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千葉でキョンが大量出没!都市部に迫る野生動物の意外な潜伏場所

  • 2022年2月2日

“人より完全にキョンの数の方が多い”
“鳴き声を聞いたときはびっくりしました。『ギャー!』ってすごい音で最悪”

シカ科の野生動物、キョンの出没に頭を抱えている市民の声です。その可愛らしい見た目とは裏腹に、キョンの鳴き声や食害に悩まされている住民は少なくありません。
被害の実態を知りたいと取材を進めてみると、キョンだけではなく、都市部で野生動物の出没が増加し、私たちの生活に影響を及ぼし始めている現実が見えてきました。
(首都圏局/ディレクター 末永貴哉 千葉局/記者 坂本譲)

都市部や住宅街で野生動物を見かけたことはありませんか?
動画や画像をこちらの投稿フォームからぜひお寄せください。

千葉県でキョンが大量出没

キョンはシカに似た中国や台湾などが原産の動物で、生態系などに害を及ぼすおそれがあるとして、国が「特定外来生物」に指定しています。千葉県では、20年以上前に勝浦市の動物園から脱走したものが野生化したと言われています。そのキョンが大量に出没していると聞き、取材に向かいました。

「キョンがよく出没するスポットがある」
そう言って私たちを案内してくれたのは、千葉県勝浦市の猟友会で会長を務めている鈴木しずおさん(73)。40年にわたって鳥獣対策に取り組んできたベテラン猟師です。
向かったのは勝浦市内の閑静な住宅街。こんな人の多いところに本当にキョンがいるのか?と思っていると…。

勝浦市猟友会 会長 鈴木しずおさん(左)

鈴木さん

お!いたいた!

記者

あれ!あれ!キョンです!こっち見てますね!

 

わずか1時間で5頭のキョンを目撃しました。
住民によると3年ほど前から、よく見かけるようになったといいます。

住民

朝早く散歩すると、人より完全にキョンの数の方が多いです。見た目はすごくかわいいんです。うちのイヌぐらいに。ところがキョンの鳴き声を聞いたときはびっくりしました。『ギャー!』って…何事かと。あんな声を出すとは思わなかった。安眠も妨げられています。

そのキョンの鳴き声がこちら…。

近くの畑では、大根やかぼちゃなどが食い荒らされる被害も出ていました。

住民

獣のために餌を作ってるようなものだから、みなさん作るの嫌になっちゃって。かぼちゃを作るのはことしもやめました。


猟友会の鈴木さんは、人の多い都市部に出没するようになったことで、駆除も難しくなっているといいます。

鈴木さん

住宅街では銃は使えない。あと、景観の問題でやたらにわなもかけられない。だからやりようがないよね…

都市部に迫るキョン そのワケは?

千葉県の2020年度の推計では、県内に生息するキョンの数は約5万300頭。2013年度の2万5000頭に比べて約2倍に増加しています。
生息域も、2004年度には勝浦市など南部の5市町に生息するだけとみられていましたが、2020年度は17市町にまで拡大。さらに、東京近郊の柏市でも目撃されるなど、徐々に都心部に迫ってきています。

キョンはなぜ増えたのか?
野生動物の生態に詳しい麻布大学講師の加瀬ちひろさんに話を聞いてみると、民家の庭に侵入し、交尾するキョンの画像を見せてくれました。

キョンは警戒心が薄く、人里近くでも繁殖すると言います。

麻布大学獣医学部 講師 加瀬ちひろさん
「イノシシは警戒心が強いので、研究のため人に慣らそうとしても何週間もかかります。しかしキョンは早ければ1週間で人に慣らすことができます。この画像のように、人に近い環境でも十分生活して繁殖に関わるような行動もできますから、これではどんな場所でも拡大できてしまう」

増加する「ソーラーパネル」が獣害に拍車

キョンが都市部に迫る理由は、それだけでないといいます。
加瀬さんが挙げるのは、野生動物のテリトリーと都市部を隔てていた山林の環境の変化です。千葉県では、人口減少や高齢化などで人の管理が行き届かなくなった竹林がすみかになっているといいます。

さらにもう1か所、加瀬さんが連れて行ってくれたのが、山を切り開いて設置された太陽光発電のパネル。近年、全国で設置が進んでいます。パネルの下の空間は、風雨をしのげるだけでなく、餌となる下草も生えているため、格好の「潜み場」になっているのです。

都会で増える「空き家」も格好のすみかに

野生動物の都市部での出没増加はキョンだけではありません。
加瀬さんが案内してくれたのは東京・世田谷区の住宅街。ここ数年、東京23区など都心部で、ハクビシンやアライグマなどの目撃が増えているといいます。
その絶好の生息場所になっているのが、都会で増えている、空き家をはじめとした民家です。

人の目が及ばない空き家や家屋の屋根裏・床下などが、野生動物にとって「安全なねぐら」になり、そうした場所に堆積した糞尿や野生動物の体についているノミやダニなどが感染症につながる懸念もあると、加瀬さんは指摘します。

麻布大学獣医学部 講師 加瀬ちひろさん
「家の床下は隙間が広いので、そこに入って休息していたりすることもある。ハクビシンはねぐらとして使用する場所に糞や尿をしますので、それが堆積すれば、衛生的な被害もありますし、
ハクビシン自体にもノミやダニがついていることがあるので、人間にも感染症のリスクが出てきます。6センチの隙間があれば、ハクビシンは侵入できてしまうので、隙間を探して、金網などでふさいでいく対策が必要です」

野生動物による被害は鉄道にも

野生動物が都市部に出没するようになったことで、首都圏に張り巡らされた公共交通にも影響が出始めています。

東京・新宿と神奈川県小田原市を結ぶ小田急電鉄では、シカが線路に入り込み、電車に接触する事故が2010年度の2件から2019年度は12件と5倍以上に。シカは鉄分を補給するため、線路をなめにやってくるというのです。

事故のため、ダイヤが乱れる時間も増えているといいます。関東1都4県を走る東武鉄道では、野生動物との接触事故の件数は、電車の運行に遅れが生じたものだけで2018年から2020年の3年間で189件にのぼります。東京・池袋と埼玉県秩父市を結ぶ西武鉄道でも、年間およそ90件もの接触事故が起きているといいます。

小田急電鉄 有田一貴さん
「特に通勤ラッシュの時間帯、朝方の時間帯に電車が止まると、日中よりも多くのお客さまに影響が出てしまいます。列車が獣とぶつかると、破損した車体の修繕をしなければなりませんし、ひいたシカやイノシシを社員が回収に行って、きちんと埋める必要もあります。そういう人件費も含めるとすごい金額が、実は被害額としては出ています」

鉄道会社みずから獣害対策に

小田急電鉄は、去年11月から獣害対策に乗り出しました。その名も「ハンターバンク」。
小田急電鉄と小田原市が仲介役となり、猟をする場所がない都市部のハンターと獣害に悩む農家などをマッチング。野生動物を効率的に捕獲・駆除することで、ハンターや農家の悩みを解決するだけではなく、鉄道被害を防ぐことなども目指します。

実証実験の参加者がわなを仕掛ける様子

昨年1月から6月にかけて行われた実証実験では、35名のハンターが農林業者と9件マッチング。イノシシの成獣12頭、幼獣4頭などを捕獲する成果を上げています。

都市部も獣害と無関係ではいられない

都市部で増える野生動物たち。麻布大学獣医学部講師の加瀬さんは「野生(自然)」と「都市」の境目があいまいになる中、「野生生物」との向き合い方を都市で生活する人も考えざるを得ない時代になっているといいます。

麻布大学 獣医学部 講師 加瀬ちひろさん
「農業に従事する人や、森に入って活動をしている人だけではなく、都市に住む人の一人一人にとって、野生動物はすでに非常に身近な存在になっています。野生動物にどういうふうに対応していくのか、意識していかなければいけないということを考えてほしいと思います。野生動物は私たちが考える以上にしたたかです。実は私たちは意図せずに彼らに餌になるものを与えていたり、潜み場所を与えてしまっていることがあります。彼らのことをきちんと知って、対応していくことが大切だと思います」

取材後記

“野生動物はいわば未知の生物。ペットじゃないからコントロールできないので、距離感を保たないとトラブルが起きてくる”
そう警鐘を鳴らす麻布大学講師・加瀬ちひろさんの言葉は胸に響くものがありました。

キョンのような外国から持ち込まれた特定外来生物だけではなく、シカやイノシシなど日本固有の動物たちも都市部に迫っています。
一見すると、可愛らしくて、人懐こくある動物もいますが、私たちと野生動物とのかかわりが深くなるほど、新しい感染症が出てくるなどリスクも高まるため、距離感が大切だと加瀬さんは教えてくれました。人間と野生動物とが暮らす境界線が変化しているいま、動物たちとどう付き合うべきか。今後も、私たちと野生動物の付き合い方について取材を深めていきたいと思います。

  • 末永貴哉

    首都圏局 ディレクター

    末永貴哉

    首都圏局所属。 近年は歴史番組やイベント連動型の番組などを企画制作。 地域の課題や魅力の発信に興味があります。

  • 坂本 譲

    千葉局 記者

    坂本 譲

    2020年入局。千葉局所属。 警察・司法を経て現在、千葉県政を担当。 皆さんの暮らしにまつわる情報を届けます。

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