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“ジェンダーレス制服”導入広がる 学校の「男女分け」に苦しむ生徒も

  • 2021年11月19日

「男子用の制服を着ると、『お前は男なんだ、男はこうあるべきだ』と毎日言い聞かされているような気分だった」
そう語るのはトランスジェンダーの学生です。
男女が明確に区別された学校の制服を着るよう強いられることが、心の重荷になる子どもたちがいます。 
ジェンダーへの配慮が求められる中、東京・江戸川区では性別に関係なく制服を選択できる学校が増えています。自由な制服を求めて署名を集め、都の教育委員会へ申し入れをした卒業生も。いま、制服のあり方を見直す動きが広がっています。
(首都圏局/記者 岡部咲・浜平夏子)

学校での男女の区別について、ご自身の体験やご意見をこちらからお寄せください。

広がる制服選択制 スラックスは「男子用」から「A型」に

 東京・江戸川区では中学校の3分の1で今年度、制服選択制を導入しました。 
このうち瑞江第二中学校では、スラックスかスカート、そしてネクタイかリボンの組み合わせを自由に選択できます。 

教室には、スラックスにリボンの生徒、スカートにネクタイの生徒など、みんな自分の選んだ組み合わせで登校しています。

 

女子もネクタイ、スラックス着ていますよ。

 

個性が出ていいなと思う。

さらに、この学校では制服の呼び方も改めました。 
これまでスラックスを男子用、スカートを女子用と呼んでいましたが、ストレートのスラックスをA型、スカートをB型、丸みを帯びたスラックスをC型と呼ぶことにしました。

瑞江第二中学校 滝澤清豪校長
「ふだんの生活でスカートをはかないという女子もいますし、性別に違和感があるという生徒もいますので、どんな生徒も学校生活をおくりやすいように制服選択制を導入しました。保護者などから批判があるかもしれないと思いましたが、逆に『なんで早くやってくれなかったのか』など好意的な声ばかりでした」

どうして制服は男女別なのか

そもそも、制服はなぜできたのか。
学校現場の制服や校則に詳しい、関西学院大学の桜井智恵子教授に聞きました。 

桜井智恵子教授
「明治時代に、軍服をもとに男子の制服ができ、そのあと女子の制服ができたのが今の制服のルーツです。男子は富国強兵を支える存在として強くたくましく、女子は良妻賢母になって男性を支えるようにという考えで教育されていました。戦後、男女共学になりましたが、男女別々の制服はそれぞれに求めるイメージを象徴したものといえます」 

ジェンダー平等が進められる令和の時代にまで、男女の役割分担がイメージされた制服が残っているのはなぜなのでしょうか。桜井教授は、学校現場がますます多忙になり、男女で分けた管理を“変えると混乱する”と考えられていると教職員たちから聞き取っています。 

桜井智恵子教授
「今はなくなりましたが、以前は、男子は技術、女子は家庭科などと男女で授業を分けていたため、教員にとって男女で分けた方が管理しやすいという側面がありました。社会は昭和、平成、令和と時代が移り変わるのに合わせて、性別による役割分担の意識が変わってきましたが、学校現場は社会の目が届きづらく、“昔の価値観のまま”の傾向が強いという理由がひとつあります。また、現在の多忙な学校で、昔から続けてきた男女を分ける管理をやめれば学校が混乱するし、個別対応が必要になり手間がかかる、と考えているのです。」

制服きっかけに無意識の男女分け見直そう

江戸川区の瑞江第二中学校では、制服を選択制にしたことがきっかけとなり、無意識のうちに潜んでいた男女分けについて教員たちが考え、意識を変えることにもつながっています。 

まずは、生徒の出席簿。 
これまでは男子を先に、女子をあとに並べていましたが、男女混合の五十音順に並び替えました。本当に男女別にする必要があるのか、改めて見直したのです。この中学校では、出席簿が男女混合になったことから、生徒の下駄箱も男女混合の名前順です。 

さらにトイレの表記についても、色を男女とも黒に統一。男子が青、女子が赤と、性別を色で分ける固定観念も改めました。 

池田摩美 主任教諭 
「中学校の中での慣習文化は男女別が多かったので、教員側もなんとなくそれが普通のように感じていました。今は、男女を分けないことを意識するようになったと思います。生徒を呼ぶときも、“さん付け”で統一して呼んでいます」 

“制服に自分を否定される”苦しみ知ってほしい

一方、制服の存在に苦しんだ当事者が、賛同者を集めて東京都の教育委員会に見直しを求める申し入れを行うという動きもありました。

署名を提出したのは、ことし春に都立の中高一貫校を卒業した大学生で、戸籍は男性ですが、心と体の性別が一致しないトランスジェンダーです。

卒業した都立の中高一貫校の中学の課程では、女子の制服はスカートかスラックスかを選択できましたが、男子はスラックスしか選ぶことができず、強い違和感を持ちながら3年間、スラックスをはいて過ごしました。 

大学生
「まわりの生徒の多くは制服についてあまり気にしていませんでしたが、私にとって制服は自分自身を否定するものでした。なぜ性別で制服を分けるのだろうかと悔しい思いを抱きながら日々を過ごしていました」

“制服によって苦しめられ、学校に行くことが難しくなっている人が少なからずいる” 
大学生は去年11月(当時はまだ高校課程)、行動を起こしました。誰もが性別などに関係なく制服を選べるようにすることを都の教育委員会に求めて、オンラインで署名活動を始めたのです。およそ1年で1万1500人あまりの署名が集まりました。 

大学生 
「性別によって違う服装、見た目を強要することには、もはや何の意味もない。社会は少しずつ変わっているのかもしれないが、なぜ学校はこんなに歩みが遅いのか。子どもの悩みに寄り添う新しいルールを早く作ってほしい」

会見のあと、改めて大学生に話を聞きました。
学校生活を振り返ると、“男性と女性は本質的に違う”とすり込まれていると感じる場面が多くあったと言います。例えば、体育の授業では、クラスを男女で完全に分けて、それぞれ別の教員が担当して、行う種目も分かれていたといいます。授業以外でも、重い荷物を運ぶなど力が必要な作業があるときに教員が男子生徒を指名することや、文化祭のために室内を紙で作った花で装飾するときなど、細かな作業は女子がやるものだという雰囲気もあったそうです。学校での生活には“男女はそもそも別だ”という考えが深く根付いていると感じてきました。

大学生 
「“今までこうだったから正しい”というのを続けると、 “女性だから、男性だから”という前時代的なジェンダー規範が次の時代にも再生産されてしまう。これまで前提とされてきた“制服や服装は男女で違う”という考えが、そうではないのだと気づくことで、当たり前だと考えてきた事柄を考え直すきっかけになってほしいです」

レインボーフラッグを掲げる理由“居場所はある”

取材した江戸川区の中学校の保健室のドアには、さまざまなセクシャリティーの人を支援する意味をこめて“レインボーフラッグ”が飾られていました。まるで学校の取り組みを象徴しているかのようで、強く印象に残りました。

滝澤清豪校長
「フラッグを見て、『悩みを相談できるんだ、自分の居場所はあるんだ』と子どもたちに感じてほしいと思います。伝統を守ることも大事ですが、その伝統が本当に今、必要なのか、時代にあっているのか、立ち止まって考えてみないといけないのだと思います」

今後も“学校現場での無意識の男女分け”をテーマに取材を継続します。
学校で、児童や生徒が性別に関係なく能力を発揮できる環境をどのように作っていくべきか、考えていきたいと思います。 

学校での男女の区別について、ご自身の体験やご意見をこちらからお寄せください。

  • 岡部 咲

    首都圏局 記者

    岡部 咲

    2011年入局。宮崎局、宇都宮局を経て、現在は教育などを担当。

  • 浜平 夏子

    首都圏局 記者

    浜平 夏子

    2004年(平成16年)入局。宮崎局、福岡局、さいたま局を経て、2020年から首都圏局。医療取材を担当。

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