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東京駅前のフォトウエディングが大人気 コロナで変わる結婚式の姿

  • 2021年12月15日

週末の午後、東京駅の前にウエディングドレスとタキシードに身を包んだカップルたちがぞくぞくと集まってきます。結婚式を挙げず、写真だけを撮影する「フォトウエディング」。その撮影場所としてレンガ造りのレトロな駅舎が大人気なのです。
新型コロナの感染拡大で、結婚式の延期や中止を決断した人が少なくない中、改めて「結婚式の形」を見直す人が増えているそうです。
いつもその時の世相を反映してきた結婚式。コロナ禍の今の事情を調べてみました。
(首都圏局/ディレクター 高瀬杏)

2時間で19組! 東京駅に列をなす新郎新婦たち

「おふたり、今度は見つめあってみましょうか。はい、いいですね!」

11月下旬、土曜日の午後の東京駅。丸の内口から皇居に向かって歩くと、ドレスとタキシード姿でポーズをとり、写真を撮影するカップルが目に飛び込んできました。銀杏並木をバックに、カメラマンの指示に合わせて次々とポーズ。

きれいだな、でも寒そう…なんて思っていると、コートを羽織りドレスをたくし上げて交差点を歩いてくる別のカップルとすれ違います。15時現在、ぱっと見ただけでも4組が撮影していました。

2時間近くたち、日も落ちてくると、カップルの数はさらに増えます。ライトアップされた駅舎の前で撮影するためです。
こだわって選んだであろう衣装をまとった新郎新婦と、周りを囲む2、3人の撮影スタッフ。その集団が何組も、およそ4メートルおきに等間隔で一列に並びます。その様子に道行く人も足を止め、驚いた表情を見せていました。

フォトウエディング人気 背景にコロナ禍

話を聞いてみようと撮影しているスタッフや、順番を待つ新郎新婦に声をかけましたが、忙しいようでなかなか話はしてもらえません。

夜7時前、カップルの姿もまばらになったころ、やっと撮影を終えたカメラマンに話を聞くことができました。

フリーランスのカメラマン、齋藤隆明さんは、ウエディングドレスのレンタル業者から委託を受けて撮影をしています。新型コロナの感染状況が落ち着いていることに加え、イルミネーションが始まることもあって、需要は一気に増加。11月は25日間も撮影の予定が入りました。

齋藤隆明さん
「今日は丸の内3スポット、2時間のコース。費用は8万円前後です。コロナ以降は、結婚式を挙げられないせいか、親や友人も撮影に同行して、撮影の機会そのものを“プチ結婚式”にしようという感覚のカップルも増えてきていると感じます。日が落ちる頃の東京駅は特に人気です。撮った写真に別のカップルが映り込んでしまって、編集で消すこともよくあります」

コロナに翻弄された結婚式 新婚夫婦の半数超 “挙げていない”

明治安田生命保険が11月に公表した調査結果によると、2019年10月以降に結婚した新婚夫婦のうち、58.8%が結婚式を挙げていないことが分かりました。新婚ではない夫婦(20.4%)の3倍近くに上っていて、コロナ禍の影響を大きく受けたことがうかがえます。

あらためて東京駅に行ってみると、和気あいあいとした雰囲気で撮影をしているカップルを発見。話を聞かせてもらいました。

淡いピンクのカラードレスを着た岩宗福美さんと、黒いタキシード姿の勇希さんは、2人とも九州出身の27歳。勇希さんの転勤をきっかけに2年前から東京で暮らしています。

ウエディングフォトは、東京らしい場所で撮影したいと話し合って決めました。1か月前から髪を切ったり、エステに行ったりと準備してきました。
休日では希望するドレスの予約が取れなかったので、平日に2人とも有休をとって撮影に臨みました。一時小雨が降ったりもしましたが、予定していたスポットはすべて回れたと満足そうでした。

福美さん

もっと雨が降る予報だったので、安心しました。他にもたくさんの方が撮影していてびっくりしましたが、ほかの方のポーズを参考にしたりして楽しく撮影できました。

婚姻届を提出したのは6月ですが、コロナの影響で結婚式は挙げていません。いつ式を挙げるのか、予定は立てられていないといいます。

勇希さん

お互いの両親が九州なので、なかなか県をまたぐのは難しいです。結婚式は先送りにしつつ写真だけは撮って、両親に喜んでもらいたいです。

撮影した写真はデータで受け取りました。SNSに投稿して友人たちへの結婚報告に使うほか、年末の帰省のときに、それぞれの実家にプリントした写真を持って行くつもりだといいます。

ウエディングフォトを撮影して結婚の記念が作れたことで、結婚式についての考えも変わったといいます。

勇希さん

式についても別に焦ってはいません。せっかく挙げるなら、コロナが落ち着いてから友人や家族を呼んで会って報告したいし、30歳までにできればいいかなと思っています。

スマホ自撮りプランまで登場

高まるフォトウエディング人気。結婚式を挙げるよりも費用の負担は大幅に軽くなりますが、相場は10万円程度。ドレスのレンタル費やカメラマンの人件費、設備費、さらにはドレスが汚れてしまった場合に備えて保険に入ることで、どうしても値段が高くなってしまいます。

そこで格安のプランを作ったというのが、都内でドレスのレンタルやウエディングフォトのサービスを提供する企業を経営する綱島舞さんです。特に30代以下の若い世代で、式を挙げずに写真だけ撮る人が増えていることから、スマートフォンで新郎新婦みずから撮影する『スマフォト』というプランを作りました。

撮影場所は室内のスタジオで、ヘアメイク付き。60分以内であれば衣装も着替え放題で、価格は2万円台です(土日・祝日は追加料金あり)。
カメラマンを雇わず、スタジオ撮影のみとしたことで衣装の汚れを心配しなくてよくなったため、低価格が実現できたといいます。いま、週に4組ほどが利用しており、コロナが収束してもこのプランを継続させていく見込みです。

綱島舞さん
「利用者の多くは30歳以下の若者で、写真に対する関心は高く「映え」を楽しむ人が多いです。現像した写真のアルバムより、SNSにアップするためデータでほしいというニーズのほうが高いです。
いまの若い方は堅実な方が多いので、結婚式や写真よりも2人の生活にそのお金を回して『スマフォト』だけ利用して倹約するという方はいます。
また、スタジオ限定なので周囲の人の目を気にする必要もなく、同性カップルなどにも利用していただいています」

「当たり前」は終わった コロナ禍に問い直す結婚式の意味

写真を撮ることで「“式”を済ませた」と見なす若い世代の増加。
ことし、リクルートが行った調査では、「結婚式は行うのが当たり前だ」という質問について、調査結果を公表している2015年以来、「そう思わない」と答えた人が「そう思う」と答えた人を初めて上回りました。コロナ禍によって結婚式が「当たり前にできるものではない」という認識が強まっている傾向がみられます。

「結婚式は行うのが当たり前だ」(そう思わない)
2015年 21.9%
2016年 22.9%
2017年 23.7%
2018年 26.9%
2019年 28.2%
2020年 27.1%
2021年 36.1%

それでも式を挙げるなら 『自分らしさ』追求したい

結婚式を挙げる人が大きく減ったコロナ禍にあっても、「式を挙げたい」という人たちはどんなことを求めているのでしょうか。

コロナ前と比べても、まったく需要が落ちていないという結婚式のプロデュース会社を訪ねました。
プランナーを務める柴田奈々子さんは、“完全オーダーメード”の結婚式を手がけています。かつては結婚式場専属のプランナーとして働いていましたが、従来の式のあり方に疑問を感じていたといいます。

ウエディングプランナー 柴田奈々子さん
「従来の結婚式は、タイムスケジュールがきっちり決まっているため時間通りに進行することが優先され、新郎新婦がゲストとゆっくり会話をする時間が持てなかったり、新郎新婦は料理を食べることさえできなかったりしました。そうした式を数多く取り扱う中で、本当に式を挙げるおふたりの思いを実現できているのかなと葛藤が生まれました」

柴田さんが手がける完全オーダーメードの結婚式とは。実際に式を挙げた岡田風花さんに話を聞きました。

岡田さん

結婚式を挙げた友人からは「アイドルみたいに忙しく、すごく大変だった」と聞きました。私たちは、ゲストも私たちも「楽しむ」という感覚を持てる式にしたいと考えました。

自然に囲まれた場所で式をしたいという岡田さんの希望のもと、柴田さんが提案したのは「森の結婚式」。ドレスだけでなくカジュアルな服を着たり、ゲストと自由に話ができる時間を長くとったりと、堅苦しくない空間にできるよう工夫を凝らしました。
「従来の結婚式らしいことは、まったくしなかった」といいます。

・披露宴が終わってから挙式 ・「ケーキ入刀」の代わりに「キャンプファイア」
・「誓いのキス」は「ハグ」に ・家族に手紙を読むのは新郎新婦2人とも

岡田風花さん
「その日だけの誓いのキスというのはなんだか嘘っぽいなと思って。疲れた時とかにくっついたりすると安心するし、自分たちらしい形での誓いができるからハグにしようと決めました。私たちは堅苦しいのは得意じゃないし、今回の形にしたからこそ、自由に動き回って楽しめたし、自分たちの言葉で感謝を伝えられたのはとても良かったです」

ウエディングプランナーの柴田さんは、オーダーメードにすることで、これまでの結婚式で当たり前とされてきたことを「本当に必要なのか」改めて見つめ直すカップルが多いといいます。

柴田さん
「従来の結婚式で当たり前とされてきた演出は、2人の思いを必ずしも反映したものではありませんでした。結婚式は、演出をどうするかという式の“外側”についての話ばかりになりがちですが、演出にどんな気持ちを込めたいかという“内側”の話をたくさんすることで、おふたりが主体となった式ができると思います」

“大切にしたいこと”コロナ禍で鮮明に

結婚式を挙げる人が減っている中で、興味深い現象があります。
披露宴の招待客数は6年連続で減少。しかし、招待客1人あたりにかける費用は2021年で9.8万円と、2005年の調査以来、過去最高を記録しているのです。内訳をみると、「一人当たりの料理費」や、引き出物などの「ギフト費」が増加しています。参列者にダイレクトに感謝の気持ちが伝わるものの費用が増加していて、参列者をもてなそうという思いが強くなっていることが分かるといいます。(結婚トレンド調査2021より)

ゼクシィ編集長 平山彩子さん
「新型コロナウイルスの影響で“大切な人”をすごく意識するようになったと思います。それは結婚する2人であり、2人を取り巻く人間関係でもあります。結婚式を挙げることが当たり前ではなくなった今、逆説的かもしれませんが、結婚式は自分たちの決意をきちんと伝えて承認をもらう『結び目』としての役割を持つ場となっていて、『そういうものだから』で片付けずに、自分たちらしい時間を過ごしたいと考えるようになっています。プライベートな側面がより重視されるようになることで、2020年代の結婚式の形はますます多様になると思います」

  • 高瀬 杏

    首都圏局 ディレクター

    高瀬 杏

    2017年入局。大阪局を経て2021年から首都圏局。 ジェンダーや多様性の問題に関心を持ち取材。

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