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コロナ禍で廃棄寸前の酒米 海老名市の酒蔵 逆転の発想で新メニュー

  • 2021年10月20日

新型コロナウイルスの影響で、飲食店での酒の提供が制限されるなか、日本酒の消費が低迷。酒造りの現場を直撃し、原料の酒米が余る酒蔵も出ています。使いみちがほとんどなくなった酒米を捨てずに活用する道はないのか。
神奈川県海老名市の酒蔵は、“逆転の発想”で酒米を使った新しいメニューを開発、苦境を乗り越えようとしています。
(横浜放送局/記者 岡肇)

収穫の季節なのに…

青空の下、黄金色に輝く田んぼ。9月、神奈川県海老名市で、日本酒の原料となる「酒米」の収穫が始まりました。

地元で江戸時代から続く酒造会社の社長の橋場友一さんは、25年ほど前から、地元の農家と一緒に、酒米を栽培するなど地域に根ざした酒造りを続けてきました。

泉橋酒造 橋場友一社長
「酒造りは、米作りからという信念にこだわっています。この田んぼが広がる環境は、先達の人たちが作って、ずっと続いてきているものなので、それを守る使命が我々にはある」

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大は酒蔵を取り巻く状況を一変させました。日本酒の需要は落ち込み、橋場さんの酒蔵でも、飲食店向けの売り上げは、新型コロナの影響が出る前に比べて、およそ4割減りました。

泉橋酒造 橋場友一社長
「今まででは考えられない状況が続いています。かなり先行きが暗いというか、このままでは厳しいです」

影響を小さくしようと、インターネットなどを通じた個人向けの販売を強化してきましたが、売り上げの落ち込みをカバーできるほどには至っていません。

結果的に、原材料の酒米は行き場を失っています。新米の収穫が始まるなか、酒蔵の倉庫には、去年収穫したおよそ20トンの酒米が、使われないまま積み上げられています。

倉庫が埋まってしまうのを防ぐため、表面を磨き、およそ半分の量に精米した状態で保管していますが、精米した酒米は、酒造り以外にほとんど使いみちがありません。
しかし、地元の農家と二人三脚で酒造りを続けてきたため、酒米の生産量は大きく減らさないよう、買い取りを続けています。

泉橋酒造 橋場友一社長
「このまま在庫が積み上がったままなら、廃棄せざるを得なくなってしまうかもしれません。それでも、お願いして、米を作ってもらっているものですから、農家さんへの責任があります」

余った酒米を活用したい! しかし課題が

農家の収入を減らさず、酒米も捨てずに済む方法はないか。悩んだ橋場さんは、地域の人たちの力を借りることにしました。

橋場さんは、付き合いがあった県内を中心に介護施設や小中学校などに給食を提供する隣の大和市内の会社を訪ね、酒米を使った新しいメニューの開発ができないか相談しました。
そして、酒蔵の倉庫に積み上げられた酒米を使って、新たな商品開発を行うことが決まりました。

給食提供会社 安田幹仁社長
「酒米をこのままにすれば、捨てるだけなので、それはもったいない。コロナで困っている同じ県内の業者なので、少しでも役に立ちたかった」

早速、開発が始まったものの、高いハードルがありました。米の表面を半分近くまで削った酒米は味がほとんどなく、独特の粘りもあるため、料理に使うのが難しいのです。給食で提供できる新たなメニューの開発は難航しました。
しかし、3か月近く試作を繰り返すなか、酒米の課題だった部分が突破口となったのです。

味の薄さは、濃い味の料理に使うと味がなじみやすく、特にリゾットと相性がいいことが分かりました。また、独特の粘りは、ピザの生地にすれば、もちっとした食感として楽しめることが分かりました。

泉橋酒造
橋場社長

うまい。酒米は水をよく吸ってしまいますが、それが逆にもちもちした食感につながっていいですね。

給食提供会社
安田社長

普通の米と餅米の中間みたいで、食感も新しく、いい方向に転がっていますね。

 

弱点を強みにする逆転の発想で、精米された酒米は食用には向かないという先入観を壊し、10品ほどのメニュー開発につながりました。

酒米が子どもたちに笑顔を

試行錯誤の末、生み出された酒米を使ったメニューは、県内の幼稚園や保育園などで9月から給食として提供されています。
9月27日に、横浜市内の幼稚園で出されたおやつは、酒米の生地を使ったケーキでした。小麦粉が使われていないため、小麦アレルギーがある子どもも食べられます。

おかわりをする子も相次ぎ、食べ終わったあとに、先生が「おいしかった人」と尋ねると、ほとんどの子が元気よく手を挙げていました。

 

おいしかった!

地域の連携と工夫でコロナ禍乗り越える

廃棄される寸前だった酒米。地域の人たちが力を貸してくれたことで、子どもたちに笑顔をもたらす「給食」に姿を変え、酒蔵を取り巻く地場産業を守ることにもつながっています。
橋場さんは、地域の連携と工夫で、コロナ禍の逆境を今後も乗り越えていきたいと考えています。

泉橋酒造社長 橋場友一さん
「われわれの酒米を給食に使ってもらい、いっしょに地元の農業を守っていただけることに心強さを感じています。新型コロナで厳しい状況が続きますが、うまくいかないままにして、農業を辞める人が出てもいけないので、とにかく今は頑張り時だと思っています」

取材後記

新型コロナは、多くの人の暮らしや仕事に影響を与えています。一方で、苦境のときこそ、これまでなかった工夫や連携が芽生え、地域に新たな風がふくきっかけになるのかもしれません。取材を通してそのような希望も感じました。

  • 岡 肇

    横浜放送局 記者

    岡 肇

    2012年入局。岐阜局、秋田局を経て30年から現職。県央地域や相模原障害者殺傷事件を担当。

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