WEBリポート
  1. NHK
  2. 首都圏ナビ
  3. WEBリポート
  4. コロナ禍 居場所ない女性たちのSOS「死にたい」背景に家族の虐待

コロナ禍 居場所ない女性たちのSOS「死にたい」背景に家族の虐待

女性支援NPOの現場1
  • 2022年1月7日

「#家出少女って書き込むと、男の人たちがDMを送ってくるんです。“泊めてあげるよ”って」
そう話す10代の女性は、SNSで“支援”を申し出た男性の家に行き、性被害に遭いました。
長期化するコロナ禍、女性たちの生きづらさが深刻になっています。中でも、親や家族から虐待を受け、家に居場所がないと感じている女性たちが危機に陥っているといいます。女性たちを支援するNPO法人「BONDプロジェクト」のSNS相談に密着し、さまよう若い女性たちの実態を追いました。
(首都圏局/ディレクター 田中かな・高瀬杏)

“死にたい”NPOに集まる女性たちの悲鳴

連日新型コロナの感染者数が50人を下回っていた去年12月。夜の渋谷は賑わっていました。人並みの中から若い女性を見つけると、駆け寄って声をかける人たちがいます。

「待ち合わせですか?」
「カイロ、よかったら使ってください」
「困ったことあったら、無料で相談やってるので」

都内にあるNPO「BONDプロジェクト」のメンバーです。

NPOは「10代、20代の生きづらさを抱える女の子のための女性による支援」をかかげ、夜の街をパトロールする活動や、SNSで相談に乗ることで、生きづらさに悩む少女たちを支えています。

コロナ禍になって、SNSで寄せられる女性たちからの相談が急増しています。目立つのは「死にたい」ということばです。

この日も、「いまリストカットをした」というメッセージが届いていました。
女性は1人暮らし。仕事のことで悩みがあるといい、たびたびNPOに「死にたい」と相談を寄せてきていました。

女性

どうやって生きていけばいいのか分からない

 

もう…がんばれないよ… 多分、動脈切っちゃった…

メッセージを読んだスタッフは緊急性が高いと判断。救急車を呼ぶよう返信します。

スタッフ

動脈っぽいんだね。止血、今すぐしてほしい。救急車も呼べるかな?

 

気持ちも追い込まれてて、抑えきれなくなっちゃって切ったんだろうと思うけど、心配だよ。スマホ操作するの大変だったら、いったんやりとりを止めてもいいから、止血してね、お願いだよ。

NPOスタッフ
「日に日に死にたい気持ちが増してしまって、自分だと手加減ができなくなってきています。きっと、死にたい気持ちは大きいんだろうけど、どこかに助けてほしいというか、生きていたいという気持ちもあるのかな。だから連絡をくれるのだと思います」

NPOに寄せられる相談の数は、コロナ前の同じ時期と比べて1.3倍、のべ3万5千件以上に上ります

政府の最新の報告によると、2020年の女性の自殺者数は7026人と、前の年より15%以上増えています。働く女性や学生など、特に若い世代の女性たちが追い詰められているといいます。
代表の橘ジュンさんは、すでに生きづらさを抱えていた女性たちにコロナ禍が追い打ちをかけたことで、「死にたい」という気持ちを募らせる人が増えているのではないかと指摘します。

橘さん
「生きづらさの中に孤独感があると思います。このコロナ禍だと、誰かといることはさらに難しく、本当に独りぼっちだと感じている子がいます。大変な時に、より大変な状況になる子というのは、何かあったときに身近な人に頼れず、さらに深刻な状況に追い込まれているのではないでしょうか。『死にたい』『消えたい』というのが、彼女たちが今やっと出せることばであり、一番伝えたいことばなんだろうなと思います」

コロナ禍が生んだ危機 居場所を失う女性たち

これまでNPOでは、夜の街のパトロールで女性たちとの接点を作る活動を中心にしてきました。しかし、感染拡大による緊急事態宣言などにより、街頭で女性たちと出会うことは難しくなっていました。
そこで去年4月から、スタッフを増やして対面の相談スペースを開設し、相談を受ける体制を強化しました。

そうして見えてきたのは、コロナ禍で人と会うことができない状況が女性たちに与えたダメージの大きさでした。親からの虐待などによって、家庭で安心して過ごせない女性たちが、さらに行き場を失っていたのです。

去年11月、相談に訪れた20代のAさんです。両親と妹の4人で暮らしていますが、家族との関係が悪く、家に居続けることが難しいといいます。

相談に訪れた20代 Aさん(左)

普段から父親の暴言や、物にあたるなどの行動に悩まされ、家の中で顔を合わせないよう生活してきました。
また、引きこもり状態の20代の妹も、自分の思い通りにならない時に、わざと食器やドアで大きな音を立てることがありました。
数日前、リモートで仕事をしていた時に「音が気になる」と妹に伝えたところ口論になり、ナイフを向けられたといいます。

Aさん
「もみ合いになって、ソファーに突き飛ばされたんです。妹が目の前に立った時に、手にナイフが握られてるのが見えて。『次騒いだら殺すぞ』と言われました」

これ以上家にいることはできないと、家を出たAさん。数日間は知人の家に泊まらせてもらいましたが、1人暮らしをするための貯金もなく、今後どうすればいいのか分からないとNPOに助けを求めてきました。先の見えない状況に精神的にも追い詰められているといいます。

Aさん
「色々考えて、すごい怖い。何に対して怖いのか分からないですけど。何にも決まっていないことが怖いのか、ナイフを向けられた時のことを思い出して怖いのか。全部かもしれないんですけど。家に帰ることはできないと考えると、どうしてもお金は必要になりますし」

居場所求めた末に 再び負う傷

親や家族からの虐待によって「家」が居場所になり得ない女性たち。家から逃れ、新たな居場所を求めた結果、さらに被害に遭うケースも起きています。

母親からの暴言や暴力などの虐待を受けていた、10代のBさんです。これまでもたびたび家出を繰り返しては親に連れ戻され、再び暴力を受けることが繰り返されてきたといいます。

 

スタッフ

家にいると死にたくなるって言っていたよね

Bさん

今はとりあえずその気持ちを制御してる感じです

スタッフ

親にどういうこと言われるの?

Bさん

「お前なんか生まれてこなきゃよかった」って

 

2年ほど前からは苦しさが募り、自殺未遂や自傷行為を繰り返すようになりました。
さらに追い打ちをかけるように、母親が勤めていた飲食店がコロナの影響で休業。Bさんへの虐待は以前にも増してひどくなったといいます。

Bさん
「お腹を蹴られたり、首をつかまれたり、足を蹴られたり。顔はやられなかったけど体に青アザができるくらい。『殺してやるからな』みたいな感じで包丁を持ってきて、それがショックで」

家に居続けることが耐えられず、家出をしようと思ったときに頼ったのがSNSでした。その日泊まれる場所をSNSで探してみると、すぐに複数の人物から連絡がありました。
 

 

Bさん
「まず『#家出少女』って調べて。『家出少女』も最近はアカウント凍結されるから、ひらがなにしたり、省略したり。そうすると男の人たちが調べてDMを送ってきます。『部屋が一つ余っているので泊まりに来ませんか?』とか『今どこ?迎えに行くよ』とかそういうのが来たりしました」

Bさんは、“交通費も宿泊費も要らないから泊めてあげる”と連絡をしてきた東京に住む40代の男性を頼って家を出ました。その男性の家で数日間過ごしましたが、そこで性被害に遭いました。

Bさん
「俺、性欲あるからやるけどいい?みたいな感じで言われて...男だからそういうの(性行為)やるよって。でも、直接会ったら『そういうことしないから冗談だよ』って言われたのにされたから、結局やるんだなと思って。とにかく怖かった」

NPOに連絡し、男性の家を出ることができたBさん。今は親と離れてシェルターで暮らしています。生活保護と、週2回程度のアルバイトで生活費をやりくりし、いずれ高校も卒業したいと考えています。
それでも「死にたい」という気持ちは消えることがないのだといいます。

Bさん
「夜、1人になった時や寝る時には、動画とか再生しながらじゃないと寝れなくて。小さい物音でも気になっちゃって。実家では、夜中に親が喧嘩している音がするんですよ。それを思い出しちゃうから。信頼できる友達もいるのに、なんで死にたくなっちゃうんだろう。自分のことを愛せていないから、満たされないし、死にたくなるのかな。ずっと考えてる」

家庭が安全ではない少女たち どう支えるのか

生まれ育った家庭が安全な場所ではない、という困難を抱える若い女性たちの苦しみをより色濃くしてしまったコロナ禍。

NPOは、今後もSNSの相談体制を充実させたり、一時的に滞在できるシェルターを増やしたりしていきたいとしています。家庭の問題を根本的に解決していくことは難しくても、居場所のない女性たちの声をより早くつかむことで、より深刻な傷を負うことは防げるかもしれない。女性たちの「死にたい」の背景にある苦しみを少しでも取り除けるよう寄り添っていきたいと橘さんは考えています。

橘さん
「こんな寒い時、家にいられないような子たちがどこで過ごすのだろうかと気がかりです。暖かい場所が欲しくて、嫌だけど怖いけど誰かについていったり、SNSで知らない人とつながったりしなければいいなと思うので、彼女たちがSOSをどこに出しているのか、どんなふうに出しているのか、彼女たちの話を聞き、教わる必要があります。
そして、本当に緊急度が高くて、私たちのシェルターが必要な子には、もし部屋が空いていないとしても、リビングでもどこでもいいから居てもらおうと思っています。
死にたい気持ちがある中でも立ち止まってくれて、一緒に考えようよという呼びかけに応じてもらうのが相談だと思います。そんな時間をそういう方たちに持ってもらえたらと思っています」

  • 田中かな

    首都圏局 ディレクター

    田中かな

    2018年入局。秋田局を経て2021年から首都圏局。 秋田局在籍中から自殺や障害者に関するテーマについて取材。

  • 高瀬 杏

    首都圏局 ディレクター

    高瀬 杏

    2017年入局。大阪局を経て2021年から首都圏局。 ジェンダーや多様性の問題に関心を持ち取材。

ページトップに戻る