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ヤングケアラーたちのSOS「ゴール見えない」地域に“居場所を”

  • 2021年12月9日

「勉強と両立できるのか、ゴールが見えません」
親に代わり、幼い弟の世話をする若者からの切実な訴えです。

家庭内の困りごとの相談窓口に、いまヤングケアラーとみられる子どもや若者からの声が相次いで寄せられています。

こうしたSOSに少しでも応えたいと、“居場所”づくりを始めた女性がいます。
(首都圏局/記者 石川 由季)

「生きていることがつらい」 ヤングケアラーたちのSOS

精神保健福祉士で、杏林大学教授の加藤雅江さん。
日本精神保健福祉士協会が開設した「子どもと家族の相談窓口」に寄せられたメールへの対応を行っています。

この相談窓口は、家庭内での困りごとに精神保健福祉士たちが応じるものですが、ことしに入ってヤングケアラーとみられる子どもや若者からの相談が相次いでいるといいます。
 

日本精神保健福祉士協会のホームページより

 

寄せられたメールから抜粋

母は病気を持っていて、1年半ほど前から母の悩みを聞いたり、母と父のけんかの仲裁役をしたり、祖母の介護や家事の手伝いをしていました。ストレスがたまっています。

弟の世話(主に食事、入浴、見守り、寝かしつけ)を任せられ、自分の時間を削り育児を行っています。夜も面倒を見るので不眠となり眠剤を飲み始めましたが、朝のだるさが抜けず学校に行けなくなりました。つらくて弟に手をあげてしまいそうになりました。
勉強と両立ができるのか、ゴールが見えません。ピアサポート団体を調べたりしましたが、市町村にはなく、市町村自体もヤングケアラーの支援はしていなく八方ふさがりです。

妹を守るためと我慢してきましたが、心が折れました。
もう生きていることがつらいです。

対応にあたっている加藤さんは、相談が増えた背景の1つに「ヤングケアラー」の認知度が上がったことがあると考えています。

杏林大学教授 加藤雅江さん
「1回目の緊急事態宣言が出た直後に受け付けを始めたので、家の中で煮詰まってしまう子育て中の保護者からの相談が多くなると思っていました。しかし始めてみると10代・20代からの相談が多く、ことしはヤングケアラーとみられる人たちからの相談が増えました。『ヤングケアラー』という言葉が広まったことで、これまで家族のケアを疑問に思っていなかったけど、この先どうなるんだろうと心配を表出させた人が増えた印象です」

 

勇気振り絞ったのに支援につながらないと…

一方で、加藤さんはヤングケアラーたちが抱える課題に大人がどうアプローチできるのかは、まだ突き詰めて考えられていないと話します。

寄せられたメールに対し、問題点を整理して伝えたり、地域にある介護の相談窓口を紹介したりしていますが、うまく支援につながらないケースもあるからです。

例えば、祖父の介護をしているという若者からの相談。

地域の包括支援センターに行くようアドバイスしました。

しかし「祖父本人が介護を受けたくないなら支援はできない」と伝えられ、困りごとの解決には至りませんでした。

加藤さんは悩みを打ち明けても対応してもらえなかった、現状が何も変わらなかったときの影響を懸念しています。

精神的に追い詰められる中で誰かに相談をすることは、子どもや若者たちにとってかなりの勇気やエネルギーが必要で、そこで思いもよらない言葉や態度が返ってくると、二度と相談をしなくなる可能性があるからです。

「もっと早く出会っていれば」 救命救急センターでの気づき

加藤さんの思いの原点は、30年にわたって大学病院に勤務し、救命救急センターで患者のサポートにあたってきた経験にあります。

日々搬送されてくる、自ら命を絶とうとする人たち。
中には亡くなってしまう人もいました。

幼いころから虐待を受けたり、ヤングケアラーとして家族のケアを担ったりと、子ども時代に子どもらしく過ごすことができていない人たちも少なくなかったといいます。

「周囲にSOSを出せる大人はいなかったのか」

「私がもっと早く出会っていれば」

何かできることはないかという思いを募らせました。

加藤雅江さん
「病院で初めて出会って支援をしていきますが、相手が若ければ若いほど、“はじめまして”の関係では相談してくれません。何もない、困っていないときから身近に信頼できる大人がいれば、違う結果になった(搬送されなくても済んだ)のではないかと思ったんです」

誰が来てもいい“居場所”を

悩みを抱えた子どもや若者が深刻な状況に陥らないためにも、地域の身近なところに居場所が必要と考えた加藤さん。

仲間とともに、都営住宅の一角で「子ども食堂」を始めました。

「ヤングケアラーの支援をしています」とか「生活が苦しい家庭の子どもを支援しています」と言うと、来るのをためらう子がいるかもしれないため、こう伝えています。

「誰でも来ることができる場所だよ」

新型コロナの感染拡大で、現在は弁当を配付する形にしていますが、以前は食事の前にみんなで宿題をしたり、遊んだりする時間も設けていました。

子どもたちにとって楽しい場所にすることで、気軽に足を運んでもらいたいと考えたからです。

取材に訪れた日は、保育園児から高校生までおよそ80人が次々にやってきて、用意した130人の弁当はあっというまになくなりました。

親やきょうだいの分までたくさんのお弁当を受け取って帰る子もいれば、なかなか帰らず元気に友だちと走り回る子、弁当を受け取るとさっと帰る子、さまざまな子どもたちの姿がありました。


加藤さん

あれ、きょうお姉ちゃんの分のお弁当はいらないの?


子ども

うん、きょうは食べて帰るって

 

加藤さんと子どもたちのやりとりを聞いていると、何気ない会話を通して困っていることはないか、SOSを発していないか、一人ひとりの子どもたちに、心を配っていたのが印象的でした。

加藤さんは子どもたちが家庭や学校にいるのが苦しくなったとき、少しの時間だけでも安心できる居場所、そして地域の大人たちとつながれる場にしたいと話しました。

加藤雅江さん
「大人に頼ってもいいんだって思ってもらえるような働きかけをしていきたいし、ヤングケアラーと言われる子どもたちに、『相談したら対応してもらえた』という経験をしてほしい。お弁当を通して関係ができてきて、何か困ったときに相談に来ようと思ってもらえる居場所づくりを続けていきたいと思っています」

  • 石川由季

    首都圏局 記者

    石川由季

    2012年入局 大津局・宇都宮局でも福祉の問題を取材

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