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男女別定員制 清田隆之さんに聞く「なぜ僕らは“感情的”に反論してしまうのか」

  • 2021年10月20日

東京都立高校入試の男女別定員制。性別によって合格しやすさに差があり、女子がより不利益を受けやすいというこの制度について、首都圏ナビでは、3月から継続して伝えてきました。
記事への反響の中には「女子は上位校にチャレンジしない」「男子は内申点で不利だから」という理由で制度を肯定する声が少なくありませんでした。男女が性別に関わらず評価されるべきという前提に異論が出る背景には何があるのでしょうか。
恋愛やコミュニケーションにおける男女のすれ違いについて考察してきた文筆家の清田隆之さんに話を聞いてみました。
(首都圏局/ディレクター 木村桜子)

入試めぐる不平等な構造に驚き

清田さんは学生時代から女性の恋愛相談を聞くことを通して、男性の考え方や行動に共通のパターンがあることに気づき、恋愛とジェンダーに関する発信を続けてきました。

・彼女の服装や、行きたいアトラクションがあることなどを考慮せず、“喜ぶだろう”という気持ちだけでディズニーランドに突然連れて行ってしまう 『サプライズ・ディズニーの悲劇』
・交際し始めると、彼氏が当たり前のように約束の時間に遅刻するようになったり、デリカシーのない発言をするようになった 『2人の距離と気づかいレベルの相関関係』
・男性は「思い通りにならない」こと、女性は「思いが伝わらない」ことが原因で不機嫌になることが多い。女性にあって男性にない『感情の言語化』
『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』より

 

ジェンダーの問題に関心の高い清田さんも、中学・高校は都内の私立男子校に通っていたこともあって都立高校入試の男女別定員制については全く知らず、報道に驚いたそうです。

ジェンダーについて興味を持ってものを書いたりしゃべったりしてきましたが、2018年の医学部不正入試のニュース(※)があるまでは、入試をめぐるジェンダーの問題をお恥ずかしながら全然知らなかったというのが正直なところです。
受験という実力や努力が結果に正比例するはずの世界に、そんな不平等な構造が埋めこまれていたというのは衝撃でした。
自分は男なので、どちらかというと優遇される側に入っていると思います。理不尽でとんでもないニュースだなと思いつつ、男性という立場としてこの問題をどう考えていけばいいのか、すごく難しい気持ちでいました。

※医学部不正入試とは
東京医科大学が医学部の入学試験で、女子の受験生全員と3浪以上の男子受験生の点数を操作し、合格者の数を意図的に抑えていたこと。その後、複数の大学でも不適切な入試が行われていたことが明らかになった。

清田さんが考える 男女格差を“肯定”する声

男女別定員制への反響のなかで清田さんが注目したのは、男女で差が生じていることを肯定する意見です。
「女子は難関大学にチャレンジしないから現状のままでいいのでは」とか「男子は内申点が良くないからテストで調整することは必要」といった声がありました。
こうした意見を清田さんはどう考えるのでしょうか。

僕もそういった意見を目にしました。中には「でも、東大に行くのは男が多いよね」みたいな声も多かった。女子のほうがより高い成績を求められていたというニュースに対して、トップはやっぱり男のほうが多いみたいなデータを持ちだして、結局男が上っていうふうに…。それによってその人の何が満たされているんだろうと、なんとも複雑な気持ちになりました。

現代の問題全般に言えることだと思うのですが、政治家の女性蔑視発言や、表現が差別的だとしてたびたび炎上するCM、日本のジェンダーギャップが大きいという報道など、ジェンダー絡みのニュースがあると、必ずといっていいほどその手のリアクションが一定数起こります。構図的に言えば、男は加害者で、得をしている側で、無自覚で…と悪者扱い、犯人扱いみたいにされて気分が良くないというのが基本的にはあると思います。
そういう扱いを受けたときの感情的なうっぷんを晴らすために、いろんな屁理屈(へりくつ)を持ちだしているように思えてなりません。医学部入試問題のときも「結局ハードワークに耐えられるのは男の医者だ」「女はどうせ妊娠、出産で辞めちゃう」といった意見がありましたし…。

論理的に見えるけど…

率直に「女に負けて悔しい~!」とか、「男のほうが優秀って俺は思いたいんだ~!」と書いてくれれば、そうなのか…って思うけど、「内申点は女子のほうが高いから、テストの点だけで判断されたら男子は不利だ。だからこの制度は合理的なんだ」と。これは感情的な話じゃなく、ロジックとしてこうなんだというのは、なんだか筋違いな反論のように感じます。
内申点が男子のほうが低いといわれるのはなぜか、そこにどういう問題があるのか。仮に男子生徒の個人の努力ではどうにもできない要因があるなら、教育の機会を増やして、男子の実力を底上げするための措置を学校や塾などでとっていくっていうのが、たぶん論理的な解決策になっていくはずなんですけど、そういう方向の議論にはなかなかならないですよね。

よくジェンダーの問題で「女性は痴漢の被害で困っているというけど、男だって痴漢えん罪のリスクがあるんだ」っていうことを持ちだす人たちは、結局のところ痴漢えん罪の問題を問題にしたいわけじゃなくて、うるさい黙れって言いたいのでしょう。だって理屈で本当に考えるとしたら、痴漢被害も痴漢えん罪の被害も痴漢する人によって生み出されているわけじゃないですか。
「みんなで痴漢なくそうよ」ってなるのが、一番論理的だと思うんですけど、「いや、俺らは痴漢えん罪の恐怖と戦っているんだ、社会的にキャリアが全部失われることもあるんだこっちは…」みたいな理屈をぶつけてくる人がいる。それはどう考えてもおかしいですよね。理屈だけで考えるんだったら痴漢そのものをなくすことがすべての解決策になるわけですから。

男性にもある「しんどさ」 切り分けて考えよう

男性が女性を“差別する側”として位置づけられたと感じたとき、「俺はそんなことしない」「俺たちにもしんどいいろんな事情がある」と言いたくなる気持ちは分かります。男性だから稼げ、いい大学に行け、負けるな、そんなプレッシャーがかかっている現実は確かにあると思うので。そうしたしんどさは、それはそれとしてちゃんと向き合っていくべき問題だと思います。でも、そのしんどさを考えることと、受験において不平等な構造が放置されていることは本来関係がないはずです。

SNSのつぶやきやニュースのコメント欄などを見ていると、女の人ばっかり得してケアされているように映るのか、「男のしんどさは無視されている」「今はむしろ女尊男卑じゃないか!」という声が散見されます。ジェンダーに対する関心が高まり、性差別にまつわるニュースを頻繁に見かけるようになった今、そういう意見を持つ人たちには社会やメディアが女性のほうばかり向いているように見えるのかもしれません。でも、やっぱりどう考えても、ジェンダー格差を是正しようという動きに対して「男のほうがつらいんだ」って声を浴びせることはおかしいですよね…。

男性も声を上げればいい

男性が優位の社会で、女性の不平等をうったえると反発の声が上がる現状に疑問を呈する一方で、清田さんは制度がここまで維持されてきたことに対し、男性も怒っていいのだといいます。

男子にとっても失礼な制度ですよね。言い方は悪いですが男子に対して「おまえらに下駄履かせといてやったぞ」みたいな制度でもあると思うので。
しかも、制度がある時期までは機能していたけれど、男女の教育機会の不平等が少しずつ埋まってきて、学力差がほぼなくなってきたよねっていう段階で、いずれこの制度は問題をはらむことになるだろうって予測していた人は絶対にいたはずなんです。
その上で「女子は高い点をとっても不合格になる、男子は低い点でも受かる人がいる」という状態を続けてきたのが実態ではないかと想像します。
それに対して、これは俺たち男性もばかにされた制度だ、得しちゃってる部分もあるけど、点数低くても入れてやるよっていう扱いは男性としても到底受け入れられるものではなく、この問題は積極的に解決してほしい。あるいは男子生徒の内申点が低いとされる原因や男女で差がついてしまう理由を分析して、必要な措置をとってほしい。男性たちが政府や都に対してそういった声を上げていくことはとても大事だし、問題解決のために不可欠なアクションではないかと考えています。

  • 木村桜子

    首都圏局 ディレクター

    木村桜子

    2012年入局。大阪局、神戸局などを経て2020年から首都圏局。保育や教育、ジェンダーの問題に関心を持ち取材中。

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