 加藤雅江さん
「気持ちの中に苦しさや大変さがあるのではないでしょうか。それでも大丈夫だっていうそぶりをしないといけない。苦しさから目をそらすための行為がオーバードーズやリストカットになっているのではないかと考えます。
私たちって予測ができないことや、いつ始まってどうすれば終わるか分からない苦痛って本当に怖いですよね。それよりは自傷のほうが、どこから痛みが始まるかや、傷が癒えて痛みが治まっていくプロセスが見えていて安心できる。実際のつらさや苦しさを置き換える行為になっているのではないかと思います。そう考えると、自傷行為による傷以上の苦しさを抱えてるんだよね、と理解する必要があると感じました」

自傷行為で救急搬送される患者に対応してきた加藤さん

「消えたい」ということばの意味

加藤さんはさらに、メイさんから聞いた話の中のあることばに注目して、そこにサインがあると指摘しました。
オーバードーズやリストカットをする理由に「死」という意識があるのか、たずねた部分です。

「死にたいと思ってしているわけではないし、全然死ぬ気はないです。学校は楽しいし、人生も普通に楽しいから、別に死んだらもったいないなみたいな。
けど、一瞬消えたいなとは思います。
ストレスがたまっているときとか、ほんとに嫌なときとかは、今ちょっとでもいいから消えておきたいな、その場からいなくなりたいなと思います。夜とか本当によく消えたいなって思います」

加藤さんは、この「消えたい」ということばを決して見過ごしてはいけないと話します。

加藤さん
「相談してくる人たちも『消えたい』はよく言います。『いなくなりたい』『消えてなくなりたい』というのもあります。『消えたい』と書いてあるメール相談はもう間違いなく“これは危ない”と判断してどんなサポートができるか検討を始めます。 
苦しさにはその人それぞれの表現の仕方があります。『消えたいってどういう意味?』とか、『消えてなくなることと死ぬことは一緒?』といった形でその言葉を取り上げて、確認していく必要があると思います」

“親しいから言えない”と“病み垢(やみアカ)”

加藤さんの話を聞くと、メイさんはやはり、きちんと相談やカウンセリングを受ける必要があるのではないかと感じます。
しかし、取材中のメイさんは、自分の中に湧き上がる「消えたい」という感情や、日頃のストレスを自傷行為によって解消していることを、身近な人には話しづらいと感じています。友達に打ち明けようとしたときにも、驚かれるばかりだったといいます。

メイさん
「みんなでそういう(自傷行為の)話になった時に『私も』って言うと、『えー、見えない』って。学校の先生にも多分心配されるなと思って、言おうか言わないかずっと悩みました。私の友達ですごく病んでいる子がいて、その子は本当に重症だから、カウンセリングってそういう子が行くところで、私みたいな性格の人が行くようなとこじゃないなと思って」

一方で、自傷行為をしていることを、メイさんはSNSで発信しています。リアルな友人ではなく、SNS上のつながりがある人のみがフォローする “病みアカウント=病み垢”で、自らのオーバードーズやリストカットの写真などを投稿しています。

「“いいね”が来たり、フォローされたり。病み垢は公開アカウントで鍵アカじゃないから、ツイートして、みんなに言って共感者求めてるって感じ。「よかった、私だけじゃない」みたいな。“いいね”をくれる人もみんな病み垢みたいです。アカウントの自己紹介に“OD、リスカ、レグカ、アムカしてます”みたいなのが書いてあるんです」

“死なないための自傷”

リアルな人間関係の中では明かせない自傷行為をSNSでは語り合える。
杏林大学教授の加藤さんは、その心境を十分理解できるとした上で、早い段階でのサポートや医療を受けるべきだと言います。

加藤さん
「オーバードーズやリストカットなどは、注目を集めたくてやっていると言われることがよくありますが、私は違うと思います。『死にたくない。死なないために自傷をしている』という人もいます。こうしないと生きていけないという人が確実にいるんです。
例えば頭が痛くなると頭痛薬を飲みます。その経験が重なると、頭が痛くなりそうなときにあらかじめ飲むようになりますよね。自傷行為でもそういうことが起きてきます。ストレス耐性が下がってきて、明確な苦痛があって自傷するという段階から、ちょっとしたできごとでも先回りして自傷してしまう。薬に依存するというよりもその効果に依存するという形です。最初のうちは自分でストレスをコントロールするためにしていた行為にいつの間にかコントロールされてしまうことが起きかねないと思います。やはり早い段階から、医療や支援につながってサポートを受けることが欠かせません」

取材後記

メイさんはいま、少しずつカウンセリングに通いはじめています。
「自分が行ってもいいのか」という問いをSNS相談に投げかけたところ、「カウンセリングを必要だと思っているなら行ってもいいと思います」というアドバイスが来たことで、ようやく踏み出せたといいます。
リアルでは元気いっぱいの自分でいようと頑張り、「周りに迷惑をかけないように」とつらい思いを抱え込むうちに、やり場のない感情がみずからへと向かってしまうのでしょうか。
明るい口調からはうかがい知れない苦しみを、自傷とは違うやり方で取り除くことができればと思わずにいられません。
どうすれば、1人で思い詰めることなくSOSを発することのできる社会になるのか、これからも取材を通し、考え続けたいと思います。

加藤さんが所属する団体の相談窓口
日本精神保健福祉士協会 「子どもと家族の相談窓口」(メールは24時間受付)https://www.jamhsw.or.jp/consultation_counter/

厚生労働省が示している、心の悩みに関する相談窓口です。

●電話の相談窓口
「日本いのちの電話」

▽ナビダイヤル 0570-783-556
午前10時~午後10時
▽フリーダイヤル 0120-783-556
午後4時~午後9時
※毎月10日は午前8時~翌日午前8時

「#いのちSOS」
▽フリーダイヤル 0120-061-338
午前8時~深夜0時
※月曜日と木曜日のみ24時間対応

「チャイルドライン」
▽フリーダイヤル 0120-99-7777
午後4時~午後9時

●SNS相談
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  • 田中かな

    首都圏局 ディレクター

    田中かな

    2018年入局。秋田局を経て2021年から首都圏局。 秋田局在籍中から自殺や障害者に関するテーマについて取材。

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