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電車内の犯罪どう防ぐ? 不審者を体の振動の変化で見抜くシステムとは

  • 2021年12月3日

京王線の電車の中で起きた切りつけ事件などをどう防ぐのか。
社会に不満を抱き、ふつふつとした怒りを募らせて現場に向かう不審者を見抜く技術開発が進んでいます。そのひとつが、不審な動きをする可能性がある人の「体の振動の変化」を防犯カメラで察知する技術です。
京王線事件の容疑者の映像を使ってその効果を検証しました。
(首都圏局/記者 生田隆之介)

犯罪防止の切り札に? ディフェンダーXとは

東京・江東区にあるミニチュアのフィギュアやジオラマを楽しむことができるテーマパークを訪ねました。まず来場客を出迎えるのは、壁一面の大画面モニターです。

このモニターには、来場客の姿を撮影した防犯カメラの映像がリアルタイムで映し出されています。

映像を見ると、ただの防犯カメラではないようです。映された客の姿が、緑の枠で囲まれています。これが、最新のセキュリティーシステム「ディフェンダーX(エックス)」です。

SMALL WORLDS TOKYO 近藤正拡社長
「不審な行動をとろうとしているかもしれない人を検出することができます。
通常は緑の枠ですが、緊張や不安が高まっている人は、赤に変わります。不審な行動をとろうとする人は、赤い枠がつくので、スタッフが警戒することにしています」

精神状態を可視化する最新システム

ディフェンダーXを開発したのは、東京・品川区にある企業です。防犯関連のソフトウエアを開発・販売しています。

このシステムは、ロシアの研究機関が、事件を起こした人物の映像などから集めたおよそ10万人分のデータをもとに作られました。不審な動きをする可能性がある人の「体の振動の変化」を解析しているといいます。

ELSYS JAPAN 新 久雄 技術部マネージャー
「人間は常に、目には見えないほど微細に振動しています。この振動が、極度の緊張や不安など、通常と異なる精神状態の場合、大きくなるなどの変化があります。これを捉えて視覚的に見えるようにしたものが『ディフェンダーX』です」

ロシアでは、ソチオリンピックの競技会場などで同様のシステムが使われ、1日あたり2,600人余りが検知されました。このうち92%が、酒類など持ち込み禁止のものを所持していたり、不正なチケットを所持していたりしたということです。

既存の防犯カメラのシステムにソフトウエアをインストールすれば利用できるということで、国内ではこれまでに、平成28年のG7・伊勢志摩サミットや、ことし開かれた東京オリンピックの自転車競技の会場でも導入されました。

京王線事件は未然に防げた? 可能性を検証

このシステムがあれば、京王線の事件を未然に防ぐことはできたのでしょうか。

NHKは服部容疑者の映像を解析してもらうことにしました。
映像は、京王線の電車に乗る前、ハロウィーンの仮装をした人などで混雑していた渋谷の街を歩く容疑者が写っていたものです。

スクランブル交差点を歩く映像は、歩きながら撮影されたもので、振動を検知することが難しいうえ、容疑者が写っていたのがほんの一瞬だったため、解析できませんでした。

解析することができたのは、同じく事件前、渋谷駅前を歩く服部容疑者をとらえた防犯カメラの映像です。

画面奥から歩いてくる容疑者には、最初は緑の枠が表示されます。
しかし、警察官の前にさしかかると、枠が赤に変わりました。

新 久雄マネージャー
「警察官の前で赤くなったのは、なにか行動を起こそうとしているときに警察官を見て、緊張が一気に高まったからだと考えることができます。ただ、これをリアルタイムで見ていたからといって、事件を防げたかどうかはわかりません。しかし、警察官が声をかけたり、駅員が近くで警戒することはできたかもしれません」

導入のきっかけは“京アニ”

ディフェンダーXが公共空間で起きる犯罪を防ぐ切り札となるのかどうかは未知数です。
しかし、何とか事件を未然に防ぎたいという強いニーズがあるのは確かです。

記事の冒頭で紹介したテーマパークがシステムの導入を決めたのは、開業前のおととし7月。京都市伏見区にある「京都アニメーション」のスタジオが放火され、社員36人が死亡した事件が起きたことがきっかけでした。

不特定多数の人が訪れ、ほとんどが新規の客となるテーマパークという性質上、こうした犯罪のターゲットになることも考えられる。事件を受けて急きょ、安全対策の強化について会議を行い、このシステムを導入することにしたといいます。

導入から1年半ほどたちましたが、これまで実際にアラートが出たのは1件だけです。
スタッフが「何か困りごとがあれば言ってください」と声をかけに行ったといいます。その客はお酒に酔っているように見えましたが、施設内でトラブルは起きませんでした。

“見ている”アピールで抑止へ

仮に「アラート」が出たとしても、その人が本当に犯罪行為をしようとしているかはわかりません。開発会社によると、声をかけてみたら体調不良だったというケースも実際にあったそうです。
このため、直接行動を制限することや、取り押さえることにはつながらず、あくまでも「警戒」と「抑止」の効果に限られ、このテーマパークでも、運用方法を試行錯誤している状態です。

SMALL WORLDS TOKYO 近藤正拡社長
「アラートが出たからといって入場を禁止したり制限したりはできません。犯罪者を見つけることよりも、モニターを客側に見せることやスタッフの声かけなどを通じて『しっかり見ていますよ』とアピールすることで、施設内での犯罪行為の抑止につなげたいと思っています」

取材後記

日々進化するセキュリティーシステム。
このシステムがあれば、事件を未然に防げたかはわかりませんし、こうした犯罪は100%防ぐことはできるものでもないと思います。しかし、電車の円滑な運行と乗客の身の安全の両方を守るためには、あらゆる技術や方法を駆使することも考える必要があると思います。

  • 生田隆之介

    首都圏局 記者

    生田隆之介

    2014年入局。長野局、札幌局を経て首都圏局。長野局で軽井沢のスキーバス事故を担当し、公共交通の安全や事故防止対策について取材。

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