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ヤングケアラーの本音は?

元当事者・支援者・専門家のみんなで話してみました(前編)
  • 2021年12月21日

ことし4月から立ち上げた、このヤングケアラーの特設サイト。取材を通して、多くの当事者、元当事者、支援者、専門家などのみなさんに出会うことができています。
11月末、これまで出会った中の何人かに集まっていただき、シンポジウムを開きました。参加した人の声の中には、新たな気付きがたくさんありました。このシンポジウムの内容の一部について、2回に分けてお伝えしたいと思います。
前編は、ヤングケアラーへの支援のきっかけを作るには?子どもたちは何を感じているのか?についてです。

<​​​​​​シンポジウムの出席者>
森田久美子さん(立正大学社会福祉学部教授)
宮崎成悟さん(元当事者)
持田恭子さん(元当事者・現在はヤングケアラーの中高生を支援)
勝呂ちひろさん(精神保健福祉士)
中野綾香さん(スクールソーシャルワーカー)
藤岡麻里さん(埼玉県地域包括ケア課)
司会:NHKアナウンサー 中野

※シンポジウムは、埼玉県、埼玉県教育委員会、NHKさいたま放送局、NHK厚生文化事業団の共催で、11月26日に開催しました。

解決求めず、話を聞くことが大事

中野アナ

ヤングケアラーの子どもたちは、自らSOSを出すことが少ないと言われていますが、どういった気持ちで出せないのでしょうか。

支援者
持田さん

私は中学生から高校生までのヤングケアラーと対話を続けていますが、子どもたちは周りに話しても分かってもらえないと思っています。なぜなら、小さい頃から分かってもらえない経験が積み重なっているからです。一度そのような経験をすると、家のことや自分の置かれている状況を打ち明けることは、とてもハードルが高く、勇気が必要です。ですので、簡単に「相談してね」と言われても、本人にとってはものすごく緊張することで、子どもにとってはとても重たい言葉なんです。また、子どもたちは「何か解決してほしい」とは思っていないということも特徴の1つです。

中野アナ

「解決してほしい」と思っていないというのは、どういうことでしょうか。

支援者
持田さん

大人は何か問題があると「じゃあ解決しましょう」と動きますが、“子ども抜き”で決めてしまうことが多いですよね。大切なのは、子どもたちの現状を聞くことです。子どもたちは、いま自分がどのような状況なのか、自分と同じ世代の人たちがどうしているのか知った上で、自分自身で選択をしたいんですね。ですので、多くの子どもたちは、親や祖父母、きょうだいなどの介護や心のケアをやめたいわけではなくて、今の生活を基盤としながら「どう楽しく生きていけばいいか」を知りたいのです。ですから、大人がすぐに解決を求めないようにする、しっかり子どもの現状を聞くことが大切だと思います。

立正大教授
森田さん

また、子どもの話を聞いたときに「大変だね」という部分だけではなくて、具体的にどのようなケアをしているのか、どれぐらい時間を費やしているのかを聞いてみてください。そうすると、“気持ち”の部分が見えてきます。例えば「友だちと遊びに行けてる?」と聞いた時に、「介護があって遊びを断らなきゃいけなかった」といった答えだった場合に、「家族のためだからって思うけど、でもちょっと寂しかったよね」と寄り添う言葉を加えてみるのです。

子どもは感情と言葉が結びつかない

中野アナ

子どもたちの置かれている現状を、具体的に受け止めていくことが大切ということでしょうか。

立正大教授
森田さん

家族のためだからって思うけど、「でもちょっと寂しかったよね」と声をかけてもらえると、「ああこれは寂しいっていう感情なんだ」ということが、ようやくそこで分かります。自分ではまだ寂しいという言葉と感情がつながっていないケースがあるんです。どう声をかけていくかというのは、子どもたちへの大人の向き合い方が問われているんだと感じます。

支援者
持田さん

高校生くらいの年齢ですと、状況説明をする中で、自分の気持ちを推し量っている年代です。なんかいやだ、怒っている、悲しい、辛い、苦しいという言葉は、大人になって語彙力が増えてきて備わってきます。まだ中学生、高校生くらいだと、現状説明の中から探っている、だからもう少し大人はしっかり話を聞いて待ってあげてほしいと思います。

中野アナ

ただ、何かしたいと思っている大人からすると「話を聞くだけで良いの?」と思ってしまう人もいると思うのですが、どうなのでしょうか。

支援者
持田さん

話をしっかり聞くことで、ヤングケアラーの子どもたちは「この人は話を聞いてくれるんだ」と安心したり、信頼したりするんですね。そこで初めて「ちょっといいですか」と、いわゆる私たちが知っている“相談”になるんです。いきなり「相談してね」というのは、ちょっとハードルを飛び越えすぎています。

中野アナ

元当事者として宮崎さんはどう感じますか。

元当事者
宮崎さん

僕も当時は、何かを相談するというようなことはあまり思いつかなかったです。ただ、現時点で相談できなくても、いずれ進路選択の際に介護やケアと、自分の進路をどう考えるか、悩みは出てきます。その時に、しっかり相談できる先が必要です。また、学校にはカウンセリングルームなどがありますが、そこに行く自分を友だちに見られたらどうしようと考えて、当時の自分なら行かないです。ヤングケアラーだけが特別視されるような形ではなく、自然に相談できる環境が整えばよいと思います。

当事者と専門家それぞれに頼れる場を

中野アナ

周りの友だちから特別視されるような環境は確かに利用しづらいですよね。では、当事者だけで集まるような場所はどうでしょう。埼玉県も取り組みを始めたということですよね。

埼玉県職員
藤岡さん

10月31日から、主にヤングケアラーの高校生を対象に、オンラインサロンを開き、悩みや愚痴を当事者どうしで共有できる場所を作りました。テーマを決めて話すのですが、子どもたちどうしなのでかなり脱線もしています。楽しく話しやすい空間を作るべく、これからも月に1度続けていきたいと思っています。

支援者
持田さん

1人だと「なんかもういいや」「もう諦める」という気持ちになるのを、当事者どうしで話すことで、「もういいって思うよね」「分かる分かる」「でも、何でそう思うんだっけ」と深掘りして話すことができます。そういう体験も子どもたちに必要なんだと、見ていて感じます。

中野アナ

宮崎さんはこの居場所作りの大切さどう感じますか。

元当事者
宮崎さん

高校生の時などに、こういった当事者どうしの場が必要だと感じていたので、本当に必要だと思います。一方で、状況に応じて支援できる人も必要だと思っています。
例えば僕の場合で言うと、高校生の時は学校に行きながら、ちゃんとケアができていましたが、一方で高校卒業後に母が寝たきりになり、自分自身も誰にも会いたくなくなり、外に出ると吐き気がするというような本当に介護漬けになった時がありました。そういう時に、当事者どうしの場があって参加できるかというと、もう余裕がなかったと思います。ですので、当事者どうしで相談できる場と、専門性を持った人に相談する場と、幅広い支援が必要だと思っています。

立正大教授
森田さん

子どもたち仲間どうしの情報は「こんなことをしてみたらよかったよ」「これは嫌だったよ」と体験に基づいた情報があって、同年代だからこそ分かることもあるし、自分たちに引きつけて考えやすいのかなと思っています。
一方で、専門家は様々な支援のノウハウやネットワークを持っているので、何かあったときにはすぐ動ける強みがあります。必要な時に必要に応じて、利用ができるということが大切ではないかと思います。

後編では、学校現場の現状や、求められる支援の形についてお伝えします。

このシンポジウムの様子はNHKのEテレで12月22日の午後8時から放送予定です。
ハートネットTV「ヤングケアラーフォーラム SOSを見逃さないため」

 

NHKではこれからも、ヤングケアラーについて皆さまから寄せられた疑問について、一緒に考え、できる限り答えていきたいと思っています。
ヤングケアラーについて少しでも疑問に感じていることや、ご意見がありましたら、自由記述欄に投稿をお願いします。

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